22:動揺
サークルには行く、と言ってはいたが、その日もその翌日も、保科は姿を見せなかった。
……当たり前か。いくらなんでもすぐに切り替えろなんて無理がありすぎる。さりげなく後輩に聞けば講義にも姿を見せておらず、ケータイも出ないとか。
一人暮らしで体調を崩したときの辛さは俺も良く知ってる。このまま死んじまうんじゃないかって思うときもある。迷った挙句に俺は念のため、なんて自分に言い訳をかましながらサークル名簿で保科の住所を控えた。
……行くのか?
そんな自問に答えは出ない。行くべきじゃないんだろう、ということだけはわかる。わかってる。念のため、だ。
夕方、俺はまたも念のため、と言い訳をしながらケータイのメモリを繰った。保科麻衣子。メールアドレスはそういえば聞いてなかった。
表示された携帯番号をしばらく眺め、バックライトが消えた直後に通話ボタンを押す。無粋な呼び出し音が一回、二回…と続き、七回コールし終えたところで電話を切った。
もしかしたら寝てるかもしれないし、もしかしたら俺からの電話は迷惑なのかもしれない。いや、もしかしたら電話に出られないほど具合が悪くて―――
嫌な想像を打ち消すように無意識に頭を振った。しかし不安は消えはしない。関わるべきじゃない、っていうのも理解はしてる。頭では。
二時間後、俺はすんなりと保科のアパートを見つけていた。きちんと区画整理された街だったのが幸いで、丁度南東の角、白いアパートの二階がそこだった。部屋には明かりがついていて、主の在宅を示している。
……どうするか。女の子の部屋にいきなり訪ねてくってのも問題ありだろうな。
白いアパートを見上げて俺はもう一度ケータイを取り出し、発信履歴の一番新しい番号を表示させて通話ボタンを押す。今度は六回目で、相手が出た。
『……もしもし』
「保科? ええと、俺、高瀬です。高瀬裕也」
『……はい』
「大丈夫か? 大学も休んでるって聞いて、それで……」
電話の向こうは沈黙だ。どうしよう。何を言おう。何を言える? 混乱した頭で次の科白を探す。見つからなくて焦った俺はつい、事実を口にした。
「あのさ、今、俺、保科んちの傍まで来てるんだ」
『――え?』




