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15:盗賊ブレイグ

 クロノスの予想は寸分も狂わず当たり、勇者レオンを初めとする『暁の星』は前回攻略した地点から苦戦を強いられていた。


「おいバックアタックだ。ヘルマン、ゴーディー処理しろ!」


 レオン一党は攻略開始からほどなくして馬人と呼ばれる馬の上半身を持つ二足歩行するモンスターの群れに襲撃を受けていた。


 馬人は発達した上半身の筋肉から優れた刀術を繰り出す一級の強さを持つモンスターだ。

 前後に攻撃を受けたレオンたちは、緒戦で雇ったポーターのほとんどを失う大打撃を受けていた。


 馬人たちは身の厚い刀を振るってなんら応戦できない非戦闘員のポーターたちを撃殺した。

 そもそもが速攻攻略程度の荷しか持ち合わせない惰弱な装備や食物の半ばは失われ、レオンたちの行動日数は極端に減らさることとなった。


 各メンバーの奮戦もあってか馬人の撃退には成功したが、被害は思った以上に甚大だった。

 レオンたちは逃げ出そうとするポーターに当初よりも多めの金を支払うことを約束してなんとか動揺を鎮める。


 だが、一同の苛立ちと焦燥は色濃く、いつもならばこれらは能無しであるクロノスにぶつけられるはずであったが、すでに打たれるままの壁役はいなく、互いに怒りをぶつけあう惨憺たる結果に帰結していった。


「なにやってんだよパッドウェイ! なんでとっとと魔物を出して応戦しねぇんだ」


 馬人を血祭りにあげたヘルマンが濡れた大剣を突きつけて盛んに魔物使いのパッドウェイを罵った。


「そんなこと言われても、こっちだって準備ってもんがあるんだよ。魔物召喚にゃ時間がかかるんだ!」

「ケッ。ヘルマン、テメェだって口だけじゃねえか。後半あきらかに押されてだろ。得意の剛力もたかが知れたもんだな」


 ゴーディーが口辺に苦みを滲ませ舌打ちすると、スキンヘッドのヘルマンの頭が一瞬で煮揚がり真っ赤になった。


「たかだかチンケな魔術師風情が。おれさまに守られてる分際で。死ぬか、ああ?」

「上等だよ!」

「おまえたちいい加減にしろ」


 レオンがあくまで常時と変わらぬ声音で仲間たちを制した。

 いつもと変わらない表情であることがヘルマンたちには恐ろしい。

 本当にキレつつあるときこそレオンは感情を面に出さないことを知っていたからだ。


「そうよ、レオンのいうとおりよ。みんな、こんなことくらいでくじけちゃだめよ。攻略はまだ始まったばかりなんだからね」


 コンスタンツが努めて明るい声を出すが、雰囲気の悪さは払拭できず、一同に深い溝が生じるのはさけられなかった。


「……ブレイグ、話がある」

「なんだ、レオン」


 レオンはコンスタンツがポーターたちの動揺を鎮めるために離れた際、盗賊のブレイグを呼んで耳打ちした。

「なるほど、了解した」


 ブレイグはレオンと顔を見合わせると、底意地の悪そうな笑みを口辺に漂わせてパーティーを抜けて単独行動に移った。





「右だな」


 一方、そのころクロノスたちは巧みにダンジョン内のモンスターをさけつつ先行するレオンたちに迫っていた。

 二股に分かれた隘路をクロノスは素早く決断してズンズンと進むが、ダンジョンに踏み入って三日、凶悪なモンスターとかち合うことを次々に回避していた。


 正確に言えば、最下層の五十階で敵に出くわさないということは不可能であるが、クロノスは洞窟に残るかすかな痕跡を嗅ぎ当てて、モンスターが存在しても必ず必殺の位置を取って、仕留めてきた。


 事実、クロノスの時間操作のスキルは無敵である。モンスターの先制攻撃さえさけられれば、相手が極度の多数ではない限り動きを止めて安全かつ速やかに屠ることができるのだ。

 前回はあれほど死を覚悟したデビルオーガやサイクロプスといった、レオンたちでも単騎では抗することができないモンスターたちを次々に撃殺していった。


「これで終わりだ」


 動きを止めた巨人がこん棒を振り上げたまま静止している。

 刻を止めたクロノスは肩に攀じ登ると、長剣をゆっくりと急所である単眼に埋没させた。


 時間操作の限界が訪れクロノスがサイクロプスから飛び降りる。

 平時ならば近づくのも容易ではない最深部の巨人も、動きを止めてしまえば苦戦する気配もない。


 ズズーンと地響きを立てて巨大なサイクロプス三体が地に沈む。

 残った個体もクロノスの訳のわからないスキルに恐れをなしたのか足早に逃げ去っていった。


「やったのですか?」

「すごいじゃない!」


 ソフィアとトルテの声援に応えながらクロノスは小さくサムズアップしたまま長剣の血を布切れで拭った。


「これで十三秒か」


 ――特に体調に異変はない。


 強力なスキルを多用すればその揺り返しで使用者はなんらかの不調を訴えるはずなのであるが、クロノスはダンジョンに入って以降絶好調だった。


「さすがですね。わたしは回復役なのですが、まるで出番がありませんよ」

「こらぁ、ソフィアさまをシュンとさせちゃダメでしょ」

「いやいやいや、俺にどうしろと」


 クロノスたちは前を行くレオンたちとつかず離れず順調に距離を保っていた。

 ところどころで脱落したであろうポーターたちの死体を発見した。


 死体の外傷からレオンが雇ったポーターはモンスターの襲撃によって死んだことが噛み傷や引っ掻き傷からわかった。

 食料や装備は回収していなかったのか、ザックの中にそのままである。


 クロノスは念のため口に入るものだけはさけると、まだ使用できそうな装備類を回収する。

 その視線に気づいたのは偶然ではなかった。


 昨日から、クロノスたちのわずかに離れた場所から、探るような視線を感じていたのだ。


「クロノスさま、向こう側に」


 ソフィアもそれは感じていたのか、身をかがめると小声で耳打ちする。


「ああ、やつらだ」


 ダンジョンの分岐点にあたる右方からカチッとわずかであるが人工的な音が鳴った。

 自然界にはない金属音である。


「伏せろ」

「ひゃっ」


 咄嗟にクロノスはソフィアを引き倒すと、空気を引き裂いて唸る矢音を耳にしたまま大きな岩影に隠れた。

 数本の松明に火が灯されて右路がパッと露になった。


 そこには弩を構えた三人のポーターを引き連れたブレイグの姿があった。



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