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祝杯


「おおー、クレトは商人として活躍してるんだな!」


「品物を仕入れ、あちこちで売って稼ぐ事ができるなんてクレトさんはすごいですね」


「いえ、本当にすごいのは商会長ですよ」


 アンドレたちに俺は最近やっていることを話した。とはいえ、いきなり空間魔法という便利な魔法が使えて、転移で仕入れに行っていますなんて言えば混乱してしまうので省いてはいるが。


 実際、本当にすごいのはエミリオだ。


 俺はただ便利な魔法を持っているだけの使いっ走りに過ぎないのだ。エミリオ自身がこの魔法を手にしたら、もっと効率的に稼ぐことができていただろう。


「商会が大きくなって落ち着いてきたから、今日はやってきてくれたのか」


 しみじみと頷くアンドレに、俺は本題であるべき部分を切り出すことにする。


「それもひとつの目的ですが、今回は別の目的もあるんです」


「うん? 別のってなんだ?」


「実はハウリン村に住もうかなと思っていまして」


「おお? マジか?」


「ええっ!? クレト、この村に住むの!?」


 俺の言葉にアンドレがぽかんと口を開けて、ニーナが嬉しそうに叫ぶ。


「うん、この村に住みたいなと思ってるよ」


「やった! これで毎日のようにクレトと遊べるね!」


 ニーナの純粋な言葉に俺の胸でじんわりとしたものが広がる。


「それは嬉しいのですが、お仕事の方は大丈夫なのです?」


「そうだぜ。王都の仕事がいい感じなんだろ?」


 無理もない。都会で働いていた大人が急に田舎に引っ越すと言っている(実際は微妙に違う)のだ、二人が心配してしまうのも無理はない。


「そうですね。仕事は辞めるつもりはありません」


「だとしたら、こっちで行商人でもやるのか? ここらは人も少ない田舎でロクに稼げねえぞ?」


「いえ、王都で仕事を続けた上で、こっちでも拠点を作って住みます」


「……ちょっと待ってくれ。クレトの言っていること無茶苦茶だぞ?」


 俺のそんな宣言にアンドレだけじゃなく、ステラも首を傾げている。


 ニーナは状況がよくわかっていないのか、俺が引っ越してくることで頭がいっぱいなのかニコニコしていた。


 交通の発達している前世であれば、東京で働きながら週末は地方の拠点で生活するという、二拠点生活を不可能とは思わないだろう。しかし、交通の発達していないこの異世界では、都会と田舎での器用な二重生活など無理がある。この世界ではそれが正常な判断だ。


「あはは、普通ならそう思いますよね。でも、俺には王都で商売を続けながら、こっちでも住むことができるんです」


「いや、無理だろ。王都とハウリン村を一瞬で移動できるわけでもねえし」


「そう! まさにそれです! 俺はそういうことのできる魔法を持っているんです!」


 アンドレのドンピシャな発言に俺は思わず叫んでしまう。


「ということは、クレトさんは王都からハウリン村まで一瞬で移動できるのですか?」


「はい、なんなら今すぐ三人を王都にお連れしましょうか?」


「おう! できるものならやってみせてくれ!」


 アンドレは明らかに信じていないのだろう、どこかからかいのこもった感情で笑う。


 円滑な二拠点生活を送るためには、ハウリン村に住んでいる人の協力が必要だ。


 だとしたら、ここでしっかりと俺が二拠点生活ができると示しておくのがいいだろう。


「言質はとりましたからね? では、今から三人を王都にお連れしますね」


 俺はそう告げると複数転移を発動。


 アンドレ、ステラ、ニーナと共に王都の中央広場に転移する。


 視界は一瞬で切り替わり、アンドレの家からたくさんの大きな建物と、様々な種族が入り乱れる王都の広場にやってきた。


「う、うおおおっ!? なんじゃこりゃああっ!?」


「私たちさっきまでハウリン村の自分の家にいましたよね!?」


 転移するなりアンドレが腰を抜かしそうになるくらい驚き、いつもは落ち着いているステラはアンドレにピタリとくっついていた。


 突如、ハウリン村から王都のど真ん中に転移させられて心底驚いているようだ。


「すごーい! 建物が大きいし、人もたくさんいるー!」


 その中で一番ビビッていなかったのはニーナでキラキラと目を輝かせていた。


 子供って順応能力が高いよな。これから王都でショッピングに行こうなんて誘ったら、笑顔で頷いてくれそうだ。


 少し時間が経過すると落ち着いてきたらしくステラが空を仰いだ。


「あれはゼラール城。ということは、ここはやっぱり……」


「はい、王都ゼラールです」


「信じられねえけど、聞いていた通りの風景が広がってやがる」


 あれだけ巨大な城を作ることができるのは自国の都以外ではありえない。


「本当に夢じゃねえよな?」


「つねってあげます」


「……いてぇ」


 ステラに顔をつねってもらって涙目になるアンドレ。


 周囲の光景と王族の住まうというゼラール城を見て、ステラやアンドレはここが王都だと納得したようだ。


「な、なあ、クレト。ハウリン村には戻れるんだよな?」


「はい、戻りますね」


 アンドレとステラがすごく不安そうにしているので、複数転移を発動してハウリン村の家の中へ。


 目の前にはアンドレの家の食卓があり、温かな料理が並んでいた。


「お、おお、俺の家に戻ってきたんだな」


「ハウリン村ですね」


 自宅や外の光景を眺めてようやく安心するアンドレとステラ。


「えー!? もう帰ってきちゃったの!? もっと王都見たかったのに!」


 それとは対照的にニーナはかなり残念そうにしている。


 ハウリン村とは違った、大都会の風景がかなり新鮮だったようだ。


「ごめんごめん。また今度連れて行ってあげるから」


「本当? 絶対だよ!?」


 俺がそのように言うと、とりあえずニーナは満足したのか席に座った。


 これは今度連れていってあげないといけないフラグが立ったかな? まあ、その時はもう少し先になるだろうし未来の自分に任せるとしよう。


「……さっきの一瞬で移動しちまったのがクレトの魔法なんだよな?」


「はい、空間魔法の転移といいます。この力で王都とハウリン村を行き来して、両方に拠点を構える二拠点生活というのをしようかと」


「はー、王都と田舎で二拠点生活かぁ。すげえことを考えつくもんだな」


「ですが、この魔法があれば不可能じゃありませんね。拠点が二つある分お金はかかりますが……」


「そこは商人として人一倍稼ぐので問題ないですよ」


 実際にかなりの金額を蓄えていることだしな。王都の一等地とハウリン村に家を建てても破産することはない。


 この先、消費する金額を大きくなるが、それでもまだ貯金はあるし、それ以上に稼ぐ自信があるからな。金銭的な問題はなかった。


「へっ、随分と言うようになりやがって。まあ、さっきはああは言ったがクレトがこっちに住むのは大歓迎だ。仲のいい知り合いが増えるのは嬉しいから力になるぜ」


「私もです」


「ニーナも大歓迎だよ!」


 三人の温かな言葉に胸の奥からじんわりと込み上げてくるものがある。


 大丈夫だとは思っていたが、どこか心の奥底では否定されるんじゃないかって思っていた。


 だからこそ、この三人から素直に受け入れられるといのは何よりも嬉しかった。


 まるで、ここに住んでいいのだよって言われているようで。


「皆さん、ありがとうございます」


「クレトがこっちに住めるなんてめでてえな! 今度は祝いの乾杯をしようぜ!」


「はい!」


 こうして俺たちは改めて乾杯を交わした。






週間ランキング1位です。ありがとうございます。


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『魔物喰らいの冒険者』

― 新着の感想 ―
[良い点] 「はい、なんなら今すぐ三人を王都にお連れしましょうか?」 「おう! できるものならやってみせてくれ!」  アンドレは明らかに信じていないのだろう、どこかからかいのこもった感情で笑う。 ここ…
[一言] いくら転移できても儲けるのは頭使うから雇われは気が楽だね
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