自ら死地に挑む者(過失)
「ね、姐さん方。この辺で勘弁してくだ・・・」
「やれ。リリー。」
~~~~~~♪
法の神殿に隠されたダンジョンにて、ロンフーを初めとした守護隊の絶叫がこだまする。
大魔王軍との戦いで守護隊の平均レベルは大きく上がり、ロンフーに至っては既にレベルは80を超えている。
まともに熟練度を上げるにはこのダンジョン位しかないのだ。
「ロンフー様がカザブール地方の出身なのがいけないのですよ。貴方が転移魔法を覚えれば、『竜の女王の城』までの時短になります。」
「守護隊にはイシース地方やネクロゴント地方の出身の者もいるしな。皆の献身には感謝しかない。うむ。やはりレベル上げは死闘の先にあるのだな!シュウのやり方はあっさりし過ぎている。」
「竜の女王の城で『光輝の宝珠』を手に入れて、そのままギアスの大穴経由でアレスガルドのお父さんに届けなきゃだもんね!」
「ちょっ、それって俺達守護隊も参加するって事ですか!?
俺達は法の神殿の守護が仕事内容なんっすよ!?」
大魔王の一件から、ロンフー達はそのまま神殿の守護隊として採用された。人数こそ50人程度しかいないが、元々の神殿騎士団を遥かに上回る高レベルな修羅の軍勢である。
「ご安心下さい。既に大神官様の許可は得ております。
神殿を救って頂いたシュウ様の為ならと10人までの選抜を許可されました。」
「うむ。お前達は強い!なんせたった50人で100万の魔物の軍勢を退けたのだ!40人もいれば守護は十全と言えよう!」
フィル達が口を開けば開く程、守護隊のメンバーの目から生気が抜けていく。
いきなりこのダンジョンに連れてこられ、何十回も戦わされズタボロにされた上で、今から死地に連れて行くと宣告されているのだ。
「いやいやいや、もうホント正直、俺達魔王とか勘弁って言うか、成り行きとは言え、コイツらは俺の部下なんですし、流石に職務以外で死地に行けってのは隊長として言えないっつーかー・・・。」
隊長!!
守護隊のメンバーの目に生気が戻り、尊敬の眼差しでロンフーをみつめる。
「そうですよね!やっぱり皆さん仕事がありますもの!それに高レベルと言っても平均レベル50強ですから、場合によっては死ぬ事もありますしね。ロンフーさん。」
にこやかに認めるリリー。
ステラ達他のメンバーも不満はあるが、理解はしているのか黙認する様な姿勢である。
大魔王の存在は確かに、人間種族全体の問題ではあるが、彼等にも仕事や家族があり、いきなり死地に向かえるかと言われれば、答えはNOであろう。
「え、あ、そうですか?いやー、分かって貰えて恐縮っす!リリーの姐御!俺だけならともかく、部下もとなるとねぇ!ほら、俺一応とは言え隊長ですし?」
ガシッとリリーに肩を掴まれるロンフー。
そして自分が何を言ったか気付いてしまう。
「流石ロンフーさん!部下を置いて自分1人で戦いに参加されるんですね!ええ、ええ!大丈夫ですもの!既にロンフーさんはレベル80オーバーの強者ですし!転移魔法さえ覚えれば、行くのは1人でも良い訳ですしね!これはもう世界の命運を握っているのはロンフーさんと言っても過言ではありませんよ!」
ミシミシと音を立てて肩に力が入ってくる。
リリーの絶対に逃がさないと言う意思が伝わって来る様だった。
実際、1度でも目的地付近に行った事がある者が転移魔法を覚えさえすれば良いのだ。
その者に1度でも目的地に連れて行って貰えれば、リリー達だけでも転移魔法で向かえる。
それを良しとしなかったのは、その時間を惜しんででも自分達の戦力増強に繋げたかったのだ。
あの時、もし何か1つでも違えればシュウは死んでいた。
その事実が、重くリリー達にのしかかっていた。
勿論、その事実は守護隊の面々も理解しているし、黒金の大勇者シュウの存在に感謝もあれば、世界を救って欲しいという期待もある。
正にここに利害の一致を見た。
「隊長ぉ!!我等一同!お早いお帰りをお待ちしております!」
全てを理解したロンフーの目から生気が消えた。