聖女と大魔道士
さっきのは非常に惜しかった。
もうあのまま押し倒してくれれば良かったのに。
深夜。
余程疲れていたのだろう。
ソファではあの人がいびきをかいて寝ている。
現在はあの人のベットをミレーヌと私で占領している。
添い寝は流石にベットが狭かったのと、何かあったらどうする!と言う身持ちの固さから固辞されてしまった。
むしろそれを狙っているのだが。
結果的にベットを奪う事になってしまい申し訳ないことをしてしまった。
(抜け駆けするなんてズルい!)
横に寝ているミレーヌの思考が流れ込んで来る。
深夜の為、声を出さずに話せるからか思考で話すミレーヌ。
「遅いか早いかだけでしょうに。貴方もこの部屋に1人で来てたでしよ。」
(うー。だってお父さんは私の事娘としか見てくれてないもん。フィルはそうじゃないでしょ。)
図星をつかれて唸りつつも本音を吐露するミレーヌ。
あの人もそうだが、この子は本当に凄い子だ。
普通は自分の本音は隠したがる。
でもこの子はそれがない。
私は嘘が嫌いだ。
相手を慮った嘘というのは理解出来る。
でも、神官長の様に優しい心を隠した嘘というのは驚く程に少ないのだ。
人は嘘をつくとき、酷くドス黒い色になる。
そのせいか、私は本音しか話せない。
人との接する距離感も未だに分からない。
こんな私に付き合ってくれるのは神官長くらいだった。
「このまま押せばミレーヌも行けそうな気もするけどね。多分、問題は年齢よね。」
(後、4年は長いよ・・・。)
「それにシュウ様の中では他の女の人への想いがあるわ。多分、2人はいる。確実に。」
(だよね!あー。誰なんだろう。仲良く出来るかなぁ?ね。ね。そー言うのは分からないの?)
「そこまで正確には分からないの。まぁ大事にしてくれるなら何番でも構いませんけど。」
あの人の中ではピンと来ていない様だが、実際複数の妻と言うのはない話ではない。
ミレーヌとしても問題はなさそうだ。
あの人やミレーヌと話すのは本当に楽しい。
2人には私に対する壁がないのだ。
そのせいか、あの人に対してはからかう様な態度になってしまうのだが。
「ねえ。本当に大神官辞めちゃったの?」
声に出して聞いてくるミレーヌ。
余程気になったのだろう。
そう。私は神官職を辞めた。
衝動的だったとは思うが、後悔はしていない。
あの人やミレーヌと一緒にいる心地良さが何物にも変え難い物だと気付いてしまったのだ。
「ええ。全部神官長に任せました。だから本当に今の私はただのフィルです。こんな私でも一緒に着いて行っていいかしら?」
「勿論!宜しくね!フィル!」
つい大きな声を出してしまい慌てるミレーヌ。
「ミレーヌがフィルって呼んでいいって聞いてくれて本当に嬉しかった。私は姉妹や友達もいなかったから、ミレーヌとこうやって話せて嬉しい。」
(私も友達いなかったから嬉しいよ!フィルには悪いけど、見た目はあんまり変わらないから、友達みたいに思ってるけど。)
「言ったわね?シュウ様は私の大人の魅力に籠絡寸前なんだから!」
(同じペタンコの癖に・・・!)
姉妹の様な、友達の様な私達の姦しい会話は夜がふけても途切れる事はなかった。