ペドリックで冒険者活動
「冒険者としての活動がしたいぞ!」
ペドリックの宿に併設された食堂で、朝食を食べ終わるとアルテが開口一番にそう言った。
「何か依頼を受けたいってことか?」
「そうじゃ!」
「わざわざペドリックにきたのに?」
どうして観光地に来たというのに、ギルドで依頼を受けるのだろうか。
普通はこの場所にしかない名所を巡ったり、食べ物を食べまくったりするものだと思うが。
「せっかく見知らぬ土地にきたからじゃ! ここでしか受けられない依頼を受けてみたいんじゃ!」
などと素朴な疑問をぶつけて見ると、テーブルをバンと叩いてアルテが主張する。
なるほど、確かに土地が違えばそこにある依頼も違う。
王都のギルドでは体験することのできない依頼がペドリックにはある。確かにこれもここえしかできない体験の一部というやつか。
「わかった。それじゃあ、今日はペドリックの冒険者ギルドに行ってみよう。そこで受けられそうな依頼があったら、受ける感じだな」
「うむ! ペドリックの民を困らせている魔物を成敗してやるのじゃ!」
●
「アルテ、そこに岩貝がいるぞ」
「おお! 大量に岩の裏に引っ付いておる!」
「やったな。これで二十個は硬い」
「…………なあ、クレト?」
二人で夢中になって岩にくっついている岩貝を採取していると、アルテが声をかけてくる。
「なんだ?」
「これはわらわの思い描いていた冒険者としての仕事とは違うのじゃが……」
納得のいっていなさそうな面持ちで呟くアルテ。
「とはいっても、これでも冒険者としての大事な仕事だぞ?」
「そうなのじゃが違う! わらわはもっと、市民を困らせているような悪い魔物を派手に討伐したいんじゃ!」
「そうはいっても、アルテのランクが青銅なんだから無理だろ」
「それは……その、護衛の目が厳しくて……」
俺がそのように指摘すると、アルテがごにょごにょと言い訳のようなことを呟く。
アルテの首に下がっている冒険者プレートは青銅。
冒険者における最下級のランクであり、駆け出し冒険者だ。
なんでおアルテはつい先日冒険者として登録したばかりで、まともに依頼の一つをこなしたこともない超初心者だ。
そもそも青銅ランクは討伐依頼を受けることはできないし、仮にできたとしても何一つ実績のないアルテに討伐依頼なんて任せるはずがない。
そんなわけで俺たちは泣く泣く最下級の採取依頼を海岸で行っているのである。
「これでは子供の仕事と変わらぬではないか。わらわは討伐依頼を受けたい」
視界には俺とアルテの他にも、ペドリックに住む小さな子供の姿も見える。
日に焼けた健康そうな肌をしており、懸命に貝や小魚、海藻などの採取に励んでいた。
「まあまあ、こうやって色々な場所で経験を積むのが大事なんだよ。何事も基本が大事さ」
採取依頼といってもバカにはできない。仕事をしていくうちに地域の人と繋がりができるし、地形を把握することができる。それらの情報はきっと、成長して討伐依頼を受ける時に役立つだろう。
「なるほど、何事も地道にやっていくのが大事なのじゃな」
そのように説明してみせると、アルテは感心したように頷いた。
妙に世間知らずで我儘なところもあるけど、根は素直でいい子なんだよな。
まあ、カッコイイ討伐依頼に憧れない気持ちはわからないでもないけど、いきなり無理をするのは良くない。
「うわっ! ウニールだ!?」
などと地道に会話しながらも岩貝を採取し終わると、そんな叫び声が聞こえた。
「なんじゃ?」
「なにか変な生き物が現れたのか?」
騒ぎのする方に視線を向けてみると、採取していた子供たちが集まっている。
一目散に逃げていないところを見るに、危険な動物や魔物ではないらしい。
「とりあえず、様子を見に行ってみるか」
「うむ」
気になったので俺とアルテもそちらに寄ってみる。
すると、海岸の岩場に真っ黒な巨大ウニがいた。ウニに似ているがサイズがまったく違う。
二メートルから三メートルくらいの大きさだ。
真っ暗な長い棘を生やしており、硬そうな甲殻に包まれている。
そんな奴等が波に乗って何十匹も転がっていた。
「……なんじゃコイツは?」
「おい、これ以上近づくな」
「なんでじゃ?」
不用意に近づこうとしたアルテを少年と少女が止めた。
「ウニールは近づくと棘を伸ばして攻撃してくるんだ」
「危ないから大人の冒険者に任せた方がいいよ。私、大人の人を呼んでくるから」
「その必要はない! わらわとクレトは冒険者じゃ! こんな魔物大したことはないわい!」
しかし、そんな少年たちの言葉は逆効果だったようでアルテがそんなことを言い出す。
「嘘つけ。後ろの兄ちゃんはともかく、お前は子供じゃねえか」
「子供じゃない! わらわは十六歳じゃ! とっくに成人しておる!」
そのように主張するアルテであるが、十歳程度の子供と張り合って喧嘩して、いきり立っている姿はそうとしか言い表せない。
「仮に大人でも海岸で採取してるようなランクの奴が、討伐できっこねえだろ。ここで採取してるやつが駆け出しだって知ってんだぞ」
アルテの主張に的確に言い返す少年。正論過ぎてぐうの音も出ない。
「な、なにおう! こやつめ! わらわがただの駆け出しではないことを見せてやる!」
言い返すことのできなかったアルテは、それを払拭するためにウニールへ挑もうとする。
「待て待て、アルテ。さすがに危険だ」
「案ずるでないクレト。こいつは近づけば棘で攻撃してくるのじゃろ? じゃったら、近づかなければいい話よ」
アルテはそのように言うと、それ以上近づくことなくウニールへと右手をかざした。
すると、アルテの身体が魔力の光で輝き、魔法陣が展開される。
「『旋風塵』」
アルテが涼やかな声でそう告げると、突如風が荒れ狂い、小さな竜巻がウニールを襲った。
激しい旋風によってウニールの棘がへし折られ、内部までをズタズタにした。
凄まじい威力の魔法だ。正直、アルテがこのようなレベルの高い魔法を使えるとは思っていなかった。
「どうじゃ!」
「「うああああああああっ!?」」
これにはアルテがどうだとばかりに胸を張るが、少年と少女は悲鳴を上げていた。
「な、なんじゃ? 倒したというのにどうしてそんな声を……」
「ウニールは高級珍味なんだ! 倒すなら内部の身をできるだけ傷つけないように倒してくれよ!」
ウニールの残骸を見れば、橙色の柔らかそうな身が弾け飛んでいる。
恐らく、前世のウニと同じであの身が美味しいのだろう。
「あれを食うというのか!? 正気か!?」
「知らねえ人はそう思うかもしんねえけど、めちゃくちゃ美味いんだぞ!?」
確かにアルテの言う事も一理ある。普通、ウニを見て食べてやろうなんて思わないだろうしな。本当に最初に食材を食べた人物というのは偉大だ。
「う、ううむ、内部の身を傷つけないようにというのは、ちと難しくないか?」
高レベルの魔法を使えるアルテであったが、素材をできるだけ傷つけないように倒すのは難しいようだ。少年の言葉を聞いて愕然としている。
「……いや、やり方さえわかればいけると思うぞ」
アルテが倒したウニールの残骸を見て、しっかりと身の位置を把握。
無残な死骸が三つあるが、まだまだ周囲にはたくさんのウニールがいる。
近づかなければ攻撃してこないというのであれば、魔法使いの格好の的だ。
「『空間斬』」
俺は一体のウニールの中心を空間魔法で横に切り裂く。
空間ごと身体を切断されたウニールの身体がずるりとズレ、上半分がぽろりと海水に落ちた。上半分にはほとんど身がないのか、綺麗に橙色の身が露出している。
「な、なんじゃあああ!? ウニールが急に真っ二つになりおったぞ!?」
「おお、兄ちゃんすげえ! ウニールの身に傷一つないぜ!」
俺の魔法に驚愕するアルテと少年少女。
どうやらこれで問題ないようなので続けて他の個体も倒していく。
鋭く尖った棘も接近しなければ無意味であるし、動かない以上はただの的でしかなかった。
真っ二つにして身を露出させるだけでなく、棘だけを綺麗に切断してみたりもする。
「うぬぬぬ! わらわの見せ場のはずじゃったのに……!」
「真ん中より少し上を切り裂くか、棘だけを切断すれば問題ないはずだ。アルテもやってみるといい」
「う、うむ! 『風刃』」
そう説明してやらせてみると、アルテは風の刃を射出してウニールを綺麗に切断した。
先程のように身が四散することなく、綺麗に身を露出させながら無力化させることができた。
「おお、姉ちゃんもやればできるじゃねえか!」
「フン、わらわにかかればこれくらい造作もないの!」
などと澄ました表情をしているアルテであるが、顔からは喜びが隠し切れないほどに緩んでいた。




