とある冒険者の独り言。
私の両親はあまり褒められた人間ではなかった。
仕事はしているのかしていないのかよく分からず、いつもお酒を飲んでは喧嘩をしていた所を覚えている。
喧嘩の原因は様々だったが、両親は家族と言う枠組みにいるのを窮屈そうにしていると、幼いながらに感じた。
特に酔った際に父親に、お前のせいで不自由をしていると殴られた時はあぁやっぱり、と納得した。
一家離散したのは自然な流れだったと思う。
たまたま拾われた孤児院で、私は良い子にならないといけないと思った。
それは、これ以上棄てられたくないと言う打算もあるし、私のせいで両親が喧嘩ばかりしていたと言う負い目からでもあったと思う。
孤児院には年下の子どもが多く、小さい子の面倒をよく見ていたのは必然だろう。
それは孤児院を卒院してからも変わらなかった。
孤児院は教会に集まる寄付金から運営されているので、常にお金が無い。
私の働きで少しでもお世話になった孤児院の皆が楽になれるなら、こんなに嬉しい事はなかった。
学のない私は卒院してすぐにルイーゼの酒場に登録し、冒険者として働き出す。
仕事は何でもやった。
街のドブさらいに荷物配達、薬草集め、魔物狩りの手伝いもした。
無理が祟ったのか、運が悪かったのか、魔物の不意打ちを喰らい、大怪我をおった。
特に腕が酷く、利き腕がほぼ動かない状態だった。
腕の使えない冒険者には価値などない。
怪我による高熱でろくに動けないまま、安いアパートの自室で丸まるように怯えていた。
このまま無価値だと捨てられるならまだ良い。
孤児院の皆は優しい。
皆の負担になるのがただただ怖かった。
このまま餓死した方が良いとすら思っていた。
そんな時に私を雇ってくれたのがシュウさんだ。
提示された日当は、破格の800ゴルド。
私のひと月の稼ぎより多い。
何をさせられるかは不明だったが、そんな事はどうでもよかった。
私が死んだらお金はそのまま教会に寄付してもらえるようにルイーゼの酒場のマスターに依頼した。
初めてシュウさんを見た時、物語の英雄が現れたのかと思った。
背の高いがっしりした身体を、見たことの無い程豪華な武具で包んだ精悍な戦士だ。
珍しい黒髪黒目で、優しげな目をしている。
必要経費だ、と私に食事を与え、傷を治してくれた。
確かに仕事内容は奇妙な物で、ただひたすら魔鳥の翼で街の外から入口まで強制転移させられ続けるといった内容だった。
魔鳥の翼は高級品だ。
なんせ1個250ゴルドもする。
今日だけでも50個以上使っている。
私なら2年は暮らせる金額だ。
シュウさんの様な立派な戦士が、そんな大金を掛けて行うことだ。私の様な馬鹿には理解出来ない、凄いことをしているんだろう。
それよりもとても大事にしてくれるのが印象的だ。
シュウさんは口数の少ない人だが、常に言葉の端々で私の心配をしてくる。
私のような底辺冒険者は使い捨てだ。
名前を覚えて貰えることすら少ない。
こんな私がどれ程役に立てるか分からないが、少しでも力になれるなら嬉しいと思うのだ。
「いいか?ヒック! リリー。若いうちは何でも1人で抱え込みたくなるかもしれんがにゃー、そんなもんは俺から言わせりゃただの自己満足に過ぎん!」
「そうだそうだ!私の事をパパと呼べ!私は可愛い子ども達にもっと頼られたいんだ!」
お酒が入って真っ赤な顔をしたシュウさんと神父様が絡んでくる。
さっきからずっとこの調子だ。
酔って正気がない分、2人の心配する気持ちがそのまま伝わってくるので気恥しい。
「大体、すぐにダイエットだ何だと飯を抜くのは最近の子の悪い癖だ!多少肉がついてても、美味しそうに飯を食べる子の方が俺は良いと思う!」
「そうだそうだ!子どもは多少太っている方が可愛いんだ!その為にいつもあの拝金主義の幹部共とパパは戦うんだ!」
普段真面目な2人の酔った所を見ると何だか可愛く思えて来て、つい口が滑ってしまった。
「なら、ちゃんと食べるので私の事をお嫁に貰ってくれますか?」
「「え?」」
冗談です。とクスクス笑いながら食器を片付け出す。
どうやら私は年上が好きで、案外チョロいらしい。