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アスラの業術

 

 ──突き出された槍の穂先を叩き落としながら、俺は一歩踏み出し、胴体に拳を叩き込む。

 発勁はっけいを攻撃に使えれば、一発で仕留められるんだが、それは今は使えない。もっと相手が強かったりしねぇと、手加減の呪いが解除されないんで、技の出し方が思い出せない。

 まぁ、思い出せない方が長く戦えるから、そっちの方が良いんだけどね。


「どうした! もっと全力を出せよ!」


 俺の拳を食らって後ずさるエルディエルだが、即座に体勢を立て直し、俺に叩き落された槍を跳ね上げて斬り払う。槍の穂先が俺の左腕を斬り落とすが、その程度で俺が止まるわけない。


 俺は腕を斬り落とされながら、距離を詰めて隙だらけのエルディエルの顔面を蹴り飛ばす。

 腕を無くしただけで俺が立ち止まると思っていたようで、俺が反撃するとは想像もしていなかったんだろう。

 そういう詰めの甘さは好きじゃないね。


 俺はエルディエルの髪を掴んで引き寄せつつ、顔面に膝蹴りを叩き込む。

 鼻が折れたのか鼻血が出たのが見えたが、その傷も一瞬で回復する。


「良いねぇ、いつまでも殴り合えるじゃないか」


 俺の左腕も元に戻ったからお互いに無傷だな。

 俺の方は魔力とか闘気で結構、無理に腕を再生させているんだが、そっちはどうやっているんだろうね。

 まぁ、知らなくても俺達は楽しくれるよな?


 俺はエルディエルの髪を掴んだまま、その頭を地面に叩きつける。

 魔力と闘気で強化されたパワーのせいで、叩きつけると同時に地面にクレーターができる。

 続けて、俺は叩きつけたエルディエルのことを全力で踏みつける。その度に衝撃でクレータが大きくなり、近くにあった城跡が崩れ落ちていく。


「反撃しろよ! この程度じゃ終わらねぇだろ!」


 俺の励ましが効いたのか、エルディエルは踏みつけられている状態から何らかの術を発動する。

 術が発動すると同時にエルディエルの体が光に包まれ、直後にその光が放射状に拡散される。その光は衝撃を伴って俺を弾き飛ばし、エルディエルは脱出を果たす。


「許さん!」


 翼を羽ばたかせ、舞い上がったエルディエルが槍を構えて急降下してくる。

 弾き飛ばされ体勢が崩れたせいで俺の反応は遅れ、落下の速度を乗せたエルディエルの突進を防ぎ切れずに槍が心臓を貫く。


「痛いじゃねぇか」


 でも、まだまだ。

 心臓を槍でぶち抜かれたくらいじゃ全然だ。

 全然、面白くねぇよ。もっと本気を出せ!


「化物め!」


 お褒めにあずかり光栄だぜ。

 俺は胸に槍が刺さった状態のまま前に出る。自分から更に奥までねじ込むような形になるが関係ないね。

 俺はエルディエルの頭を掴み、鼻っ柱に頭突きを叩き込む。一発二発と叩き込むと焦ったエルディエルが力任せに俺の胸から槍を引き抜いて飛び退き、そのまま宙に舞い上がる。


「逃げんなよ。もっと殴り合おうぜ」


 しかし、俺の願いは聞き入れてくれないようで、エルディエルは空中で停止したまま、遠距離攻撃に移り、槍の穂先から光弾を地面に向けて掃射する。

 飛んでくるそれを闘気を纏わせた腕で叩き落として身を守っていると、エルディエルは続けて、槍を持たない手に巨大な火球を発生させ、それを俺に投げつけてくる。

 巨大な火球は飛翔する途中で弾け飛び、小さな火の玉となって拡散して降り注ぐ。


「燃え尽きろ!」


 そういう死に方も悪くはねぇけど、もう少し戦ろうぜ?

 降り注ぐ火球は地面に落ちると同時に爆発する。

 まるで絨毯爆撃のような攻撃だが、威力はそれほどじゃない。少なくとも今の状態の俺の守りを突破するのは無理な程度の威力だ。


「これでどうするんだ?」


 爆発によって視界が遮られるので適当に声をかける。すると、声の代わりに放たれた槍が俺の顔面をぶち抜いた。

 爆発で視界を塞いでその隙に槍を投げつけたんだろう。顔面にぶっ刺さる直前に見えたが槍は光を帯びていて、かなり強力な力を込めたんだろう。俺の守りなんか物ともせずに突破したことからも、それは推測できる。


「これで終わりだ」


 そうでもねぇよ。ぶち抜くなら顔じゃなくて脳味噌しようぜ?

 俺は顔面に刺さった槍を引っこ抜き、放り捨てる。顔に開いた穴が一瞬で回復して元通りになる。

 気分が高揚してくるのに合わせて、俺のパフォーマンスもどんどん上がってくる。もっとも、弱体化してるし呪いもあるんで上限は定まってるけど、それでもこの程度の攻撃だったら簡単に治る。


「どうした、まだ終わってないぜ? もっとれるだろ?」


 俺が捨てた槍がエルディエルの手に戻るが、エルディエルは呆然とした顔で俺を見ていた。

 しかし、それも一瞬ですぐに俺への攻撃を再開し、槍から光弾を俺に向けて放ってくる。


「良いね、その意気だ。諦めない姿勢は好きだぜ」


 困るなぁ、好きになってきちまったぜ。

 あんまり好きになると全力をぶつけてみたくなっちまうんだが、そんな俺の想いに応えてくれるかい?


 俺は飛んでくる無数の光弾に向けて腕を振る。すると、それだけで光弾が蒸発するように消滅した。

 ちょっと熱量が弱いな。もっと熱く行こうぜ? 俺みたいにさ。


「悪いなぁ、なんだか良い気分になってきたから使っちまったけど、良いよな?」


 好きになってきた相手を前にして、楽しい気分になってきたから思わず使ってしまったんだが、許してくれるよな。

 そっちだって、魔術なのか別の名前がついてるのかは分からねぇけど、そういう系統の特殊な攻撃をしてきてるんだし、俺も使って良いだろ? 


「もっとも、俺のこれは魔術じゃなくて業術カルマ・マギアって言うんだけどな。多少なりともアスラカーズ()の加護だったり影響だったりが無いと使えない術なんだが──」


 俺が喋ってるとエルディエルが槍を構えて、急降下してくる。

 話してる途中に失礼な奴だが許してやろう。寛大な心で俺は迎撃はせずに槍の穂先だけを掴んで受け止める。


「どういう術かというと、己の持つ業──理性で制御できない衝動や渇望をぶちまけて、世界を自分にとって都合の良い物に変えていく術なんだ。まぁ、そう言っても良く分かんないだろうけどさ。本来の宗教的な用語とは違う意味で用いているわけだしさ」


 俺が掴んでいる槍の穂先が熱を帯びて赤く輝き、やがてそれは槍全体に伝わる。そして柄を握るエルディエルの手から煙が上がり、うめき声をあげる。


「とりあえず、俺の業術カルマ・マギアの第一段階は感情の昂ぶりなどに比例して、魔力や闘気が熱を帯びるようになるっていうショボい能力なんだが──」


 掴んでいた槍の穂先が溶け落ち、それを見たエルディエルが槍を手放し空中に逃げる。


「この能力は俺のどういった衝動や渇望によって発現したのか分かるか? おっと、一応言っておくが第一段階ではショボいけれど、上の段階に行くにつれて、それなりには見れる能力になるんで、それも見ないと分かんないかな?」


 だけど、お前には見せられないんだよなぁ。

 見せようにも、ちょっと弱すぎて駄目だ。もう少し強くなってくれないと手加減を強制される呪いのせいで、これ以上の段階は発動できない。でもまぁ、それがあるから色んな相手と楽しく戦えるんで、悪いことばかりじゃないけどな。


「まぁ、推理は無理だろう。なので、とりあえず俺の業を一端を味わうだけで満足してくれ」


 俺は足の裏に闘気を集める。

 楽しい戦いの最中なので俺の気分は良い。俺の気分に応じて闘気は熱を帯び、高熱の闘気が空気を爆発させ、推進力に変えて、俺を高く打ち上げる。


「っ!?」


 翼を持っている自分よりも速く飛ぶのに驚いたのかエルディエルは目を丸くして俺を見ようとするが、まるで追い付いていない。


「羽があるからって空中戦には負けないと思ってんのか?」


 俺は背中に闘気を集め、高熱で空気を爆発させて更に加速し、エルディエルとの距離を詰める。

 空中で接近戦ってのも良いもんだよなぁ。

 俺は隙だらけのエルディエルの胴体を殴りつける。闘気を纏った拳の熱でエルディエルの鎧が溶けて、俺の拳は容易くエルディエルの腹を貫通した。

 俺を払いのけようとエルディエルが手を伸ばしてきた、その腕を掴むと腕自体が溶けて千切れる。


「あぁっぁぁぁぁぁっ!」


 楽しんでるか?

 痛いのは楽しいし、苦しいのは面白いよな!

 俺はそれを楽しいと感じるし、面白いと思う! 

 好きな相手には俺の好きな物を共有して貰いたいんだが、分かってくれるかい?


 俺の闘気と魔力が帯びた熱によって、エルディエルの翼が燃え始める。

 こっから逆転しようぜ! お前はもっと頑張れる奴だ!

 俺の熱に負けないくらい、お前も熱くなろうぜ!

 俺は最後まで付き合ってやるから、限界を超えるんだ!


 そしたら、俺も限界を超えてやるからさ!

 だから、もっと頑張れ! そして俺を熱くさせてくれ! 俺を楽しませてくれよ!






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