抗い
そこはまるで神殿の様だった。
大きなフロアに魔物の群れがひしめき合い。
一段高くなったステージには、大きな篝火が焚かれ、街の人達が並べられていた。
私も街の人達の列に紛れ込み、目立たない様にキョロキョロと目を動かし、お父さんを探す。
いた!ステージの真ん中の方に、いつもの鎧を付けたお父さんが虚ろな目をして立っていた。
待ってて!今助けるから!
何とかお父さんと抜け出す隙はないか辺りを窺う。
何かの集会が始まるのだろう。
ステージの中央に置かれた石造りのベットの横で、一際大きな、鳥頭の悪魔が演説をしている。
【見よ!この哀れな人間たちを!己の欲望のままに生きた身勝手な者を!不遇な生から逃げ出すしか出来ない弱き者を!幸福の町等と言う甘言にやすやすと惑わされる愚か者共を!】
悪魔の言葉が私に突き刺さる。
不遇な生から逃げ出すしか出来ない弱き者。
あぁ、そうかもしれない。
私はただ、助かりたかった。
逃げ出したかっただけだなのだ。
悪魔の言うことは正しい。
【聞け!我が同胞達よ!
例え、大魔王様が封印されようと、このジャミエルがいる限り、魔族は滅びん!我を讃えよ!我を崇めよ!そして今ここに大魔王様復活への生贄を捧げる!】
【【【ジャミエル!!ジャミエル!!】】】
生贄!?
ろくな目的ではないと思っていたが、まさかそんな!
鳥頭の悪魔がお父さんに近づいて行く。
お父さん!!
【今宵の最初の生贄はこいつだ。
むぅ。中々の戦士だな。大魔王様もお喜びになるだろう!】
お父さん!お父さん!お父さん!お父さん!
頭の中が真っ白になって鳥頭の悪魔に向かって走る。
抗いなさい。
抜いたなら、躊躇をしてはいけない。
2人の教えが私の中に染み込んで行く。
そうだ。教えて貰ったはずだ!
力を貰ったはずだ!
腰に差した鞘からナイフを引き抜く。
冷たい。でも暖かな白金の光に刀身が包まれる。
「うわああああああああぁああぁああ!!」
お父さんは私が守る!!
走り出した勢いのまま、腰だめに構えたナイフを悪魔に突き立てる。
輝く刀身の光が辺りを包み込む。
【ぐぅう!この餓鬼!薬が効いていないのか!?】
バキっ!
悪魔に振り払われ、飛ばされる。
勢いで口を切ってしまった。
頬がジンジンと熱い。
諦めない。
私は絶対諦めない。逃げない。
お父さんを助けるんだ!!
手に持ったナイフが私を励ますように輝く。
「お父さんを返せ!!」
【ふん!多少順番が狂ったが、今宵の生贄は貴様からだ!小娘ぇえ!!】
炎を纏った爪が私に向かって振り下ろされる。
ナイフを握りしめて再度突き立てるべく突進する。
ドン!
・・・あれ?
ナイフを突き立てたが、何時まで経っても悪魔の爪が私を刺すことは無かった。
上を見上げると、あの恐ろしい悪魔の腕がなかった。
不意に後ろから声が聞こえた。
「ウチの可愛い娘になにすんだ。鳥野郎!!」
そこには剣を握ったお父さんが立っていた。