真っ暗な洞窟の中で
少し早いですが、ちょっと忙しいので先に更新致します。
いつもありがとうございます!
薄暗い洞窟の中にはむせ返る様な死の気配が漂っていた。
時折、不気味に木霊する魔物の泣き声。
視界はハッキリとせず、暗がりにある何でもない穴すら、まるで冥府に繋がる深い闇に思えた。
「ほ、本当に進むのか?」
「ま、魔物の巣に、と、飛び込むようなもんだろう。」
「うるせぇ!もう俺達には進むしかねぇんだよ!」
法の神殿の守護騎士団の生き残りや、村の戦士崩れ達が口々に漏らす不満をロンフーが一喝する。
俺だって好きで来ている訳じゃねぇよ!
それもこれも全てあの親子のせいだ。
ロンフーとしては、今までの状況は悪い物ではなかった。
強さを見せつければ大きな顔が出来た。
食料は量が少ないとは言え、魔物達が定期的に持って来てくれたし、強ければ好きなだけ食べれた。
明らかに魔物達が何か企んでいたのは分かっていたが、今さえ良ければそれで良かったのだ。
今更スキルや職が戻っても外で通用すると思えなかった。
確かにあの親子は強い。
きっと世界を救う勇者とはあんな人間なのだろう。
だが、いちいち自分を巻き込まないで欲しかった。
「井戸の底で満足してる蛙を外に連れ出さないでくれよ。」
思ったより大きな声が出てしまったのか、開けた大広間の様な部屋に声が響く。
聞いた話では、洞窟の奥の広間にはとんでもなく強い魔物がいて、中腹の村への入口を守っているらしい。
ロンフーの足元に2つの人影が飛んでくる。
ドグシャ!!
「な、お、おい!だいじょ・・・」
まさかあの二人が、と言う驚きと心配、あの二人が倒れた場合、魔物達の報復対象は自分になるのでは?と言う我が身可愛さの自己保身。そして少々のざまあみろと言う薄暗い満足が混ざる。
よく見るとそれは2体の人型の魔物だった。
形は人だったが、虎のような顔は恐ろしい表情を刻み込んだまま事切れていた。
「ごめんなさい。ロンフーさん。当たらなかった?」
この死の気配に満ちた洞窟には似合わない、落ち着いた雰囲気の少女が近寄って来る。
苦い顔をしながら問題ないと少女につげる。
小柄な少女だ。
歳の頃は12歳とか言ったか?
動きやすそうなゆったりとした白いパンツに白のシャツ。袖のない青いロングのジレを着て、上から、何か魔法の品なのだろう、精密な細工を施された胸当てをつけている。
たなびく亜麻色の髪も合わさり、見た目はまるで聖女だが、中身は化物である。
詳細は聞いていないが、この数日付き合わされた怪しい儀式により、ロンフーを小指で捻られる程の力の差が着いてしまった。
「まだ力の加減に慣れていないみたいだな。怪我はしてないか?ロンフー。」
ミレーヌの後ろから鎧をつけた戦士が現れる。
自分と変わらない程、背の高い異国の戦士。
シュウと言ったか?
見たことの無いほど豪華な黒金の武具を見に纏い、まるで散歩をする様に歩いて来る。
突然現れたコイツに関わったのが全ての始まりだった。
「今の2匹で粗方片付けたようだ。中腹の村まですぐだし、このまま一緒に行こう。」
シュウと並んで歩くロンフー。
横目で彼我を見比べ、あぁ。コイツは俺とは違うんだと改めて暗い気持ちになる。
みすぼらしい皮鎧を着た自分とは違う。
コイツならどんな魔物も恐れないし、どんなダンジョンも易々と突破するだろう。
ほんと、勝手にしてくれよ。
「あぁ。そう言えば、さっきの蛙の話だがな。」
やべぇ。聞かれてたのか!?
「井戸の蛙は大海を知らんだろうが、井戸の深さも空の高さも知っている。俺達にはこの村や法の神殿の細かな事情は分からん。頼りにしてるんだ。頼むよ。」
ポンと背中を叩かれる。
背中が熱くなる。
背中から熱が全身を駆け巡る様だった。
「お、おう。任せてくれよ。旦那!」
洞窟の先、眩しい光に照らされた村が目に入った。