ルーチンワーク
『村人 』と言う職業がある。
この職に就いたキャラは全ステータスが半分になるマイナス補正が掛かり、攻撃スキルは一切覚えない。
ただ、廃人の多くは必ず村人を育てる。
熟練度10で覚えるスキルが非常に破格なのだ。
補助スキルの中でも最高位とされる『大地の祝福 』だ。
これはパーティ全員の攻撃力・速さ・守備力・魔法攻撃力を倍にし、さらには回復もすると言う破格の性能がある。
そして、1つの小さなバグがあった。
「大いなる大地の息吹よ!傷ついた戦士に癒しと祝福を!!『 大地の祝福』!!」
囚われのリリーがまさに欲しかったスキルを唱えた。スキル発動のエフェクトで薄らと輝く様は、天使か女神に見える。
ナイスアシスト!!
原作の百合姫何か目じゃないくらいの聖女っぷりだ。
ちなみに、デモクエ1の百合姫は一緒に行かせてくださいと言うお願いに、どれだけ“いいえ”を選んでも、“はい”を選ぶまで永遠にループさせてくるシリーズ屈指の肉食系ヒロインだ。
【 フン!無駄な事!どれだけ祝福を与えようとも我が『 暗黒の衣』のまえ・・・】
斬っ!!!
魔王の腕と片翼が宙に舞う。
浮力を無くし、そのままの勢いで地面に激突する魔王。
【 な、何故だ!我が衣はあらゆる攻撃を無効化するはず!!】
地面でもがきながら魔王が叫ぶ。
そう。『 暗黒の衣』はあくまでも攻撃を無効化するだけ。
『 大地の祝福』には1つのバグがある。
『 大地の祝福』を使うと効果期間中はあらゆる攻撃が補助として処理されるのだ。
つまり、攻撃なのに補助の属性を付与された一撃は相手の防御力を無視した致命の一撃となる。
当然、魔王の『 暗黒の衣』も無視だ。
補助属性の為、『 暗黒の衣』の攻撃無効化能力を貫通し攻撃が通ってしまう。
熟練度MAXの『 村人』さえ入れば極論、物語開始直後に魔王を倒すことも出来る。
ちなみにこれは、リメイク版でもそのまま残ったバグなので、むしろ仕様と言えるだろう。
『 村人』職自体がやり込み要素みたいなもんだしな。
普通の装備じゃスライムに1発小突かれただけで死ぬし。
リリーの様に最強格の装備でもない限り、『 村人』を熟練度MAXにする労力でクリアが出来る。
よく今までリリーは死ななかったな・・・。
地に倒れ付した魔王の前に剣を握り締めて見下ろす。
先程の一撃がほぼ致命傷だったらしく、憎々しげな表情で見上げてくる。
「お前の敗因はたった1つ、シンプルな答え・・・いや。結構あるな。」
【 !?】
「そもそも全体的にステータスが低過ぎる。
初期版でHP100、リメイク版でも最大HPが240しかないのは致命的だ。しかも魔王の癖に2回行動なし、『邪悪の波動 』何かの補助解除技もないから、『大地の祝福 』使われた時点でほぼ詰んでいる。
しかも第2形態への変身フラグが、実はHPが3分の1になる事なのに、HP1で生き残る『食いしばり 』スキルがないからオーバーキルされるとそのまま死ぬ。」
まぁ初代デモクエの仕様とも言える。
初代デモクエでは勇者に仲間もおらず、魔王と1対1のタイマンバトルだ。
またハード機の容量制限も今より大きくあった為、勇者のレベル上限も30までしかない。
コイツはレベルMAXの戦士と熟練度MAXの村人を相手にした時点で詰んでいたとも言えるだろう。
【 わ、ワシの仲間にならんか!?これだけの力を持ったお主になら、世界の半分をや・・・】
ザシュッ!!
「世界何かいらないね。」
ちなみにここで“はい”を選ぶとゲームオーバーだ。
朽ち果てた魔王がチリとなって消え、拳大の大きな魔石と魔王のつえだけが残った。
「シュウさん!!」
開放されたリリーが笑顔で駆け寄ってくる。
「言ったろ?ただのルーチンワークさ。」
自分史上最高のドヤ顔を決めてやった。