壊れた魔王
入念に熟練度を上げ、レベルとステータスをカンストさせたリリー達に敵はいなかった。
強制的に転職と熟練度を上げられたロンフーの手引きで、カザブールへ向かい、そのまま竜の女王の城へ向かう。
首尾よく女王から『光輝の宝珠』を手に入れ、そのまま休むことなく、イシース地方へ飛んだ。
そのまま砂漠を超え、南東に進むと顔を出すのが、この大陸に空けられた深い深い大穴。通称、ギアスの大穴である。
「この底にシュウさんがいるんですね・・・。」
穴の縁に立ち、底を見つめて強ばるリリー。
底は暗く、どこまで続いているのかすらわからない。
流石のリリーと言えど、恐怖を感じていた。
【そうだな。扱いとしては狭間の世界と同様だ。あそことは違ってこの穴しか出入口はないがな。】
リリーの肩にのったブラドが説明する。
穴の底からは大魔王の濃い魔力の気配がする。
【ここまで濃い魔力だと中からは転移魔法が使えん。手っ取り早くお前たちが手に入れた『光輝の宝珠』を使うしかないな。】
「って事はブラドの旦那!ここからその玉を使えば、中まで入る必要はないんじゃないですかい?」
心の底から大勇者と戦いたくないロンフーは、嬉しそうにブラドに尋ねる。
【いや、あくまでも根源は大魔王だ。少なくとも大魔王の近くで使う必要があるな。】
「ですよね。そんな事だろうとは思ってました・・・。」
辺りは大きな山々に囲まれ、その窪地に、街一つ入るくらいの広大な穴が口を開けている。
全員が固唾を飲み覚悟を決める。
その時、バサっと羽根の音が辺りに響いた。
1番最初に気付いたのはミレーヌだった。
「アイツは!!」
まさに悪魔然とした堕天使。
6枚の蝙蝠の様な羽根を羽ばたかせ、悠然とギアスの大穴の上空に佇んでいる。
堕ちた天使。魔王エルギオル・クロウがそこにいた。
【勇者が消えて何をしているかと思えば、こんな所で何をしているんだァあ!?この下にいるんだろう?勇者が!我が敬愛する竜神王様の怨敵が!竜神王様は全知の存在なのだァ!!!逃げる事など出来ぬ!不可!不許可ぁ!】
焦点は合わず、目玉をグリグリと動かし、仰け反りながら激を飛ばす堕天使。
異様な気配を感じ取り、全員が臨戦態勢になる。
「な、何か変じゃない?あんな奴だっけ?」
ミレーヌが涙目になって誰ともなく尋ねる。
「・・・心の中がぐちゃぐちゃですね。恐らく、自分が何をしているのかすら把握をしていないのではないでしょうか。」
「おいおい。フィル。それはつまり、操られているという事か!?」
フィルとステラが答えを察しつつも声に出す。
【竜神王か・・・。奴の狙いはなんだ?世界の要素ををごちゃ混ぜに改変し、勇者の存在を消し、何がしたいんだ?】
答えは期待せずとも疑念がブラドの口からこぼれ落ちた。
【操られているぅ!?違う!否!不正解!私は私の意思でここにいる!私の魂が世界に使えているのだ!!そしてぇ!竜神王様の目的ぃは決まってるぅう!独りで立ち!独りで歩く為!それこそがあの方の望みなのだぁ!!】
エルギオネル・クロウが叫びの後に黒色の炎を吐き出す。
【あぁ、糞。そういう事か!それが理由か!】
「『大地の祝福』!」
リリーの祝福が全員を包み込む。
「理由などは全く興味はありません!貴方はシュウさんを傷付けた!それだけで戦う理由は充分です!」