再戦
ちょっと調子が出ない
「殺す、殺す、殺す!」
怖いねぇ。そんなに俺が憎いのかいエルディエル君。
俺に負けてお叱りでも受けたのかい?
それともお仕置きでも食らったかい?
まぁ、なんにせよ。戦る気がある奴が来てくれるのは嬉しいぜ。
キミがどうしてここにいるのかは気にならないわけでもないけれども、まぁ良いや。
「楽しく戦ろうぜ?」
そう口にしようとした俺の言葉を待たずにエルディエルが動く。
槍を突き出した構えのまま、背中の翼を羽ばたかせて俺に向かって突進してくる。
槍の穂先が一瞬で俺の鼻先へ突き出されるが、俺はそれを手で払いのける。
渾身の一撃だったんだろうが、それが仇となった。勢いあまってエルディエルの体は俺の横を通り過ぎて転倒し地面に顔から突っ込んでいった。
「殺す、絶対に殺す!」
エルディエルは即座に立ち上がり、戦意は衰える様子なんかは欠片も無いが……うーん。
俺は改めてエルディエルの姿を確認する。
前に戦った時はもっと神々しく白く輝いているようだったが、今の姿はどことなくだがくすんでいるような気がする。
この変化はなんだろうね? もしかして俺に負けたせいで仕えていた白神様にでも見限られたかな。だとしたら、俺に対する怒りは当然だろう。
でもまぁ、俺的には穢れなく輝く天使より今の姿の方が好きだね。
泥臭く足掻く姿が俺好みだ。
「好きになっちまいそうだぜ」
エルディエルが手に持った槍を真っ直ぐ突き出してくる。
遠距離攻撃は無しか? まぁ、場所が街中だから住民に配慮してるとか?
いや、それはないか。そんなことを考えてる余裕はないしな。
「おっと失礼」
余計なことを考えてたぜ。キミに集中しなきゃな。
俺は突き出される槍の穂先を見切り、柄を手刀で弾いて攻撃を防ぐ。
「まだだ!」
体勢を立て直して連続の突きが放たれる。
だけど荒い。精彩を欠いてる。それじゃ何度やっても駄目だ。
俺は素手で槍の連撃を捌く。どれだけ攻撃しても防がれることに焦れて、エルディエルの攻撃が大振りになった瞬間、俺は懐へと飛び込み、その鳩尾に肘打ちを叩き込む
「……やっぱり弱くなってるなぁ。神様の加護が薄れたからか? それとも、キミの戦い方を俺が理解しているからか」
俺の一撃をくらって膝を突いたエルディエルを見下ろしながら俺は言う。
俺が口にした推測に関してだが、戦い方を理解しているから弱く感じるってのは、やっぱり違うような気がするね。だって戦い方が全く違うもん。
以前はもっと天使っぽい魔術的な攻撃や翼を使って飛んだりしながら戦っていたのに、今は槍での攻撃一辺倒だ。天使としての力が白神の加護であると仮定したら、加護を失ったから使えなくなったって可能性は無くは無いよな。
「情けない神なんだなぁ、白神って。一回負けたくらいで加護を切るとかさ」
俺なんか、どんだけ失態をおかしても自分の手下への加護は切らないぜ?
敵に回っても切らないくらいだしな。俺の懐の広さってのを世の中の連中は見習って欲しいぜ。
「我が主を侮辱するな!」
エルディエルが立ち上がって俺に槍を向けてくる。
うん、戦意は衰えていない。それは良いね。評価できる。
でも、今の状態じゃどれだけ戦っても俺には勝てねぇんだよなぁ。
「そんなに怒るなら今の発言を撤回させてみろよ」
俺は攻めに転じる。
向こうが弱体化してるなら俺の方も弱くなっているわけで、当然だが業術は使えない。
それでもまぁ、俺は負けないけどな。
急に攻めに回り、近づこうとしてくる俺を迎撃しようとエルディエルが槍の穂先を向けてくる。
焦ってるのか攻撃のパターンが単調になってるんで、それを防ぐなんてのは難しいことじゃない。
俺は突き出された槍に対して前腕を振り上げ、槍を跳ね上げる。
そして、生じた隙を見逃さず距離を詰め、エルディエルの胸に拳を叩き込む。
「リーチの差を活かせてねぇなぁ」
たたらを踏んで後ずさるエルディエル。
だが、後退が甘い。まだ、俺の射程圏だ。
俺は即座に足を跳ね上げエルディエルの頭に上段回し蹴り当てる。
「ま、俺の持論では槍自体が喧嘩向きの武器じゃないんだけどね」
頭に食らった蹴りの衝撃でエルディエルの体がぐらつく。
それでもまだ戦意は衰えていないようだ。良いね、凄く良い。
俺は崩れ落ちそうになるエルディエルの頭を掴んで引き寄せ、顔面に頭突きを叩き込む。
一発、二発、三発……四発目を叩き込もうとすると不意にエルディエルの体から力が失われる。
どうやら、失神したようだ。思ったより打たれ弱いのは加護を失ったからだろうか?
「なんだよ、もう少し講釈を垂れたかったんだが、お終いかい?」
訊ねても返事は無い。
やる気はあったけど、結果が伴わねぇなぁ。
俺はエルディエルの体をそこらに放り捨てる。これ以上、戦っても仕方ないんでね。
後は放置、言うなればキャッチアンドリリースだ。
「聞こえてるかどうかは分からねぇけど、忠告だ。今のままじゃ俺には勝てねぇよ。俺を倒したいなら地道に鍛えた方が良いぜ」
また挑んできて欲しいもんだね。
殺したら、それっきりなんで俺は殺しはしないよ。
戦った奴をみんな殺してたら最後には戦う相手がいなくなっちまうんだから、よっぽどの時以外は殺さない方が良い。そんでもって、また俺に挑んできて貰わないとね。
「じゃ、またね。今度はもう少し強くなってからおいで」
道端にゴミのように転がっている天使にお別れの挨拶をして、俺はその場を後にしようとしたが、あることを思い出す。
そういえば、食材を買っていたはずだけど、どうしたっけ?
「はぁ、面倒くせ」
何時から持ってなかったっけ? 俺は記憶をたどり、俺は落とした食材を探すために、その場を後にした。