疲れたOLの愚痴と答え
しばし無言でただ焚き火の火を見つめていた。
勇者不在のデモクエもどきの世界。勇者としての運命を押し付けられた。元の世界に戻れる。ただし、もう二度と戻る事は出来ない。
ルビシアが告げた言葉がグルグルと頭の中で、壊れたレコーダーの様にリピートされる。
俺は一体、どうしたいんだろう。
予想はしていたが、改めて事実を告げられて現実を受け止められずに呆然とする。
珈琲を飲み、ふぅっとため息をつくルビシア。
その様子は疲れてやさぐれている様に見えた。
「勇者因子がこの世界から消えたのは、私としてもかなり驚いたわ。基本的にこの世界は勇者と魔王の対立がベースに成り立っている世界だからね。」
「犯人は誰なんだ?」
そうだ。そんな事が出来るやつと言うのはかなり限られている。間違いなく世界の管理者側の存在だ。
「私が知りたいくらいよ。勇者因子消失による世界の改変のどさくさに紛れて、ここに閉じ込められたんだもの。出来たのはデッドゴッドの力を使って駄目元で異世界人を召喚したくらいよ。」
「・・・何だか、苦労したんだな。」
「まぁ、ね。ホントに勘弁してほしいわ。あー。いつ出られるんだろ。時間改編もついでにされてるから体感数百年くらいここにいるのよ?」
・・・あぁ。この状況、覚えがあるわ。
上司の無茶振りで残業させられている同僚の愚痴だ。
そう思うと一気に冷静になって来る。
うん。神秘的な女神も、一気に仕事に疲れたOLにしか見えなくなってきた。
残業時間数百年のド級のブラック会社である。
奴隷なんてもんじゃないな。
「うん?現在はデモクエの各ナンバリングタイトル開始の10年前だろ?そんなにここにいるのか?」
「時間改編もあったって言ったでしょ?貴方を呼び出した時間もハッキリ言って大体よ。そもそも人間と神じゃ時間感覚も違うしね。」
ホントに召喚も咄嗟だったんだし、との事。
最悪、魔王到来の百年前とか、千年後に呼び出される可能性もあったようだ。意味が無い所の騒ぎじゃねーぞ。
「さて。他に聞きたいことは?ないならもう元の世界に帰る?ログは残ってるから返す時間と場所は正確よ?」
愚痴を言えて少しスッキリしたのか、幾分か元気になったルビシアが仕切り出す。
少し悩んだが、答えはもう決まっていた。
「・・・まぁ、乗りかかった船だし、最後まで付き合うよ。ブラックドレアムを倒せばいいのか?」
「・・・いいの?」
「しょうがないさ。それにあいつらを残して逃げ出すのも後味が悪いしな。」
そう言ってテントの方に目をやる。
「あら!助かるわ!そうね。ブラックドレアムを倒してしまえばこのダンジョンの封印も緩くなるから、ここから抜け出せるもの!」
目を丸くして驚きつつも、明るい声で同意をしてくるルビシア。
しかし、ノリが本当に軽いな。
もう完全に残業を手伝うと申し出た同僚のリアクションにしか見えない。
「んで?異世界召喚にはチートのプレゼントが付き物なんだが、その辺は創世神的にはどう思う?」