13:無言
俺は結局、保科に嘘をついたことになった――そのまま夕方まで学食で過ごした後、あの公園へと行ったからだ。多少罪悪感がないわけでもないが、何かを約束したわけじゃないし……いいか。
夕刻、太陽がオレンジ色に空を染め、そのときばかりはピンクの天井はオレンジに染まる。仕事帰りらしい人の足音がするたび、俺は振り返る。完全に彼女を探していた。探してどうするのか、俺にもわからない。それでもただ、もう一度会いたかった。会って何を話せるのかわからない。俺と彼女の間に何かがあったかなんてこともわからない。
けれど、彼女の姿は見つからなかった。
それから三日続けて公園に通い、そして三日とも彼女の姿に掠ることさえなく俺はそれきり、公園へ行くのを止めた。
「あ……」
久々に顔を出したサークルで、真っ先に俺に気付いたのは保科だった。小脇にラケットを挟んでボールの入った籠を抱えた保科が俺を見て一瞬声を詰まらせ、そして上目遣いに睨む。
「先輩、こないだ来るって言ったのに」
拗ねたようにも見えるその仕草に苦笑して、ぽんと頭に触れる。
「悪い、いろいろあってな」
いつもならその程度で済む筈が、保科は黙ったままだ。覗き込むようにしてその顔を見ると、ふいっと逸らされた。
「なんだよ、どうした?」
返事はない。それどころか、ずんずん足を速めていく。大股でそれに追いつきながら、俺はどうしたものかと思案する。まさか、そんなに怒ってるとは思わなかった。……なにかあったのか?
「保科?」
再度、覗き込むようにすると保科は無理に身体を捻ってそれを避け、そしてその拍子に腕が緩んでラケットが落ちかける。
「あ」
それを拾おうとして伸ばした手の所為で抱えていた籠が揺れてバランスを崩して落ちる。黄色いボールがゴロゴロと広がった。
「あーあ、お前、何やってるんだよ。ほら、手伝ってやるからはやく―――」
足元に転がった二個を掴んで差し出した手が保科に払われて、俺は途中で言葉を飲み込んだ。
何故だか目に涙を溜めた保科が、しゃがんだ俺を見下ろしている。それに眼を奪われて二の句が告げない俺の前で、保科は何も言わずくるりと背を向けて更衣室の方へ駆けていった。