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手加減

 

 白神祭りが始まり、松明を持った人々がラザロスの町の中心へと行進するのを眺めながら冒険者のガウロンは肩を落とし、溜息を吐いていた。

 世界を股に掛ける大陸冒険者ギルドの中でも上位に位置する腕利きの冒険者であるガウロンだったが、今の姿からはそんな実力を推し量ることはできそうもない。

 どうして、そんなに落胆しているかと言うと、それはラザロスの町の外にいた謎の男アッシュ・カラーズの勧誘に失敗したからだった。


「別にいいじゃないっすか。強いって言ってもガウロンさんが声をかけてまで勧誘する価値のある奴じゃなおっすよ」


 そう言うのはアッシュに負けたガウロンの仲間の剣士だった。

 確かに強かったことは身を以って知っており、ガウロンが敗れたことも知っているが、それは木剣を使った試合であったからで実戦になれば、ガウロンが勝つとその剣士は信じていた。

 ついでに、アッシュが強いと言っても自分やガウロン以上というだけで、冒険者の中にはもっと凄腕もおり、そういった者たちの強さはアッシュを遥かに凌駕していると確信しており、そういった凄腕がいる以上、勧誘に熱心にならなくてもいいのではとガウロンの仲間の剣士は思うのだった。


「お前は、そんな認識だからいつまでもパッとしないんだよ」


 ガウロンは呆れた口調で仲間の——弟子と言っても良い剣士に対して説明を始める。


「いいか? 俺達、大陸冒険者ギルドは常に人手不足だ。世界中を旅して難しい依頼をこなさなければいけない以上、一定以上の質を求められ、それを測るために厳しい試験を行っているからだ。その結果、どうしても少数精鋭にならざるをえない」


 と言っても、世界全体で数えれば大陸冒険者ギルドに所属する冒険者は1000人以上はいるのだが、基本的に加入に試験などが設けられていない公営や民営のギルドに所属する冒険者は数えきれないほどいる。


「俺達への依頼は絶えないが人数が、少ないから、受けられる数が少なく、結局ほかのギルドに依頼が回ってしまう。有名だから俺達に頼もうとはするが、別に俺達じゃなければならないような依頼も少ないんで、一回ほかのギルドに頼んで大丈夫だと気づけば、それ以降は俺達には依頼なんてしなくなる。

 その結果、俺達は有名ではあるが結果的に活躍できる回数が少なく、世間での評価は有名だし凄腕だが、何をしているか分からない連中だ。世の中の連中にとっては俺達より、そこらにいる素人に毛が生えた程度の冒険者の方がありがたいし、頼りになるのさ」


 そんなことは無いと剣士が反論しようとするが、ガウロンはそれを手で制する。


「まぁ、聞けよ。現実に俺達がパッとしてないのは事実なんだ。それは分かってるだろう? とにかく人を増やすなり何なりして、可能な限り多くの依頼を受けて、俺達の存在を周知させなければ、いずれ誰も俺達に依頼なんてしなくなるし、そうなれば俺達は廃業だ。それをなんとかするためには人手がいるんだ」


 別に大陸冒険者ギルドが潰れたら、民営のギルドに移れば良いかなとガウロンの弟子の剣士は思う。

 ラザロスの冒険ギルドにはイクサス伯爵家が領地運営の一環として経営している公営の冒険者ギルドと、ラザロス市民の寄付で設立された民営の冒険者ギルドがあるので、どちからに入れば良いかなとガウロンの弟子は楽観的に考えていた。


「とにかく腕の立つ奴を集めて依頼を達成し、ラザロス近郊で最も頼りになるは大陸冒険者ギルドだって、この町やイクサス伯爵領の住人全員に分からせてやらなければいけない」


「だから、あのアッシュって奴を勧誘して馬車馬ように使い潰そうと考えてるってわけっすか」


「言い方が悪い」


 大事な人員なんだから大切に扱うに決まっているだろうとガウロンは訂正を要求する。


「だけど、そんなに強いっては思わないですけどね。まぁ、自分も負けましたけど」


 もっと強い奴は大勢いそうなものだし、そこまでアッシュにこだわる必要もないのではとガウロンの弟子は思う。


「まったく、本当に理解していないんだな」


 ガウロンは自分の弟子に対して大きく溜め息を吐き、そしてアッシュの強さを語るのだった。


「アイツはな、戦っている時に一度も魔力や闘気を身に帯びていなかったんだよ」


 その言葉を聞いてガウロンの弟子もアッシュの戦いぶりを思い出し、そして気付く。

 自分たちのような戦士は魔力や闘気を身に帯びることで肉体の強さを高めるのだが、アッシュ・カラーズの体からは魔力などは感じられなかった。それはつまり魔力や闘気を使って身体能力を強化していないということで——


「つまり、奴は全く本気じゃなかったってことだ」


 ガウロンの弟子が息を呑み、それと同時に白神に捧げる炎が天への伸びていく。

 それは白神祭りを締めくくる祭事、いつの間にかには祭りは終わりを迎えようとしていた。





 ――――――――――――――――――――





 翼を羽ばたかせ舞い上がった天使エルディエルが槍の穂先を掲げる。すると、穂先に光が集まり、エルディエルは光る槍を俺に向けて振り下ろす。

 その動きを見て、俺は即座に横に跳ぶと、一瞬前まで俺がいた場所を破壊力を帯びた光が通り過ぎて焼き払う。


 当たれば危ないか?

 危険を感じた俺は足を止めずに動き回る。崩れた城壁を盾にしながら、移動していると、俺を追ってエルディエルは光る槍から光線を何度も放つ。


「ちょこまかと!」


 そいつは申し訳ないね。

 こっちは羽が無いから、地べたを走り回るしかないもんで、どうしてもちょこまかした動きになるんだわ。


「ならば、これはどうだ!」


 物陰に身を隠しながらエルディエルの様子を窺うと、エルディエルは光る槍を天に向けて掲げる。

 直後、エルディエルの槍から光が雨のように降り注ぎ、城跡を破壊する。当然、俺が隠れている場所も攻撃の範囲内だ。


 そのまま隠れていれば、光の雨で吹っ飛ばされるんだから、俺も動くしかない。

 俺は物陰から飛び出し、光の雨の中を駆け抜ける。本当の雨じゃないんだから、隙間なんていくらでもある。人間だった頃には空爆の中を走り抜けたことだってあるんだから、地面に落ちて爆発しないだけ、こっちの方が難易度が低い。


「そこか!」


 俺が物陰から飛び出し、攻撃の中を走り抜けていくのはエルディエルの方からも分かったんだろう。

 エルディエルは光の雨を降らせるのを止めて、槍の穂先を俺の方に向ける。


「その判断はミスだぜ?」


 違う種類の攻撃に移行しようとする際に隙ができる。

 攻撃を止めて、槍を俺に向けて、狙いをつけて、そして発射。ちょっと遅すぎるな。

 俺は攻撃に移ろうとしているエルディエルに向けて助走をつけて跳躍する。

 エルディエルの方も攻撃をしなければいけない都合上、そんなに高度は取れないから、ジャンプすれば届く高さだ。つっても10メートルくらいは飛んでるけどさ。


 エルディエルは槍の穂先を俺に向けたまま驚愕の表情で硬直する。

 その状態のまま光る槍から光線が放たれるが、俺はそれを空中で体を捻って躱し、その勢いのままエルディエルの顔面をぶん殴った。


「羽があっても、意味ねぇなぁ!」


 俺に殴られた衝撃でエルディエルは体勢を崩し、地面に向けて落下する。

 俺も今の状態のままでは空は飛べないんで落下するが、無事に着地できた。対してエルディエルはというと、受け身も取れずにそのまま地面に激突だ。


「どうせるんだったら、もっと触れ合わねぇか? せっかく槍を持ってるのにビームだけじゃつまんねぇよ! もっと切った張ったの接近戦ガチンコしようぜ!」


 地面に激突した程度じゃ死なねぇだろ? ほら掛かって来いよ。

 俺の煽りが聞いたのか、エルディエルは立ち上がると同時に翼を使って加速しながら、俺をに突っ込んでくる。良いね、その意気だ。


「許さん!」


 羽ばたきを利用して、速度を乗せた槍が俺に迫る。

 翼だけじゃなく、ちゃんと技量もあることが分かる鋭い突きだ。

 防ぐにしても、こっちは素手なんで上手いこと槍の刃以外の部分に触れて受け流すしかないわけだが——


「甘いぞ!」


 思った以上に突きが鋭いうえ、思った以上に俺が弱体化しているせいで、受け流すのが間に合いそうもない。発勁を使う? アレを刃物相手にやるのは今の俺には無理だ。

 一瞬の間にそこまで考えたが答えは出ずに俺は受け流しを選択。次の瞬間、受け流そうとした俺の右手が千切れ飛び、宙を舞う。


 —―だが、致命傷は回避できたので問題ない。俺は後ろに飛び退き、槍の間合いの外に逃れる。

 エルディエルの方は警戒しているのか俺に追撃はせず、慎重にこちらの動きを窺っているようだった。


 良いね、こいつのことが好きになって来たぞ。

 弱体化しているし、手加減をしなければいけない呪いルールがあるにしても、血を流したのは久しぶりだぜ。


「ちょっと本気出しても良いかい?」


 手加減をしなければいけないって呪いの強さは相手によって変動する。まぁ、俺がそうなるように設定しているんだけどな。

 どんなに弱体化してても、大抵の奴には圧勝できる程度には色々と戦闘に関する技術があるわけだし、そういうのも制限してかないとマトモな戦いは出来ないんで、手加減は必須なんだよ。

 けれども、完全に手加減をした状態だったら楽しめない相手もいるんで、レベル制にして少しずつ手加減の度合いを調整しているって感じ。


 俺の右手を斬り飛ばした時点でエルディエルに対する俺の手加減レベルは5に設定された。まぁ厳密なもんでもないんで気分次第で手加減の度合いは変わるんだけどね。

 手加減レベルが上がるにつれて俺は本気になっていき、呪いの力で強制忘却させていた戦闘技術も思い出すし、使えなくなっていた能力も使えるようになる。ついでに能力使用への躊躇いも無くなったりする。

 もっとも、神としての能力は失っているんで、その系統はどうにもならねぇけどさ。


 そうして呪いの強さが変動したことで、俺は自分の中で魔力や闘気の使用への躊躇いが薄れていくの実感する。

 俺は全身に闘気を纏って身体能力を向上させ、同時に失った右手を魔力だけで再構成して元に戻す。


「それじゃあ、第二ラウンドだ。楽しく戦ろうぜ、続きをさぁ!」


 ちょっと本気になってやったんだからガッカリさせないでくれよ?



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