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アッシュ・カラーズ

 

 やべぇな、超引いてる。

 いきなり邪神って言ったら、そりゃ引くよね。

 さっきまで尊敬みたいな感じだったのに頭のおかしい人を見る目になってるぜ。


 でも、そういうのが良いんだ。

 適当に誤魔化せば上手くいったんだろうけど、上手くいくばかりじゃつまらねぇ。

 あえて自分の置かれてる状況を悪くして、そこからの逆転を目指す方が面白いだろ? だから、俺はヤバい方を選択するんだ。


「頭おかしいの?」


 魔法使いの女の子が率直な意見を述べてくれたね。

 まぁ、普通に生きている人のを感性を正気というなら、俺は普通に生きてないから正気ではないかな?


「ええと、なんて言えばいいか」


 リーダーらしい青年も困った感じになってやがる。

 残るは斧使いのギドだけど——


「マジか、スゲェな」


 ギド君好き。キミとはお友達になれそうだぜ。


「信じられないと思うけど、俺は本当に邪神なんだよ」


 俺の言葉に三人が別々の反応を見せる。

 魔法使いの女の子は俺を頭おかしい人間として見ていて、リーダーは判断を保留、ギドは純粋に驚いている。

 まぁ、別に信じてもらう必要も無いんだけどね。単に俺が嘘を吐く気分じゃなかったから、事実を明らかにしただけだし、特別の意図があったわけでもないからな。


「何かあったの?」


 おっと、さっきお使いに出した弓使いの女の子が帰って来たぞ。

 ちょうどいいし、少し飲み食いしながら話そうか。


「俺のおごりだ。少し酒でも飲みながら話をしないか?」

「それ俺の金じゃねぇの?」


 ギドが何か言っているけど聞かないことにしておこう。

 そもそも俺はギドに勝ってるんだから、ギドの金は俺の金だろ?


 何か言いたそうなギドは相手にせず、俺達は街道の脇の草原で酒盛りを始めることにした。

 まぁ、俺は食事をしなくても平気なんだけどね。それでもまぁ、趣味で食事をしたり酒を飲んだりするんだわ。


「ささ、どうぞどうぞ、お兄さん」


 色々と面倒なことに付き合わせてしまったので、俺は御詫びとしてカイルにお酌してあげる。

 ちょっと自己紹介して貰って、カイルとギドとクロエとコリスっていう彼らの名前と彼らが冒険者っていう職業なことは分かった。

 やっぱり冒険者ってことで俺はちょっとホッとしていたりする。あんまり馴染みのない名前だと覚えられないしさ。。


「あ、いえ結構です」


 カイルは遠慮しがちだなぁ。

 もとはキミらの金なんだから、もっと飲んでも良いんだぞ。

 俺としても喧嘩売って申し訳ないと思ってるんだし、もっと図々しくして良いんだぜ?


「俺の金で買った酒なんだけど」


 そうだねぇ、じゃあギド君も飲まなきゃね。

 それとも何か食うかい? 全部、キミの金で買ってきてもらった物だから遠慮は不要だぜ?


「ところで、結局その人はなんなの?」


 弓使いのコリスちゃんが空気を読まずに口を開く。

 いいねぇ、そういうの好きだよ。他の皆が聞けないことを代わりに聞いてくれたんだろ?

 聞きにくいことを率先して聞くっていう心意気は良い。俺としてもそれには応えてやらなきゃな。


「俺は異世界から来た邪神アスラカーズで——」

「それはもういいから」


 あ、いいのね。でも信じてくれてないだろ?

 まぁ、信じてもらえるはずもないけどさ。でも、信じてもらう必要も無いから、俺はこんな風に簡単に自分が邪神だって言ってるんだけどね。


「結局、この人はどういう人なの? 自分を邪神だと思い込んでる頭のおかしい人?」


 コリスちゃんはズバッといくね。

 他のみんなが何とも言えない表情になってるよ。


「思い込んでいるわけじゃなくて事実なんだけどなぁ」


 そう言って俺はこの世界に来た経緯を話す。

 まぁ、言ったところで荒唐無稽だから信じて貰えないけどさ。

 その結果、俺は頭のおかしくなった人って感じでカイル達には見られているけど、それもまぁ良いもんだ。印象が最悪なら後は上がっていくだけだしな。


「とりあえず、記憶喪失とか記憶が混濁している人って扱うべきじゃない?」


 クロエちゃんが俺を無視してカイル達に話しかけている。

 どうやら保護すべき対象って俺のことを認識したようだ。


「つーか、そもそも邪神ってなんだ? さっき、コイツの話を聞いたけど何がなんだか分からなかった」


 さっきの話っていうのは俺がこの世界に来た経緯のことね。


「この世界は邪神とかそういうのはいないのか?」


 俺が訊ねるとカイルが頷き、答えてくれる。


「邪神という存在は聞いたことがありません。僕らの世界は六柱の神によって治められている世界で、邪悪な神というと、魔族が信仰する黒神がそれにあたると聞きますけど……」


 カイルは俺を一応は異世界の神様として見てくれているのか、それとも記憶喪失の男と見ているのか、この世界の当たり前の知識を俺に教えてくれた。

 カイルが教えてくれた情報は俺にとっては結構重要な物で六柱の神っていうキーワードを得ることが出来たのは大きい。


「でも、自分を邪神なんて言うの冗談でも止めておいた方が良いと思いますよ? 知っていると思いますけど、今は魔族と人間は戦争中ですし、魔族の仲間なんて疑われたら大変なことになると思いますし」


「知っていると思いますけどって言われてもなぁ。俺は異世界の邪神だし、この世界の事情とか全く分かんないんだよね。もしかして、今って戦争中だったりするのかい?」


 俺がそう言うと、カイル達は顔を見合わせて何とも言えない表情になるが、やがて仕方ないと言った感じに俺に説明を始める。

 良いよね、こういうお人好し共。俺の方も困ったことがあったら助けてやろうって気持ちになるぜ。


「今、ヒトの治める国々は魔族の王である魔王が率いる魔王軍と戦争中なんです。僕たちの今いるラザロスのあるアウルム王国は幸いにも戦場から遠い土地なので安全ですけれど」


 ふーん。そうなんだ。

 邪神ってのはいないけど、黒神っていう魔族の神と同一視されそうだし、そうなったら人間から攻撃されるかもね。でも、それはそれで良いかもね。待ってるだけで戦う相手がいくらでもやって来そうだし、退屈はしなくなるよな。


「まぁ、戦争のことは良いや。それよりも他の神様の話を聞きたいな」


 クロエちゃんが、自分が聞いたんじゃないって感じで俺を睨んでくるけど、人間の視線をいちいち気にしてたら邪神なんてやってらんねぇから気にはならない。まぁ、人間だった時から他人の視線とか気にしたことないけどな。


「他の神っていうと、黒神の他には赤神、青神、緑神、黄神そして白神がいて、その中では人間の多くが白神を信仰しています。赤神なども広く信仰されていますけれど、信者の多くはドワーフやエルフなどの亜人ですね」


 なるほどねぇ。色々といるもんだ。

 とりあえず、その六色の神を調べてみるのが良いかな?


「その神様たちにはどこで会える? 例えば白神ってのには?」


「いや、神様に会うとか無理だと思いますよ」


「いやいや、無理じゃないって。そこはほら俺は邪神だから、一応は神様なのでキミら人間と違ってフリーパスで会えたりとかすると思うんだよな」


 俺の言葉にカイル達は微妙な表情になる。

 まぁ、信じて貰えてないからしょうがないね。


「会えるといったら、聖地クルセリアとか?」


 クロエちゃんが思い当たることがあったようで、地名を口にしてくれた。

 クルセリアね。そこにきっと白神を祀る教会の総本山とかがあるんでしょう。


「つーか、そこへ行かなくても今度、白神祭りがあるじゃん」


 なんだか気になるワードが出たんで、俺はギド君の方を見る。

 俺の視線に気づいたギド君が仕方ないと言った感じで説明を始める。


「ラザロスの町では年に何回か白神様を祭る儀式があって、その時に町を挙げてのお祭りをするんだよ。そんで、その祭りの最後には白神様が降りてきて、ラザロスの町に祝福をもたらしてくれるんだってよ。まぁ、俺らは一度も白神様の姿は見たことねぇけど」


 それは良い話を聞いたな。

 そのお祭りで本当に白神ってのがこの地に降りてくるんなら、そこをぶちのめして話を聞こう。

 何か分かるかもしれない、分からないかもしれない。でもまぁ、この世界の神様は世界の管理もマトモにできないクソなんだし、どっちみち生かしておかないけどな。

 ろくでもない神様のせいで、こうやって俺とお話をしてくれたカイル君たちが大変な思いをすることになるのも面白くないしさ。


「こいつ、なんか悪いこと考えてそう」


 なんですかコリスちゃん。僕はいつだって善良だぜ?

 だから、カイル君もそんなに心配そうな顔で俺を見なくていいんだぜ?


「あの、本当に変なことしないでくださいね。えーと、アスラカーズさん?」


 一々、アスラカーズって言わなくても良いんだけどね。

 アスラさんとか、カーズさんとか好きに呼んでくれて良いよ。


「っていうか、そいつが本物の邪神かどうかはともかく、一応は邪神なのに本名を明らかにしていて良いわけ?」


「なんで?」


 クロエちゃんの疑問に俺は疑問で返す。

 いや、言いたいことは分かるよ? 本名を名乗って邪神だってバレると面倒なことになるとか心配してくれてるんだろ? でも、俺としては邪神と名乗ることで、いっぱい敵が現れることを狙っていたりもするわけで――


「なんでって、そういう存在は可能な限り、名前を隠して暗躍するのが物語のお約束だし——」


 フィクションに傾倒しすぎじゃないですかね?

 自分で言っていて気付いたのか、クロエちゃんは顔を赤くして黙り込む。

 俺も顔が真っ赤になりそうだね。クロエちゃんの考えを全く読めてなかったのに、自信満々で答えを得た気になってたし。


「でも、本名を隠すのは悪くねぇよな」


 せっかく違う世界に来たんだから、違う存在になってみるのも悪くないかな?

 でもって、何かあった時に正体を明らかにするってのも面白いか?

 ただ、そうなると、邪神関係で俺を狙ってくる奴を入れ食いってのが出来なくなるしな。まぁ、別にいつ止めても良いんだし、そんなに気にすることもねぇか。


「どんな偽名にするかな……」

「え、もしかして本気で名前を隠して行動する気?」


 そりゃしますよクロエちゃんもそれを望んでいるみたいだし、邪神たる者、人の願いは叶えてやらないとね。

 それで偽名だけど——


 アスラカーズ—―アシュラカーズ——アシュラ・カーズ?

 アシュ・ラカーズ——アッシュ・ラカーズ——アッシュ・カラーズ?


「とりあえず、アッシュ・カラーズって名乗ってみようか」


 別に意味はねぇけどさ。

 そのまま続けることもあるだろうし、飽きたら名前を変えるかもしれない。もしかしたら、偽名自体をやめることもあるだろうから、そんなに真剣に考えることでもない。


「というわけで、俺は今からアッシュ・カラーズだから、それでよろしく。ついでに身分も邪神アスラカーズを信仰するアスラ教徒ってことにしたからさ」


 カイル達が「えぇ……」って感じで俺を見る。俺に対してマジで考えると疲れるだけだし、流してくれていいぜ?

 アスラ教徒ってのも、この場で思いついただけの設定だけど、せっかくだし本気でやってみても良いかもな。俺を信仰する奴が増えるってのは俺の力を取り戻すことにも繋がるしな。なんだかんだて神様の力ってのは信仰する奴らの多さも関係しているからな。


 何だかどんどん目的が増えてくけど、そういうのも良いもんだ。

 やることが無いよりは有った方が楽しいからな。

 退屈しねぇってのは幸せなことだよ。そう考えると、この世界に来たのも悪いことばかりじゃねぇな。ちょっと祝杯をあげたい気分になってくるぜ。





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