絵画を飾る
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「エルザ、ちょっといいかい?」
「はい、どうなさいましたか?」
レフィーリアに絵を描いてもらった翌日。
王都で額縁や取付け金具を買った俺は、屋敷に戻るなり窓を拭いていたエルザに声をかけた。
せっかく素敵な絵を貰ったんだ。しっかりとした場所に飾っておきたい。
自分にはインテリアのセンスがあるとは思えないので、彼女の意見を聞いた方が良いと思った。
「屋敷に絵を一枚飾ろうと思うんだけど、どこがいいと思う?」
「どのくらいのサイズで、どのような絵でしょうか?」
「飾りたい絵を持っているから見せるよ」
亜空間の中からレフィーリアに描いてもらった絵を取り出し、エルザに見せる。
ハウリン村の風景は、厚みのある木製の額縁にしっかりと収められている。
自然豊かな水彩画と木製の上品な額縁は非常にマッチしており、キャンバスのまま眺めるのとでは印象がより違った。高級感が増しているように見える。
「…………これはもしや、画家レフィーリアの絵では?」
絵を食い入るように見つめていたエルザが、驚いたような声を上げて尋ねてくる。
「見ただけでわかるんだ」
「これほど繊細な色使いをされる画家は、他にいらっしゃいませんから」
どうやら俺以上に詳しく知っている様子だった。
喫茶店通りにはエルザがよく通っており、そこには美術館もある。
ひょっとしたらよく展示会などを覗いていたのかもしれないな。
「…………」
なんてことを思っている間もエルザは、じーっと絵画を見つめている。
「えっと、エルザ?」
「失礼いたしました。絵を飾る場所でしたね。この大きさの絵ですと、玄関やリビング、あるいはダイニングルームになるかと思います」
俺が声をかけると、慌てて振り返って答えるエルザ。
ひょっとしたらレフィーリアのファンだったのかもしれないな。
まあ、飾り終えればいくらでも眺めさせてあげようと思う。
「うーん、どうしようかな」
「このサイズの風景画ですと、リビングかダイニングがオススメですね」
「それならダイニングがいいかな」
食事をする際、ちょっと壁が物寂しいと思っていた。
そこに絵を飾れば、食事をしながら鑑賞することができる。
「かしこまりました。では、ダイニングルームに飾ります。アルシェさん、手伝ってください」
「はい!」
俺の言葉に頷くと、エルザは近くにいたアルシェを呼び寄せた。
この大きさになると女性が一人で持つには少し重い。
俺が魔法で持ち運ぶのが一番楽であるが、メイドに働いてもらうのも大事だしな。
女性に重い物を運ばせるのは心苦しいが、余計な手は出さないようにする。
「アルシェさん、壁にぶつけたりしないでくださいね? もし、傷がついたりしたら十年分の給金は無いと覚悟しておいてください」
「うええええっ!? クレト様、これってそんなにすごい絵画なんですか!?」
エルザから思わぬプレッシャーを受けたアルシェが顔を真っ青にする。
「そうみたいだから気を付けてね」
「ちょ、ちょっと待ってください! 緊張で腕が震えてきました! エルザさん、ルルアとララーシャにも手伝ってもらいましょう! 安全に皆で運ぶべきです!」
身体をぶるぶると震わせたアルシェが焦ったように叫び、ルルアやララーシャは仕事を中断して駆け寄ってくれた。
「お、お手伝いします!」
「しょうがないわね~」
メイド総動員でダイニングまで運ぶことに。
まあ、貴重な物なので慎重に運ぶのはいいことだろう。
そうやって四人で丁寧にダイニングまで運ぶ。
飾る場所は、普段俺が座っているイスの対面になる壁だ。
ちょうどクローゼットの上で真っ白な壁だ。そこに飾ればいい感じに見えるだろう。
大まかな場所が決まると、後は取り付ける位置だ。
「もう少し上に……そこから右へ。行き過ぎです、もうほんの少し左に戻してください」
アルシェ、ルルア、ララーシャの三人で額縁を持ちながら移動する。
離れたところからエルザがそれを眺めて、指示を出している感じだ。
エルザの方が知識豊富で美的センスが高いとわかっている俺は、特に口を出すこともせずに眺めて待つ。
「クレト様、あの位置でいかがでしょうか?」
そのまましばらく待っていると、ようやく納得のいく位置が決まったのだろう。
エルザが満足そうに頷いて尋ねてきた。
俺には最早違いがわからないレベルの拘りだったが、脳死で頷くというのもダサい。
せめて、アルシェたちの苦労に見合うように、それらしく色々な角度や距離から眺めて吟味してみせる。
とはいっても、俺の答えは変わらない。
「うん、いいね。そこにしよう」
「かしこまりました。では、取り付けさせていただきます」
取付け金具を渡すと、エルザは器用にトンカチを使ってネジを打ち付け、金具などを取り付ける。
できるメイドは工具の扱いも上手いらしい。
エルザの手によってあっという間に金具が設置され、そこに合わせて絵画を掛けた。
レフィーリアの描いた見事な水彩画が、ダイニングルームを華やかにする。
俺だけでなく取り付けたアルシェ、ルルア、ララーシャも見上げて感嘆の息を吐いた。
落ち着いた部屋の中に飾られた緑一杯の景色は、見る者に癒しの効果を与えてくれるだろう。少なくとも俺は癒されるし和むな。
「これは俺の住んでいるハウリン村の風景さ」
「ここがクレト様のもう一つの生活拠点なのですね」
などと呟いてみると、エルザが感心したように呟く。
「と、とても緑が豊かです」
「見ているだけでのんびりとした気持ちになれますね」
ルルアやララーシャも口々に感想を漏らす。
エルザたちにはハウリン村でも生活をしていることは伝えているが、実際に連れていったことはな
かったからな。
彼女たちが望むのであれば、いずれ連れていってあげてもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は新しく取り付けた絵画を眺め続けた。




