絶望の町と幸福の町
カルカナと言う町は不毛の砂漠にある町だ。
ここには人生に絶望した人達が集まる。
満月の夜にやってくる、幸福の町への定期船に乗る為だ。
幸福の町では、傷つく事も老いる事も病気になる事もなく、ただ幸せに満ち足りた暮らしが出来るらしい。
まぁ魔王の嘘なんだが。
こカルカナ自体が大きな罠なのだ。
この町の飲食物には全て麻薬の様な薬が入っており、飲み食いすると、虚ろな目をした生ける屍になる。
後はそのまま船に積み込まれ、海を渡った島に待ち構えている魔王ジャミエルとその部下達によって、大魔王への生贄にされてしまう。
生贄にされ死んでしまえば、生老病死からは開放されるだろうが、少なくとも俺はごめんである。
「ミレーヌ。この町の飲食物には毒が入っている。
腹が空いたら俺に言え。決してこの町の物は口にするな。」
「は、はい!」
「良い子だ。」
あれから飯を食べ、一眠りしたミレーヌとは多少打ち解けた様に感じる。少なくとも敵意や害意がないのは伝わったのだろう。最初会った時のような暗さはない。
脱走して来たミレーヌは囚人の様な服に裸足だった為、この町についてすぐに宿を取り、袋から風呂とお湯を取り出し体を綺麗にした。
魔法の袋様々だ。
当然、俺は一緒に入ってもいなければ、覗いてもいない。
その後に店を周り、ミレーヌの装備を整えた。今じゃすっかり美形のお子様だ。
亜麻色の髪を後ろで束ね、シンプルな白い半袖とズボンの上から『 魔法の胸当』を付け、その上から氷炎のローブを纏い、『 白銀のティアラ』をかぶらせた。
白基調の服と整った容姿で、まるで聖女の様な見た目だ。
ゲームでは青いロングのジレ(チョッキとは言わないらしい)を着てふわふわ浮く謎の羽衣?を纏っていた。
あれの浮力は何なんだろう?
「ふぅむ。しかしこの町はミレーヌの教育に良くないな。さっさと移動する方が良いかもしれん。それになんだ?甘い匂いがするな。お香か?」
町の住人のほのんどが焦点の合っていない死んだ目をして涎を垂らして座り込んでいるのだ。
道具屋や武具屋が比較的まともに機能しているだけマシなのか?
実際問題、特に魔王ジャミエルを今倒す必要はないのだ。
デモクエ6は話の流れこそあるが、魔王を倒す順番は特に決まっていない。
ここの住人には悪いが、幼いミレーヌを危険に晒してまで今すぐジャミエルと戦う必要性は感じない。
ストーリ通り、サンマリノまで連れて行った方が良いかもしれんな。・・・何処にあるかは知らんけど。
「・・・少し、この人達が羨ましいかも。
何も感じずにいれるなら、これ以上傷つく事はないもの。」
重過ぎる一言をポツリと呟くミレーヌ。
返答に困ったので、取り敢えず頭を撫でてみた。
「あぁ。そうだ。これも持っておけ。」
そう言ってさっきこそっと井戸の傍で拾ったナイフを渡す。
実はこれ、クリア後に隠し場所が分かる隠しアイテムの1つで、結構なレアアイテムである。
「あ、ありがとう」
うむ。可愛いぞ!
ゲームではミステリアスな美人だったのだが、幼い今は妖精の様な可愛さがある。
ロリコンに目覚めそうだ。
・・・待て。リリーやステラとの年齢差を考えると既に目覚めているのではないだろうか?
1人で耐え難い事実に悶えているとミレーヌが心配そうにこちらを見てくる。
やべぇ。不審がられてる。
「あぁ。何でもない。・・・そのナイフはみだりに人に見せたり抜くんじゃないぞ。あくまでも護身用だ。」
・・・ここは真面目な話で誤魔化そう。
ポンとミレーヌのまだ小さな肩に手を乗せ、しゃがみ込んで目線の高さを合わせる。
「ただし。抜いたなら使う事に躊躇をするな。昔の剣士の口伝で、抜かば斬れ。抜かずば斬るな、と言うのがある。自分を守る為に使いなさい。」
ど、どうだろう?誤魔化せただろうか?
通報は避けて欲しい。
「はい!必ず言い付けは守ります!」
よし。良い子だ。
誤魔化せた事に安堵しながら、またミレーヌの頭を撫でる。
ミレーヌが何かボソリと呟いたが、つい聴き逃してしまった。まぁ微笑んでおこう。
「さ。宿に戻ろう。」
「はい!」