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慣れた手法

 人間という種がいる限り、絶対に廃れない金儲けがある。

 それは殴り合いだ。いつだって殴り合いってのは金になる。


 どうやって稼ぐかって?

 まぁ、ちょっと見てろ。


 俺は門から少し離れると、街道の脇に立って道行く人々を観察する。

 幸い人通りは多くもなければ少なくもない。多すぎても良くないし、少なすぎても駄目なんだよな。

 ほどほどに注目されるくらいじゃなきゃな。


 観察してどうするのか?

 良い相手がいれば呼び止めるのさ。素人は駄目で自分の腕っぷしに自信がある奴が良いし、できれば複数人で行動してる奴が良いな。複数人だと断れなくなるからな。


 そういう条件で人を見繕っていると、ちょうどいい連中がやってきた。

 男女二人ずつの四人組の青年たちだ。全員が武器を携行しているんで、冒険者とかそういう系統の仕事の奴だろう。

 俺の求めている条件にも合う連中なので、こいつらが良いんじゃないかと思い、俺は街道を歩いている四人組へ道の脇から声をかけた。


「ちょっとそこのお兄さんお姉さん」


 俺は目立つ上、声も良く通るんで、呼び掛ければ大抵の奴が気付く。

 別に普通の格好をしてるし、声が大きいわけでも無いんだけど、人間だった時から俺の声は人に良く届くんだわ。


「え?」


 四人組のリーダーっぽい奴が困惑した感じで辺りを見回している。まさか、自分が声をかけられるとは思わなかったんだろう。誰に向けての呼びかけか他の奴を探してるようだった。


「おいおい、俺のことをチラチラと見てたくせに、その態度は無いだろう」


 俺と青年の眼が合い、青年は自分の事かと自分の顔を指で指し示してみせたので、俺は頷き、四人組に近づく。


「ちょっとそこ行く、お兄さんお姉さん。少しお時間良いですかってね」


 俺は困惑している四人組をそのままに彼らの行く手を遮るように街道のド真ん中に立つ。

 何事かと思って道を歩いていた人たちが足を止めて俺達の周囲に集まってくる。


「ええと、何か用でも?」


 腰に剣を帯びたリーダーっぽい青年が困った顔で俺に訊ねる。

 こいつはちょっと後回しかな? 他には斧を担いだ奴と、弓を背負った女の子と魔法使いっぽい女の子がいるけど、女の子は無しだな。となると斧を担いだ奴か──


「何か用があるかって? そうじゃなきゃ呼び止めたりしねぇだろ?」


 そう言われても身に覚えが無いだろうから、俺はさっさと用件を伝えることにする。


「見た所、アンタらは腕が立つようなんでな。ちょっと腕試しでもどうだい?」


「腕試し?」


 斧を背負った奴が食いついていた来たぞ。良い傾向だ。


「そう腕試しだ。相手は俺で、俺に勝ったら──そうだな、銀貨を五枚やろう。ただし挑戦料として銀貨を一枚貰おうかな」


 銀貨を五枚なんて持ってないけどな。でもまぁ、持ってなくても勝てば問題ない。


「ルールは?」

「おい!」


 斧を持った奴は興味津々みたいだが、それをリーダーっぽい奴が止めてる。

 弓使いと魔法使いの女の子たちはあんまり興味が無さそうだね。でもまぁ、それで良いよ。


「そっちは何を使っても良いぜ。決着はどちらかが戦闘不能になったらで」

「アンタは何を使うんだよ?」


 おっと、斧使い君が俺を心配してくれてるぜ。

 まぁ、どう見ても俺は丸腰だからな。そんな奴に斧で攻撃するのはちょっと躊躇われるんだろうね。


「俺は素手だよ」

「舐めてんの?」

「ほどほどにね。でもまぁ、御心配なく。俺はキミらより遥かに強いんでね」


 自分たちより強いって言葉に弓使いと魔法使いの女の子たちが反応する。

 リーダーっぽい奴も斧使いを止めようとしていたのだが、俺の言葉を聞いた瞬間、斧使いを止める手の力を緩める。

 そうだよねぇ、戦いを生業にしてる奴らが弱いって言われるのは面白くないよなぁ。

 それで言われっぱなしで良いのかい? 舐めた口を叩いた俺をぶっ飛ばしても良いんだぜ?


「なんだよ、喧嘩を売ってやがるのかよ」


 その通り。喧嘩を売ってるのさ。でもって、喧嘩でお金を稼ごうと思ってる。


「いいんじゃない? やらせてあげなよ」

「私も賛成。見た感じ、そんなに強そうじゃないし」


 魔法使いと弓使いの女の子は俺と斧使いが戦うのに賛成のようです。

 残りはリーダーだけど、やる気は感じられないね。そういうのも悪くないよ、慎重なのは良いことだし、無益な争いを避けるってのも大事なことだ。でも、それだと俺は困るんだよな。


「残りはキミだけだぜ? ちょっとした腕試しなんだから、何の心配もいらないって。キミらは自分の腕に自信があるみたいだから、小遣い稼ぎみたいなもんだろう? 身の程知らずをちょっと痛めつけるだけで銀貨五枚なんだから悪くないと思わないか?」


「いや、でも──」


「それともアレかい? 俺にビビってるとか? なるほど強そうなのは見た目だけで、実はヘタレ共だったってことか。こいつは失礼、俺の見る目が無かったね」


 ここで俺は周りに集まってきた奴らに語り掛ける。

 道の真ん中で騒いでりゃ人も集まってくるのは当然で、俺はこれを待っていたってわけ。


「お集りの皆さんにも申し訳ないね! 俺はこいつらとちょっと手合わせするはずだったんだけど、こいつらは俺にビビっちまってりたくねぇんだとさ! お騒がせして申し訳ないね! こいつらみたいなビビりを強者と見誤った俺のせいで皆さんの足を止めさせちまってさぁ!」


 公衆の面前で雑魚扱いされるのは嫌だよなぁ。

 腕っぷしの強さを商品にしてる連中に弱いとか情けないとか評判がついたら仕事に差しさわりがあるもんなぁ。


「おい!」


 斧使い君が俺を呼んだんでギャラリーに話しかけるのを止め、そちらを俺は振り向いてやる。

 すると、斧使い君だけじゃなく、魔法使いちゃんも弓使いちゃんも俺を睨んでいるのが目に入った。

 リーダー君だけは俺のことを睨んではいないものの、あんまり良い感情は向けてくれていない。


「テメェ、覚悟は出来てるんだろうな!」


「なんだ、俺とってくれるのかい?」


「当たり前だ! 腕の骨の一本や二本で済むと思うんじゃねぇぞ!」


 斧使い君はやる気満々だ。

 もうリーダー君が何を言っても聞く様子はなさそうだし、もしも、ここで引いたら本格的にこの四人はヘタレ扱いされるから俺と戦わないって選択肢自体が無くなった。


 思い出すぜ。

 人間だった時も反社会的な人達がたむろするバーに入って、同じようなノリで喧嘩を売ったもんだ。

 反社会的勢力の人達は面子とかプライドとかあるから、喧嘩を売ったら結構な確率で勝ってくれるんだよな。

 あぁ、一応言っておくけど、北米とか中南米の話ね。テキサスの田舎町のバーとかに入って、ガラの悪い連中にちょっと殴り合いをしようぜって絡んで、ぶん殴って、金を巻き上げ、路銀を稼いでいたんだ。

 まぁ、この方法は誰にでも分かると思うけど問題が多くてね――


「おい! いまさら怖気づいたのかよ!」


 おっと、昔のことを思い出しそうになっていた。

 今は目の前の相手をぶっ飛ばさないとな。でもちょっと場所が悪いな。


る前にちょっと場所を変えようぜ」


 道のド真ん中で喧嘩をするのも迷惑だしな。


「ギャラリーの皆さーん! ちょっと道の横に行きましょう!」


 街道の脇の草原ならギャラリーも見物できるだろう。

 そういうことで、みんなが俺の先導に従って、草原に集まる。


「おい、もしかして人に見られるのか?」


 対峙する俺と斧使い君を中心に群衆ギャラリーが輪を作る。

 いいよね、こういうの。ストリートファイトはこうじゃないとな。リングは人の輪の中っていうのが古式ゆかしい喧嘩の場だ。


「なんだよ、見られながら戦うのは苦手か?」


 俺は好きだぜ。

 昔さぁ、うっかりヤバい奴らに捕まって。地下アンダーグラウンドの格闘大会に出ることなったんだけど、その時は観戦者がいっぱいいて、そいつらに『死ねぇ!』とか『血を見せろぉ!』とか言われながら戦うのは中々面白かったんだよな。勝ち続けていると、純粋に応援してくれる俺のファンも増えたしさ。

 でもまぁ、対戦相手が最悪な奴らばかりだったんで、機を見てそこからは逃げたんだけどな。

 一応言っておくけど、これも人間だった時の話な。


「ビビってるなら逃げても良いぜ?」

「誰が逃げるかよ!」


 気合いがあってよろしいね。でも、気合だけかな。

 武器は斧だけど、斧の刃にはカバーがかぶせてあるし、俺を殺さないような配慮をしてる時点で、ちょっと甘い。

 俺は殺す気は無いけど、俺と戦る奴らには俺をぶっ殺すくらいの気持ちで来てもらわないと、面白くねぇんだわ。


 ちょっとガッカリした気分でいると、斧使い君が武器を構えた。

 すると、それに合わせてギャラリーに交じって斧使い君に仲間たちが声援を送り始める。

 いいよね、仲間同士の絆って奴。俺は好きだね、そういうの。


「開始の合図は?」

「そっちが殴りかかってきたらで良いよ」

「舐めやがって!」


 ギャラリーは今か今かと俺達の戦いを待ちわびている。

 最初は何事かと思って、俺と四人組の周りで成り行きを見守っていたが、いつの間にかこいつらも当事者だ。

 なんだか分からんが喧嘩のようだし、ちょっと見物してくかってそんな感じだろうけど、それくらいの関心で俺は構わない。ギャラリーは騒いでくれりゃいいんだ。それだけで俺にとっては充分さ。


「行くぜ!」


 斧使い君が場が最高潮に達する前に俺に攻撃を仕掛けてきた。

 様子見のつもりは無いだろうけど、手加減が感じられる勢いで斧が振り下ろされる。

 刃にカバーが被されているとはいえ当たれば簡単に骨は折れるだろう。


 俺は振り下ろされた斧に対して、独楽のように回転しながら躱すと、その回転の勢いのまま回し蹴りを放つ。

 俺の放った蹴りは頭を狙う軌道を取り、俺の靴の爪先つまさきが斧使い君のこめかみにめり込んだ。


「あぁ!」


 斧使い君の仲間たちが声を上げる中、斧使い君の体は俺の蹴り一発で崩れ落ちた。


「俺の勝ちぃ!」


 倒れ伏した斧使い君を尻目に俺が勝利を宣言しつつ、拳を突き上げると群衆ギャラリーが沸き立つ。

 とりあえず最初の一発としては受けは悪くない。やっぱ、最初は圧倒的な強さを見せると盛り上がるんだよな。まぁ、それも最初だけなんで興行を考えるなら、もう少し展開を工夫しないといけないけどさ。


「おい、ギド! 大丈夫か!?」


 斧使い君に仲間たちが駆け寄る。

 なるほど斧使い君はギドというのか。名前は覚えておいてあげよう。

 ギドっていう斧使いの仲間が俺を睨んでくるけど、今はちょっと相手をしてる場合じゃないんだよな。


「他に俺と戦いたい奴はいねぇか? 挑戦料は銀貨一枚! 俺に勝ったら、銀貨五枚と俺が稼いだ分の銀貨を全部やるぜ!」


 今はもっと挑戦者を募らないとな。

 銀貨五枚を稼ぐためには、あと四人は倒さねぇといけないからな。

 俺を倒すだけで銀貨五枚に俺の勝ち抜いた分を合わせるんだから、悪くない賭けだろ?

 なのに、誰も乗って来やしねぇ。


「おいおい、情けねぇなぁ。この辺りに住んでる奴はみんな腑抜けか腰抜けか? ちょっとは男を見せようって俺に挑んでくる奴はいねぇのかよ?」


 煽ってみるけど、反応はイマイチ。


「俺がぶっ倒した奴の同業者はいねぇのか! お仲間の仇を討ってやろうって奴は? 薄情なのか臆病なのか、どっちにしたって情けねぇなぁ、情けねぇっ! とんだヘタレ共だぜ! 俺に挑む気概も無い奴らだって、こんだけ大勢の前でバレても良いのかよ!」


 俺はギドの職業とか知らんから、詳しいことは言えないんだけどね。それでもまぁ、戦いを生業にしてるんだから、侮られるようなのは嫌だろ?

 そう思ったから、こんな公衆の面前で煽ってんのさ。たいしたことない奴らって思われたら商売上がったりだろ。


 そんな俺の思惑が当たったのか、人混みの中から何人かの男たちが俺の前に出てくる。

 良いねぇ、そうでないとさ。

 金を稼ぐのも大事だけど、それに加えてもう少し戦いたい気分だったんでな。願ったりかなったりだぜ。


 そんじゃまぁ、るとしようか。




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