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強くなりたい理由

 

「そういえば、またロミリア先輩と会ったぜ」


「え?」


 一応、話しておいた方が良いかなって思って、俺はジュリちゃんにロミリア先輩と会ったことを話すことにした。メシを食いながらでもいいから聞いてくださいよ、ジュリちゃん。


「どうやら、向こうはキミのことを忘れていないようだったぜ?」


「それって──」


「幼馴染だって言ってたね。でもって、俺みたいな奴がキミと友人づきあいをしているのが気に入らない程度にはキミを気にしてるようだったね」


 俺の勘というか、誰が見てもロミリア先輩はジュリちゃんに悪い感情は抱いていないようだったね。

 むしろ好意的な感情の方が強そうだったけど、ジュリちゃんはそういうことに気付いていないんだろうか?


「いや、でも、先輩とは学院に来てから一度も話してないし──」


「今よりも過去の思い出に目を向けるべきなんじゃないかねぇ。そこんところどう思いますか、マー君?」


「ムカつくなぁ、好意的な感情を向けてくれる幼馴染がいるとか勝ち組じゃねぇか。クソだなクソ、死んでくれよ、クソ」


 キミにも幼馴染はいたんじゃなかったっけ?

 まぁ、好意をサイズで表したとしたら0.1ミリくらいしかなかっただろうけど。

 俺はそういういなかったし、興味もねぇからどうでもいいんだけどね。


「ま、こんな感じになる奴もいるわけだから、キミはキミでちゃんと自分のことを考えた方が良いと思うね。あんまり自己評価が低いと、キミのことを想ってくれている人たちに失礼だし、ここのマー君みたいに全方位的に嫌われてる人間にも失礼だからさ」


「初対面の人間の大半が敵に回るテメェよりはマシだよ、クソ野郎」


「男なら敵が多いくらいが良いんだぜ? 敵がいない奴ってのは、そいつが取るに足らない奴か、世間に対して何のアクションも起こしてないってこと証明だ。スゲー奴は妬まれて当然、敵がいて当然、そして挑戦的な取り組みをする奴にも敵がいて当然なのさ」


「かっこつけて言っても、お前の周りの奴からすればクソ迷惑なだけだからな?」


 迷惑をかけても俺から離れない連中だって信頼してるからね。

 迷惑をかけるのは信頼の裏返しだと思って欲しいね。それはともかく、今はジュリちゃんの話の方が大事じゃなかろうか?


「マー君の話は置いといて、実際の所、どうなんだろうね? 幼馴染だからっていう理由だけでキミのことを心配してくれてるんだと思うかい?」


「それは……昔から先輩は僕のことを弟みたいに思ってるって言っていたから──」


「弟みたいに思ってるから心配してくれてるって? それでジュリちゃんは先輩のことをお姉ちゃんだと思って慕ってるって?」


 俺の問いにジュリちゃんは頷くが、そんなわけはねぇだろと俺は思う。

 思春期真っ盛りの男子が、年上の女子に対して何の裏も無い純粋な気持ちで姉として慕ってる方が怖いぞ。


「ま、いいや。その辺に関しては自分が一番わかってるだろうし、本当のことを言うのも恥ずかしいんだろう。そうだよな、マー君?」


「俺に話題を振るなよ。気分が悪いんだ」


 甘酸っぱい気配を感じたから関わりたくないって?

 良い歳して何を言ってんだか、見た目は十代でも数百年は生きてんのに若者の応援とか出来ないんですかね。まぁ、俺も応援する気はねぇけどさ、ただ面白がって口出ししてるだけだしね。


「あの、もういいかな? また稽古をつけてもらわないと」


 ジュリちゃんがマー君を見る。

 うーん、どうしたものかね? キミの今の言動は俺から逃げようとしてるように見えるぜ?

 俺は逃げる奴は追いたくなってしまうんで、キミを追い詰めたくなってきちまうなぁ。


「思ったんだけどさ、キミが強くなりたいってのはロミリア先輩に振り向いてもらうためかい?」


「っ……それは、その……」


「図星かなぁ? 良いんだって、別に恥ずかしい話じゃないよ。素晴らしいことじゃないか、たった一人の人を想って、その人のために強くなるとかさ」


 ホント素晴らしいぜ。

 俺には無理だからな。モチベーションの基を他人に依存するとかさ。尊敬するよ、心からね。


「感動だね、涙が止まらなくなりそうだ、キミの一途な想いにさ」


「もう良いだろ。嫌がってんぞ」


 マー君はお優しいね。

 当のジュリちゃんが恥ずかしがって黙ってるのに、その気持ちを汲み取ってあげるとか、空気が読めるのも凄いね。……まぁ、そんなんだから、俺の使徒としては弱いんだろうけどね。


「ま、イジメるつもりも無いから、ここまでしておこうか。でもさぁ、自分の気持ちはハッキリさせておいた方が良いと思うぜ? 別に良いじゃねぇか、憧れの先輩を振り向かせたいとか、お姉ちゃんみたいな存在に立派な姿を見せたいとか全然、恥ずかしくねぇよ」


 俺には無理なだけで、それだって立派な理由だろ。

 とはいえ、女の子より可愛い顔をしつつもしっかりと思春期の少年らしい自尊心を持つジュリちゃんは俺の俗っぽい言い方がお気に召さなかったようで──


「そうじゃないよ」


 じゃあ、どういうことなんでしょうね。


「僕はロミリアと約束をしたんだ。僕は彼女との約束を守るために……」


 そこまで言いかけたが、俺に言わされたと思ったジュリちゃんは口を閉じる。

 良いじゃねぇかよ、最後まで言ってくれてもさ。言わないなら、俺が推理しちまうぜ?


「どんな約束か当てようか? キミとロミリア先輩は幼馴染で、小さい頃から仲が良かった。そしてある時、将来の夢を語り合い、その時にキミは『僕は立派な魔術師になる』とでも言ったんじゃないかな? それでロミリア先輩の方も『それなら私も一緒に魔術師になる』とか言ったのかもね」


 どうだろうか?

 何も言わないと、これが正解ってことにしちまうぜ?


「誰かから聞いたの?」


「ただの勘だよ。でもまぁ、そんなことを言うってことは概ね正解かな?」


「う……」


「キミは幼馴染との約束を守るために魔導院にやって来た。けれど結果は落ちこぼれ。彼女と交わした約束を守ろうにもどうにもならない状況。それでも約束を守って再び幼馴染の女の子の隣に立つことを諦めきれずにキミは学院にしがみついた。そして偶然、俺達に出会い、自分の目的のために俺達を利用して強くなろうとしたって感じじゃないかな?」


 俺は他人の気持ちが良く分かるもんでね。これくらいは簡単に推測できるぜ。

 もっとも、その気持ちに寄り添うってことは出来ないんだけどね。俺は俺の気持ち以外を大事に出来ない人間だからさ。


「別に利用しようとか考えていたわけじゃ……」


「いやいや、別に構わねぇって、責めてるわけじゃねぇんだ。何も騙されたわけでもないんだし、利用しようがどうしようが構わないんだよ。ただ、俺としてはどうして強くなりたいのか、何のために強くなりたいのかってのを知っておきたかっただけだからさ。それで、どうなの? 俺の推理は当たってたかい?」


「まぁ、だいたいは……」


 そりゃ、良かった。

 自信満々に言って外してたら恥ずかしかったからな。

 で、何か付け加えることはあるかい?


「僕はロミリアとの約束を守るために立派な魔術師になりたいんだ。それは正しいよ」


 俺としてはそれが間違いな気もするんだけどね。

 キミの望みは幼馴染との約束を守ることなのかい? そのために立派な魔術師になることなのかい?

 果たして本当の望みはそれなんだろうかね? まぁ、これ以上はその件については追及しないようにしとこうか。気付かれると現時点では俺に都合が悪いからね。


「だけどさ、強くなるだけじゃ、立派な魔術師になれたとは言わなくないかい?」


「え?」


「ロミリア先輩との約束である立派な魔術師ってのは、周囲の評価によるものだろ? 立派かどうかは自分が決めるんじゃなく周囲が決めるもんだしな。キミはどうやって自分が目指した魔術師だと証明するつもりなんだい?」


「それは誰かに認められるようなことをして……」


「だから、それはどうやって?」


 ジュリちゃんは口を閉じ、マー君が俺のことをドン引きした表情で見てくる。

 何か言いたくても黙っててくれるよな、マー君?


「安心しろって俺に考えがあるからさ。キミは大船に乗ったつもりでいると良い」


 俺がジュリちゃんが凄い魔術師だってことを学院中の人間に証明できる場を用意してやるよ。

 具体的には調子に乗ってるシステラを衆人環視の状況でぶっ倒す。

 そのためのお膳立てはしておいてやるからさ。

 だから、それまでにジュリちゃんはある程度、強くなっててね? 約束だぜ。










当初の案では、この後にアッシュが酒場をやったり、酒場の地下で賭場を開いたり、女の子を騙して酒場でアイドルの真似事をさせるような展開を考えていたけど、それは何か違うような気がしたんでやめました。


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