15:曇天
重苦しい気分で俺はそのまま大学を出る。どうせ休講だったし……それでも、真っ直ぐ家に帰る気にもならない。
……保科、どうしたんだろうか。口も利かないなんてあいつらしくない。俺本当、なんかしたのか?
考えても答えは思いつかず、何度めかの溜息で俺の視線は足元に落ちる。そこへふと、風に飛ばされた落ち葉が絡む。いや、落ち葉じゃないな。色が―――
ピンクの天井が一瞬瞼に蘇る。そして、彼女のことも。
名前も知らなかった。でも彼女があの瞬間何を考えているかだけはわかった。いや、逆説的に言えば俺はそれしか彼女のことを知らない。そして彼女が何故、あの桃色の天井にそんなに罪悪感を抱くのか、その理由さえもはっきりとはわからない。
俺も同じ思いを感じるからだ、と今更ながらに気付く。
靴に触れたそれはまた風に嘗められて、さっとその姿をくらませた。まるで彼女みたいだと苦笑して、そしてふと、思いつく。
公園の中、あまり人通りのない一角。俺が缶ビールを落としたところだ。彼女がいるかどうかはわからない。でも、なんとなく胸が騒いだ。
風がさあっと撫でていって、そして俺の視界はピンクの水玉模様のようになる。はらはらと泣いているようなその仕草に、俺は足を速めた。
まるで彼女のようだ、と思った。風が凪ぐといつものように力いっぱいその生を誇示していたけれど、揺さぶられて涙する様は彼女のようだった。
その涙の中に、彼女がいた。真っ直ぐに天井を見上げ、そしてその瞳を見開いたまま桃色を見つめていた。彼女の頬にぽろりと零れる涙は、天井の色を映してこれもまたピンク色に見えた。