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冒険者の戦い

『転生貴族の万能開拓』のコミカライズがヤンマガWEBで4月30日から連載スタートとなります。


「ところで、クレト。これだけの冒険者を一気に転送できるのか?」


「あっ」


 ヘレナから指摘を受けて、俺は思わず間抜けな声を上げる。


 気が付けばハーピー討伐の依頼を受ける冒険者は三十人ほどが集まっていた。


 さすがに俺でもこれだけの人数を一気に転移させたことはない。


「おいおい、大丈夫なのか?」


「……多分、大丈夫だと思います」


 一気に三十人を複数転移させたことはないが、一日に三十人以上を転移させたことはあるので不可能ではないと思う。


「仮に魔力が足りなかったとしても魔力が回復してから転送すればいいでしょう。元々、片道で五日はかかる距離なんですから」


「そうだな。クレトは気負うことなく転送してみてくれ」


「ありがとうございます」


 若干不安になっている俺に声をかけてくれるレイドとロックス。その優しさが嬉しい。


「準備のできたパーティーからこちらに来てください」


 俺がそのように声を張り上げると、『雷鳴の剣』『三獣の姫』『妖精の射手』をはじめとした馴染みのあるパーティーにガドルフ、ウルドをはじめとする顔なじみも集まってきた。


「おう、転送屋。しっかり頼むぜ」


「ガドルフは一人でも強く生きるんだぞ」


「おい、まさか本当に魔境に送るつもりじゃねえだろうな!?」


 ニーナと一緒に出会った時の会話をきちんと覚えていたようだ。まあ、そんな酷いことはしないので安心してほしい。俺もそこまで鬼畜ではない。


「アタシたちの準備はできてるぜ! いつでも送ってくれ!」


「それではオルギス山の麓へと転送いたします」


 威勢のいいヘレナの声に同意するように頷く冒険者たちを見て、俺は複数転移を発動させた。


 その時、体内に保有されている魔力が一気に減ったのを感じた。が、複数転移がきちんと発動し、ギルドの内部からオルギス山の麓へと景色が変わった。


「……全員揃っていますか?」


 おずおずと尋ねると、全員が揃っている旨の返事がくる。


 どうやら討伐依頼を受けてくれる冒険者、三十人を一気に転移させることができたようだ。


 そのことがわかってホッとする。


「クレトさんの魔力は大丈夫ですか?」


「少し消耗して疲れましたが、討伐を終える頃には全員を王都までお送りできるまで回復するかと思います」


 大人数を一気に転移させると魔力消費が跳ね上がるのか結構魔力を消費した。距離も王都から五日分あるしな。


 とはいえ、動けなくなるほど消耗したわけではない。既に魔力の回復は始まっているし、少し休めば帰りも転移で戻れるだろう。


「まだ魔力に余裕があるとはすげえな!」


「……これだけの数を転送できただけでも驚異的」


「とはいえ、クレトは既に役目を果たしてくれた。ハーピーとの戦いは無理せず、俺たちに任せてく

れ」


「ありがとうございます」


 ロックスの言葉が実に頼もしい。空間魔法が反則的な強さを誇るとはいえ、魔物との戦闘が得意というわけではない。


 集団戦闘なんて全くの素人なので、彼の言う通り戦闘に関しては皆に任せることにしよう。


「さて、あそこにハーピーの巣があるんだろうな」


 俺たちの見上げる先には切り立った崖のようなものが見えており、空を警戒するように三羽のハーピーが飛び回っていた。


 くすんだ金色の髪をしており、鋭い牙を生やしている。


 顔から胸元にかけては人間の身体のように見えるが、腕や下半身や鷹のようになっている。


 ハーピーたちが飛び回っているあそこに巣があるのは間違いなさそうだ。


「確か三十羽はいるって言っていたか?」


「目撃証言からの推測なのでそれ以上はいると、想定した方がいいでしょう。とはいえ、もう少し情報を手に入れたいところですね」


「私たちが様子を見てくる」


 そう申し出たのは『妖精の射手』のメンバーたちだ。


 弓使いで構成されたエルフだけのパーティーであり、斥候などを得意としている。


 そのことを誰もが理解しており、誰も反対することはなかった。


『妖精の射手』に情報取集を任せている間に、ロックスをはじめとする冒険者たちが作戦会議をする。


 相手は空を自由に飛び回る魔物だ。皆で突っ込んでも何とかなるかもしれないが、面倒くさい事になるだろう。入念に話し合うのは当然だ。


 作戦を主に仕切っているのはロックスやレイド。


 Bランク冒険者でもあり、周囲の者から実力が仲間に認められているからかそのことに不満が上がることはない。


 皆が互いを尊重し、能力を認め合って意見を交わし合っている。


 昼間から酒場でぐだを巻いている姿とは大違いだ。


 前世の会社でも、こんな風に円滑な人間関係を築くことができれば、楽しみながら企業としての利益を追求できたのかもしれないな。


 そんな風に少し離れた場所で作戦会議を聞いていると、斥候に出ていた『妖精の射手』が戻ってきた。


「どうでしたか?」


「ざっと見てきたところ四十羽以上は確認できたわ。洞窟の中にはいくつも巣があったし、もっといると考えてもよさそう」


 ここからじゃ空を警戒している三羽しか見えないが、その十倍以上の数が巣穴にいるのか。中々にゾッとするような光景だ。


「……やはり、ギルドの推測よりも数が多いですね」


 もたらされた情報を元にして再び話し合う冒険者たち。


 そして、しばらく話し合った既に大まかな作戦が決まった。


『妖精の射手』がちょっかいをかけて多くのハーピーを巣の外へと誘導する。


 そこに魔法使いや弓使いなどの後衛職が攻撃を畳みかけ、墜落した個体を前衛職が仕留めるという作戦だ。


 視界が悪く入り組んだ山の中では明らかに不利なので、有利な場所で一気に数を減らそうという作戦らしい。


 それが妥当であると思う。今回はこちらも大勢の冒険者が集まっている。相手の頭数さえ減らしてしまえば、最終的にはごり押しできるわけだしな。


 作戦通り、『妖精の射手』が再び山の中に入っていく。


 最初に動いたのは空を警戒していた三羽のハーピー。


 そのうちの二羽が矢で撃ち抜かれて撃墜。


 残りの一羽は翼を撃ち抜かれてはいるものの、墜落するほどではなかったのかよろよろと巣穴に戻っていく。


 恐らく、仲間をおびき寄せるためにわざと倒さずに巣に返したのだろう。


 などと思っていると、巣穴から多くのハーピーが出てきた。


 まるで蜂の巣を突いたような大騒ぎ。


「キイイイッ!」


 甲高い鳴き声には確かに怒りがこもっていた。


 仲間の仇を討とうとしてか血走った目を向け、鷹のような鋭い爪で襲いかかる。


『妖精の射手』は木々を遮蔽物にしながらそれを防ぎ、軽やかに駆け抜けて山肌を滑り降りてくる。


 あれだけの魔物に追い回されて顔色一つ変えない姿はさすがだ。ただのプライドの高いお姉さんではなかったらしい。


 彼女たちは振り替えながら弓矢を放ちながら牽制しつつ、後衛職が待機している場所へと誘導した。


「攻撃放て!」


 ロックスの声を合図に待機していた魔法使いや、弓使いが一斉に攻撃を放つ。


 火炎球、風刃、土槍、氷矢などといった様々な属性の遠距離魔法や、射出された矢などがハーピーの群れを撃ち抜いた。


 たまらずバタバタと地上に落ちてきたところをロックス、ガドルフ、ウルドをはじめとする前衛職にとどめをさされる。


 ロックスによって巨大な戦槌を打ち付けられた個体の結果は言うまでもないだろう。


「キイイイーッ!」


「うおっ! コイツらまだ元気だぞ!?」


 中には当たりが弱かったのかかすり傷ほどの個体もおり、翼を広げて威嚇する。


 蛇のような鋭い目に裂けた口から長い舌が伸びている。


 遠くから見るともっと半鳥人っぽく見えたんだけで、近くでこうして見るとあんまり美しくないな。


 ハーピーに対して幻想的な想いを抱いていたので、少し夢を壊された気分だ。


 鷹のような鋭い爪で冒険者たちに牽制するハーピー。


 しかし、ヘレナが風のように駆け出すと、それらは瞬く間に斬り捨てられる。


 血しぶきと共に色鮮やかなハーピーの羽根が舞っていた。


 次から次へと剣で切り倒していく様はまるで鬼神のようだ。


 ヘレナたちを転送したことは何度もあったが、こんな風に戦う姿を見るのは初めてだ。


 俺のような与えられた力を駆使するのではない。彼らは己の身一つで魔物を相手にしているのだ。


「……これが冒険者の戦いか」


 本物の研鑽された力を目にすると素直に畏敬の念を抱かざるを得なかった。



 それぞれの作戦が上手くいったお陰がおびき出されたハーピーは全て倒し、巣穴に残っていた残りのハーピーも無事に殲滅することができたのであった。





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こちら新作になります。よろしければ下記タイトルからどうぞ↓

『魔物喰らいの冒険者』

― 新着の感想 ―
[良い点] 「おう、転送屋。しっかり頼むぜ」 「ガドルフは一人でも強く生きるんだぞ」 「おい、まさか本当に魔境に送るつもりじゃねえだろうな!?」 ここは何回も思い出し笑いするくらい、面白く大笑い、ウケ…
[気になる点] エルフで構成されたパーティ「妖精射手」って出始めの時、エルフ至上主義で周りに打ち解けない 雰囲気があった様な気がするんですが丸くなったのかな?
[一言] 流石に上空に岩転移させて 疑似「メテオ(FF)」なんて戦術使わんか
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