2人の聖戦士
少し長いですが、キリがいいので纏めました。
「遅い・・・」
成り行きで法の神殿の守備隊長の様なポジションに着いてしまったロンフーは、イライラした様子で最上階にある大神官の執務室の窓を眺めた。
窓の向こうには、地平線を埋めつくす数の魔物達が群れをなしている。
どう少なく見ても100万匹以上いるだろう。
「口さがない者達はあの3人が逃げたなんて言っている様だな。」
執務室の机に座る元神官長が沈痛な面持ちでため息をつく。
勿論、彼等はそんな噂など信じない。
ただ今の状況には、そんな感情論等入る余地がない。
目の前に見える100万の絶望の前には、仮に彼等がいたにしても意味はないとすら思えた。
「逃げる訳ねぇ。少なくとも俺達守備隊の中にはそんな事言う奴はいねぇさ。むしろ新手の訓練とか思ってそうだなんて言ってるよ。」
はっ。と苦笑を交えて吐き捨てるロンフー。
いつも気軽にとんでもない数の魔物と戦わされた。
冒険者は体が資本である。
当然、安全マージンは大きくとる。
少なくとも自分と同レベルの魔物を数百匹も呼び出して突っ込んだりしない。
ましてや、それが効率的だと言い放ち、1日何千匹も戦ったりは絶対にしない。
そうして鍛えられた守備隊50人がいれば、数千匹の魔物の群れ等であれば確実に相手に出来るだろう。
「100万の魔物と4柱の魔王に大魔王が訓練相手か。相手に不足はなさそうだな?」
「蹴散らしてやるよ」
そしてその一言と同時に、窓の外の魔物達が動き出した。
戦いは神殿側に有利に運んだ。
勇者がどこからともなく大量に用意した聖水でトラップを仕掛け、魔物の進軍ルートを限定させ、守備隊50人による怒涛の羊呼びで順調に殲滅を繰り返していた。
しかし。
まるで雨のように降り注ぐ魔物達からの魔法攻撃。
途切れることなく迫り来る魔物の群れ。
進行開始から3時間あまり、守備隊50名は未だ誰一人倒れること無く戦い続けている。
しかし、それは薄氷の上にいる状況であった。
「反射魔法!左側薄いぞ!何やってんだ!!」
「羊班!羊を切らすな!!喉が裂けてもいい!一瞬たりとも休むんじゃねぇ!」
「聖水の補充まだか!一々箱から出す必要ないぞ!そのまま木箱を投げつけろ!」
ロンフーは自身も休むこと無く羊呼びを続け、周りに対しての指示を出し続けていた。
目まぐるしく変わる状況。
途切れる事の無い魔物達の攻勢。
そして何より初めての大規模戦闘の指揮と言うプレッシャーがロンフーの精神を削っていた。
いつものロンフーならその悪意に気付いたかもしれない。
しかし、今はそんな余裕はなかった。
慌てた様子で冒険者風の格好をした男がロンフーに近付いてくる。
「隊長!大変です!」
「あぁ!?何が・・・ぐふっ。」
「貴方は私に狙われています。」
走って来た男に刺され、崩れ落ちるロンフー。
男の顔はずるりと溶けだす。
「人に化ける魔物かっ!」
周りの守備隊のメンバーもロンフーと刺した魔物を見て固まる。
ほんの一瞬。
されど、致命的な一瞬が防御に穴を開けた。
「ロンフーさん!?」
「おい、やべぇ!空から魔法が・・・!!」
「総員!待避!!」
炎や氷、風の魔法が空から降り注ぐ。
土煙が晴れた後には、辺り一面が大きくえぐれた風景が広がる。
「ちくしょう!油断した!!全員、無事か!?」
口から血を吐きつつも、化けた魔物のを倒しきるロンフー。
土にまみれながらも、全員が弱々しく立ち上がる。
「おら!立ち上がれ!すぐに次が来る・・・」
吐血しつつも確かな足取りで立つロンフーの目に空を覆い尽くす程の魔法が目に入った。
遥か上空には1柱の魔王がいた。
魔王デューエル。
【よく戦ったな。人間よ。せめて痛みなく死ぬが良い。】
極大火炎魔法
それはまるで太陽が空から堕ちてきた様に見えた。
「あぁ、クソ。ここまでかよ・・・。すまねぇ。旦那。」
「嘆くな。今この時、我等が汝たちの剣となり盾となろう。」
「大いなる大地の息吹よ!傷ついた戦士に癒しと祝福を!!『 大地の祝福』!!」
ロンフーの目の前に赤い髪を銀のバレッタで纏め、紅に染めた鎧を付けた女騎士と、陽の光の様な金髪で癒しの光を振り撒く黒金の鎧を着た女騎士が立っていた。