02:酔客
花は満開、酒はまあまあ、食物は――まあ妥協するとして。多少羽目を外すのくらいはアリだろう。実際、既に酔いは回っている。
結局夜になってから集まってきたメンバーが増えて、三十人近い団体に膨れ上がった俺たちは、昼間からしいていた青いシートの上でちらちらと零れる花びらと一緒に気炎を上げていた。
「先輩先輩、飲んでます〜?」
ひとつ向こうから、悪戯っぽく笑った保科が俺の手から缶を取り上げた。
「あ、もう空っぽじゃないですか〜新しいの新しいの――ハイ」
口調はしっかりしてるものの、手はゆらゆらとおぼつかない。顔には出ない性質らしく、普段の保科とあまり変わりはない。
「お前、もう酔ってんだろう? その辺にしとけよ?」
手渡された新しい缶ビールはそのままに、保科の手からヒョイと缶を奪う。
「そんなことないですよぅ〜ホラホラ、まだこれから審判だってできますよ〜」
……酔っ払ってやがる。保科は俺が奪った缶はそっちのけ、新しい缶を取り出してプルトップを引いた。
「こらこらこら、止めとけって」
「あーんずるーい」
ちろりと上目遣いになった保科に俺は正直なところ、どきりとした。認めよう。そんなコトはおくびにも出さず――よかった、酒の所為で頬が赤くなっていて――俺はもう一度、保科の手から缶を奪う。
「んじゃあ先輩、私の分まで飲んでくださァ〜い」
ちょっと拗ねたように言うけれど、気分を害したわけではないらしい。じっと、俺がいつ飲むかいつ飲むかと見つめている。
「こら酔っ払い、大人しく烏龍茶でも飲んでろよ」
「え〜〜〜、せっかくのお花見なのに〜……あ。お茶、切れちゃってる」
並べた缶の中にそれがなかったのを嬉しそうにそう報告し、満面の笑みで俺の手の缶を寄越せと両手を差し出した。
……これ以上飲ませられるか、こんな危ない奴に。
「わかった、俺が買ってきてやるから、待ってろ」
ポンと頭を叩くと、保科は不満そうに唇を尖らせる。
「えーだってー、早く飲みたーい」
「うるさい、待ってろ」
それだけ言うと、俺は空けたばかりの缶ビールを手にしたまま立ち上がった。
立ち上がると、妙に桜が近く見える。
ちらりと上に視線をやって、少しだけささくれた気持ちが治まったような気がしていた。