とある戦神の独り言。
我が名はブラックドレアム。
破壊と殺戮を司る神である。
かつて、分不相応にも我を呼び出した人間達の国を滅ぼし、世界を破滅させかけた稀代の戦神である。
その際に精霊神ルビシアに封じられたが、その力は顕在で、復活と共にこの世を滅ぼそうとしていた。
どうもこの世界、何者かが改変をしたらしく、世界の理が多少変わってしまった様だ。
まぁ理の改変が出来る者は限られている。
堕天使のエルギオネル・クロウ辺りが怪しそうだと我は睨んでいる。
たまに一緒に封印されたルビシアがやって来てブツブツと愚痴混じりに教えてくれた。
この世界の維持・管理を司るルビシアとしては、今の状況は不味いらしく、慌てて召喚した勇者が早く来ないかと随分気を揉んでいた。
勇者か。
戦いを好む我としては、その者の強さが気になる程度だ。我を倒せる程の強者ならば、何か手伝ってやらんことも無い。
今日、勇者の奴が現れた。
強いを通り越して異常な戦いだった。
危うく本当に滅びる所だった。
奴はこの世界の中にいつつも、この世界の理から半歩踏み出している様な存在だ。
我やルビシアも神として強大な力を持っているが、それはあくまでもこの世界の中での話だ。
奴はその理その物を改変している。
我を超えるほどの高いステータス。
神の様に世界の理を深く理解している知識。
本来は世界に1つしかない宝具を複数個持つ異常性。
その1つ取ってみても異常としか言えない。
暗黒の衣を剥がせないと知った時は、むしろ安心してしまった。あぁ。こいつも理の中にはいるのだと。
かつてない程に弱体化してしまったが、大魔王の衣程度は我なら剥せる。戦神としてのプライドは守られたと言えよう。
何故か仲間として連れて行かされる羽目になったが、まぁ面白い人間なのは認めよう。
寝るまでの暇潰しには丁度良いかもしれんな。
「おい。ブラックドレアム。何かここ、脱出魔法が使えないんだが?」
【当たり前だ。ここは強大なる戦神たる我を封印するダンジョンだぞ?その程度の魔法は使えん。】
勇者はワシっと我の顔を掴んで来る。
所謂アイアンクローだ。
「おいぃ!2日後には大魔王軍が攻めてくんだぞ!?」
痛い痛い痛い!!
身が!身が溢れる!!
【デッドゴッドからなら飛べるから!最短ルートで2日もあれば着くから!痛い痛い!】
「お父さん!辞めてあげて!ブラドが死んじゃう!」
慌ててミレーヌと言う小娘が我を助け出す。
おぉ!愛いやつめ。
但し、この小娘もステータス的には勇者と同格なので注意が必要だ。
【ぬ?小娘。ブラドとは我の事か?】
「そう!ブラックドレアムだから略してブラド!どお?カッコよくない?」
ぬぅ。本来なら偉大なる我の真名を略するのは不敬なのだが、今しがた助けて貰ったしなぁ。
「気に入らないなら、私の考えたブラちゃんと言う候補もあるわよ?」
ぬ!盲た方の小娘!こやつは我の心を読んでくるから非常に危険だ。しかもブラちゃんだと!?
まるで女物の下着や男の下半身を連想するではないか!ええぃ、この小娘、不敬どころの騒ぎではないぞ!
「まだ言っているのか。フィル。その名前は何か卑猥だから駄目だと言ったろ?」
【う、うむ。それならまだブラドの方が】
「なら決まりね。さ。早く行きましょう。」
・・・ん?待て。何だか嵌められた気がするぞ!
いいかお前達!我こそは偉大なる破壊の化身。
ブラックドレアム様なんだぞ!?