最初の1歩
デモクエには様々なキャラクターが登場する。
各キャラクターには様々なバックボーンや裏設定等が存在するが、逆にそれ等が全くないキャラも存在する。場合によっては名前すら出ないキャラもいる。
特にそれは古いナンバリングタイトルに顕著だ。
ゲーム黎明期。
まだデモクエが今の様な怪物タイトルではなく、珠玉混合の数あるタイトルの中の1つだった時代。
それはハード容量等の技術的な問題や予算的な問題、諸般の事情から、最初に構想された話を削りに削られたタイトル。
それが初代デモクエ。デーモンクエスト1である。
とある王国にふらりと現れ、その国のお姫様を拐った悪い悪魔とその手下達。そして、その悪魔を倒すこれまた出自不明な勇者が戦うと言うストーリーだ。
その後、外伝や続編である程度のバックボーンは語られたが、終ぞその悪魔について語られることはなかった。
これをこの世界に当てはめた場合、どうなるのか。
この世界はデモクエの要素をごった煮で詰め込んだ様な世界だ。つまり、初代魔王はどこらかともなくやって来て、お姫様を拐うタチの悪いエンカウントモンスターとして処理されるのではないだろうか。
そして捕らえられたお姫様も発売当時は名前もなく、
ただ、百合姫と呼ばれていた。
「ぁああああああああああっ!!」
挫けそうになる心を雄叫びで奮い立たせ、全力で宙に飛び上がり剣を振るう。
『 戦士』の熟練度5のスキル、『全力斬り 』である。
【効かん!効かんぞ!!貴様がどれ程の戦士だろうと!どれ程の斬撃であろうと!我が『 暗黒の衣』の前では無力よ!! 】
まるで地の底から響き渡る様な、耳障りな声で魔王が叫ぶ。
やっぱりか・・・!
魔王が魔王たる所以。特定のアイテムで剥がさない限り、あらゆる攻撃を無効化する全シリーズの魔王が共通して持っている『 暗黒の衣』のスキルだ。
『 暗黒の衣』を剥がすには『 光輝の宝珠』が必須だ。あれを手に入れるには幾つかのダンジョンを攻略しないといけない。
一旦引いて装備を整えるべきか?
デモクエ1では捕らえられた百合姫は勇者に助けられるまで洞窟に監禁されていた。
身の安全は保証されていると言える。
頭の中で逃げ出す言い訳を重ねる俺にリリーが叫ぶ。
「シュウさん!逃げて下さい!私なら大丈夫です!」
魔王の魔力に捕らえられ、不安で泣きそうな気持ちを押し殺し、自分は大丈夫だから逃げろと訴えてくる。
今俺は何を考えた?
一旦引く?
リリーは安全?
ここは確かにデモクエに似た世界だ。
地名も魔法もスキルも、バグ技だって存在する。
でも決してゲームではない。
不安で目に涙を浮かべ、震えながらも逃げろと叫ぶリリーにそれが言えるのか?
ガシャっ!
「リリー。あまり最速クリア記録保持者を舐めるなよ?」
震えを諌める為に大きく1歩を踏み出し、不敵に笑う。
「世界を救うなんてただのルーチンワークだ。」