DANCE MONKEY
「タクミ、コーヒーでもいる?クリスのためについでやったのに、アイツ要らないなんて言いやがって。スッキリするしちょっとした休憩には最適だろ。はっはっはっ。」そう言ってアレックスは俺のデスクにコーヒーを置いていく。全くいらないといえば、嘘になる。アレックスの後姿からデスクのスクリーンへと視線を戻す。トンッ。机に置かれたコーヒーへ手を伸ばすと掴み損ねた手がカップの側面にあたる。あぶない、こぼすところだった。いつもなら、こぼれてもさして問題もないほどパソコン以外何もない俺のデスクだが、今日は、先週末あの人から国際郵便で届いた手紙がデスクの上に置いてある。普段はデスクの上のコーヒーのシミすら気にしない俺だけどこの手紙だけは汚すわけにはいかない。そんなことを考え、俺は仕事に戻る。
1時間ほど作業をして小休憩をしていると、またアレックスがやってきてこう言った。
「俺のEメールボックスにお前宛のメールが来てたぞ。南條 匠海へ って書いてたから間違いない,100%そうだった。転送しとくぞ。」
「あぁ、ありがとう。お願い。」
アレックスはオーストラリア人だが、俺の名前の漢字だけは覚えてくれた。アレックスとはたまに昼飯を食べるくらいの仲だが、悪いやつじゃないと思ってる。多分。
この会社で日本語でメールを受け取るのは唯一の日本人である俺だけだ。日本語でメールがくればそれはもれなく俺に転送されるようになっている。今回のようなことは別に特別なことじゃない。オーストラリアで働き始めて数年になるが、もうこれは日常茶飯事だ。メールを見てみる。得意先の日系企業からホームページのメンテナンスの依頼だ。しかも今日中。終業時刻まであと3時間。時間までに片付けられるか微妙なところだ。他の仕事は今日中じゃなくても間に合う。俺は他の仕事は一旦後回しにして、その作業に取り掛かった。