女神とコーヒーブレイク
「本当は次の階層でもっともったいぶった演出も考えていたんだけどね。貴方は少なくとも私の存在は知っていた様だから。」
この世界を創成した女神にしては、かなり気安いノリと言うか、どこか投げやりな様子で、何処からともなく両手にカップに入れた珈琲を持ち、俺に渡して隣に腰かける。
お礼を言って恐る恐る口につけると、昔から馴染んだインスタントコーヒーの味だった。
「この世界はあなたの世界、特にデーモンクエストの影響を受けているわ。なんと言ったらいいのかしら?貴方の世界では物理法則に基づいて世界が成り立ってるでしょ?この世界はデーモンクエストの世界観を基に出来ている世界なのよ。」
並行世界みたいなもんか?
何でもありな癖に、事態を説明した気になれる素敵ワードだ。
「・・・何でそんな世界に俺が来る事になったんだ?俺がこの世界に来てから、まるで誰かに誘導される様に魔王達と戦ってる気がするんだが、何かしたのか?」
「した、とも言えるし、してないとも言えるわ。」
そう言ってぽつりぽつりとルビシアは話し出した。
この世界はデモクエの世界観を基に成り立つ並行世界。
デモクエの年表に従い、魔王が生まれ、世界を荒らし、勇者に倒され、平和になる、ある種完結した世界だったらしい。
そのサイクルを潰した奴がいる。
そいつは、この世界の法則の1つである、勇者と言う要素を過去・現在・未来から全て消し去ってしまった。
「そんな事をした結果が、今のこの世界。ありとあらゆる要素が歪に融合してしまった。私に出来たのは、勇者の要素の代替を用意しようとした事だけ。」
「つまり、消された勇者要素の代わりを、他の世界から呼び出した訳だ。」
「ええ。デーモンクエストを生み出した世界、その中でも特にデーモンクエストへの思い入れが強く、勇者足り得る者を呼び出したの。」
それがたまたま俺だったと言う訳か。
自分で言うのも何だが、デモクエへの思い入れは人一倍強いし、見た目もまぁ厳ついのは否定しない。
武道経験はないが、運動神経は悪くもないし、年相応に落ち着きもあるので、歴戦の勇士っぽくはあるだろう。
長年の一人暮らし、兄弟はいるが親はいないし、親戚付き合いもない。そもそもいい歳だ。
フラリと消えてもそう大きな問題にはならないだろう。
うむ。そう考えると完璧な人材だな。
俺の意思は無視すれば、だが。
「貴方からしたら勝手な事を言っているのは分かってるわ。
勇者の代わりと言う形で、この世界に組み込まれた貴方は、全ての勇者としての運命を担わされてしまっている。」
あー。おけ。把握した。
つまり、俺はこの世界では各ナンバリングタイトルの勇者として扱われる訳だ。
ルビシアとしては、この世界に誰か勇者の代わりを呼び込みはしたが、俺が来たのはたまたま。
そして俺が魔王と遭遇しまくるのも、作為的な物ではなく、寧ろこの世界の仕様という訳だ。
「もし、今すぐ元の世界に戻りたいなら次の階層である、デッドゴッドからなら、この世界に来た直前のタイミングに送り返せるわ。ただし、そうした場合、この世界には二度と戻れない。」
この世界が貴方にとって耐え難いものなのなら、関係ない話でしょうけどね、とルビシアは付け加えた。