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『転生して田舎でスローライフをおくりたい』書籍9巻は10月12日発売です! よろしくお願いします。
ハウリン村にやってきたエミリオはアンドレ家だけでなく、オルガや他の農家の人たちとも顔合わせをし、そして――。
「ぷはぁー! もう一杯!」
「おおおおお! 兄ちゃん、なよっとした身体してる割にいけるじゃねえか!」
「舐めないでください。こちとら世界中を回って商談し、こうやってお客さんとも飲み歩いているんですから!」
見事に打ち解けて俺の家で打ち合わせと称して酒盛りをしていた。
確かに商人と農家のコミュニケーションは大事だし、打ち解けるのもいいのだが真っ昼間から酒盛りを繰り広げるのはどうなのだろうな。
まあ、ハウリン村の農家とエミリオが仲良くなるのはいいことなので、咎めることができないのが現状だ。
ステラもそれがわかっているからかニーナを連れて家に戻っている。多分、ここにいたら巻き込まれると思ったんだろうな。懸命な判断だ。
「おらぁ! トマトのサラダにトマトのマリネ、チーズ焼きトマト、トマトの卵炒めだ!」
そして、エールを呑んでわいわい騒いでいるエミリオやアンドレ、おじさんたちの中に料理を持ったオルガがやってくる。
皿に載っているのは全てがトマト料理。真っ赤なトマトがテーブルを彩って、少しだけ華やかになった気がする。部屋にいるのはおじさんばかりだけど。
「うおお、トマトばっかりじゃねえか!」
「当然だ。オレたちの作物を売る以上、しっかりと美味しさは知ってもらわねえとな!」
「おお、それは是非味わいたいですね!」
「それなら俺ん家のネギ料理も食わせてやる!」
「俺も青ナスの美味い食べ方を教えてやろう」
「三色枝豆の燻製を持ってきてやる!」
オルガとエミリオの言葉で火がついたのか、オルガだけでなくアンドレをはじめとする農家のおじさんたちが台所に駆け込んだり、家に戻っていったりする。
皆、自慢の食材を使った料理を食べさせたいようだ。
とはいえ、農家の方が作った料理というのはとても気になるもので俺もちゃっかりと相伴に与ることにした。
とりあえず、オルガが出してくれたトマト料理にエミリオと一緒に手を伸ばす。
「うおお! トマトのチーズ焼き美味しいな!」
「とても柔らかくていい風味だ。チーズととても合うよ」
口の中で温かいトマトが弾けて、強い甘味と風味が広がる。
上にかかったトロッとしたチーズがトマトの酸味に合って最高だ。
「へへ、トマトは熱を通すことで甘みが増すからな。生もいいけど、意外と単純な丸焼きなんかもイケるぜ」
俺とエミリオが感想を言うと、オルガがどこか自慢げな様子で語ってくれた。
「トマトってサラダに入れたり、生で食べるイメージが強いから焼きトマトの美味さには驚いた」
「さすがトマトと長く向き合っているだけあって美味しい食べ方を知っていますね」
「へっ、当然だ」
とは素っ気なく言いつつもオルガの顔はとてもだらしないものになっている。
器用なことをする奴だ。
自分や育てたトマトのことが評価されて嬉しいんだろうな。
他にもトマトのサラダやマリネ、卵炒めなんかも食べていく。
オルガが育てたトマトは甘味や旨味が桁違いで、どれも美味しい。
「そういえば、他の作物もそうだがどういう名前で売り出すんだ? これだけ美味しいトマトを普通の名前で売り出すのは勿体ないだろ?」
「そう! まさしく僕はそのことについて相談しにきたんだ! ハウリン村の作物を名前もつけないままに売ってしまうのは勿体ない!」
こういった他のものとは一線を画す作物なんかには特別な名前もつけたりすることがある。
前世でいえば、九条ネギとか夕張メロンとかだ。
そうやって、しっかりとした名前を浸透させて、いずれはブランド化していくのも商法の一つ。
「……名前か。そうは言われても何をつけたらいいか……」
オルガは自分のトマトに名前をつけるなんて考えたことがなかったのか、少し戸惑っている様子だった。
「通常、こういった時にはどういう名前をつけものなんだ?」
「どこで作られたことを示す地名か、生産者の名前をつけることが多いものさ」
どうやらこの世界でも考えることは同じらしい。やはり、特産地を示す名前や、生産者の名前が付くことが多いようだ。
「ということはハウリントマトかオルガトマトか!」
「ハウリントマトはともかく、オルガトマトってなんだよ! 自分の名前を入れるとか恥ずかしいわ!」
「えー? でも売れたら自分の名前が未来永劫残るんだぞ? それってかなり凄いことじゃないか?」
「確かにそうかもしれないが――っていうか、お前他人事だと思って楽しんでるだろう?」
「ああ、まさに他人事だからな! でも、俺としてはオルガトマトがいいと思う!」
恨めしそうに睨んでくるオルガに俺はきっぱりと告げた。
「ハウリントマトでも構いませんが、『ハウリン』という名前は他の作物で使う可能性が高いので被る可能性もありますよ」
エミリオの言う通りだ。ハウリンという名称は他の作物で使う可能性が高い。
それは他の作物は村全体で多く育てられている作物だからだ。
しかし、ハウリン村で一番美味しいトマトを栽培しているのは間違いなくオルガのトマトだ。
だったら全体を総称する名前よりも、より際立つ名前をつけた方がいいと思った。後の理由はそっちの方が面白いからだ。
「くっ……ちょっと考えさせてくれ。時間が欲しい」
「できるだけ早めにお願いしますね」
悩ましそうにするオルガにエミリオは軽くプレッシャーをかけた。
◆
各々が自慢の料理を持ち込んだ後、オルガと同じようにそれぞれの作物に名前をつける。変わったのはハウリンネギ、ハウリンナス。
三色枝豆、大玉スイカはそのままの方が、インパクトがあるのでそのまま。
そして、オルガの育てたトマトはオルガトマトという名称になった。
それを決断した時の本人の顔の赤さといえば、まさしくトマトのようだった。
そんな風に相談事は無事に終わり、夕方ころには酒盛りは終了となった。
家にはエミリオ以外いなくなってしまい静けさが戻っていた。
エミリオは縁側に腰かけており、のんびりと平原や森を眺めている様子だった。
「ヨモギ茶でも飲むか?」
「ああ、お願いするよ」
台所の片づけをちょうど終えた俺は、森で採取したヨモギの葉を使ってお茶を作る。
「はいよ」
「ありがとう」
ヨモギ茶を渡すと、俺も隣に腰を下ろす。
そして、二人で外の景色を眺めながらズズッとヨモギ茶をすする。
ほろ苦さが舌と喉の奥をスッと通り抜けていく。最初はこの独特ともいえる味に少し慣れなかったが、慣れたら意外とこれが癖になるものだ。今では平然と飲むことができる。
ヨモギ茶を飲みながらボーっとしていると、エミリオが口を開いた。
「ここはのんびりとしていていい村だね」
「だろう?」
「王都のように見栄を張る必要もなく、無理に競争をする必要もない。自分のペースで生活ができるよ」
「わかってるじゃん。エミリオもこっちに住んだらどうだ? 随分と村人とも馴染んでいる様子だったじゃないか」
「それはないね。僕は自分の商会をもっと大きくして世界一にしたいから」
試しに誘ってみたが、エミリオはすっぱりと言い切った。
だよな。王都でバリバリに働いているエミリオが俺のような暮らしを選ぶはずがない。
「だけど、疲れた時や上手くいかない時は気晴らしに寄らせてもらおうかな」
しかし、そのすぐ後にエミリオはそんな言葉をポツリと漏らした。
エミリオがそんな感傷的な台詞を吐くとは思わず、俺は少し驚いた。
「その時は声をかけてくれ。いつでも転移で連れてきてやるから。ただし、お代はきっちり請求するけどな」
「クレト、そこは友情料金で無しにするところじゃないのかい?」
「親しき仲にも礼儀ありだ。というか、逆の立場でもそうするだろう?」
「まあね」
俺の問いかけにエミリオはしっかりと頷いた。
エミリオを相手に慈善事業をやっていたら、どれだけこき使わされるかわからないからな。
無料でやるだなんて言質は絶対にとらせたりはしない。
「さて、そろそろ王都に帰ることにするよ」
「今日は俺の家に泊まっていかないのか?」
「クレトの魔法があれば、すぐに帰れるじゃないか」
まったくもってそうだった。俺の魔法を使えば、一瞬で王都まで戻ることができる。
わざわざ人の家に泊まって帰る必要性もないか。
「それに商品名も決めたことだし、早めに仕事を進めておきたいんだ」
「相変わらずよく働くな」
仕事仲間の相変わらずの社畜ぶりに、俺はため息を吐きながら立ち上がるのであった。
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