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リベンジ

 

「文句を言うなら自分で作れ」と言ったようなジュリちゃんの見返すため、俺はソーサリアの食材市場へとやってきた。

 明日作るとか、昨日言わなきゃ良かったぜ。別に適当に作ったって大抵の奴より美味い物が作れると思うけど、面倒くさいんだよなぁ、メシを作るのってさ。


「そこら辺どう思います、奥さん」


 俺はそこら辺に立っていた主婦らしき御嬢さんに話しかける。

 まぁ、御嬢さんって言っても40歳とかそこら辺の見た目だけどさ。

 それでも1000年とか生きてる俺から見れば赤ん坊も同然だから、御嬢さんなんて言っても問題は無いと思わないかい?


「おっと、奥さん何処いくんだい?」


 急に話しかけられた主婦の奥さんは関わり合いになりたくないって感じで足早に立ち去っていった。

 おいおい、買い物をしてたんじゃないのかい? 立ち止まって何か見てた様子だけど──


「おい、商売の邪魔をするなら、どっか行け!」


 主婦が立ち止まっていた露店の店主が俺を怒鳴る。

 俺が話しかけたせいで客が逃げたのが許せないんだろうね。

 ただ、思うんだけどさぁ──


「ここのどこに商売をしてる奴がいるんだい?」


 俺の言葉に店主が反応するより早く、俺は店先に並ぶ小麦粉の入った袋をひっくり返して道端にぶちまける。すると、転がり中身が散乱した小麦粉はどういうわけか白の中に灰色が混ざっている。

 まぁ、どういうわけかは分かってるんだけどね。


「俺はここの文化は知らねぇけどさぁ。ここら辺の土地は小麦と砂を混ぜて食うのかな?」


「て──」


 店主が俺に飛び掛かろうとするが、俺に届く前に成り行きを見ていた他の客に取り押さえられ、滅多打ちにされる。


「商売じゃなく詐欺をやってるって、最初から言ってりゃこんなことにはならなかったかもね」


 俺は聞こえないだろうが店主に向けて呟き、騒ぎを横目に店先に並んでいた小麦の袋を一つを貰っていく。

 騙そうとしたことへの慰謝料とか迷惑料って感じでよろしくね。まぁ、最初から買うつもりは無かったけどさ。

 とりあえずこれで小麦は手に入れることが出来た。砂が混じっているとしても、それはこっちで何とかすればいい。大事なのはタダで手に入れられたことだ。


「なにせ金がねぇからな」


 金がないけど食材はいるなれば、まぁ真っ当な手段を取るわけにもいかないんで、こうやってタダで手に入れられる工夫をしなければいけないというわけだ。

 幸い、こういう市場ってのは真っ当な身の上じゃない脛に疵を持ってる奴も多いんで、そこを突けばタダで物を譲ってもらうのだって出来るだろう。


「なぁ、この店で取り扱ってるのは何だい?」


 次に目をつけたのは肉屋だ。

 並んでる肉の中に酒場の中で見つけた鼠の死骸を忍び込ませ、そして俺は声を上げる。


「おい、ここは鼠の肉を売ってんのか!」


 実際に売ってるみたいだけどね。

 鶏肉とか豚肉、牛肉とは明らかに違う感じの小さな肉の塊が置いてあったしさ。

 ネズミ自体はタンパク源として食べる文化もあるが、それも野生のネズミに限った話でこういう都市に暮らすネズミは病気の温床になるんで忌み嫌われている。


「ちょ、ちょっと静かにしてくれよ」


 店主が顔に弱気を見せる。

 こういう奴は良いよね。ちょっと脅せば幾らでも巻き上げられる。

 俺は店主に黙ってる代わりに何か寄越せと交渉し、問題の無さそうな肉をプレゼントしてもらった。

 店主からの自発的な贈り物だから何の問題も無いだろ?


 ──こんな感じのことを何件もの店で続けると、ほどなくして充分な量の食材が集まった。

 いやぁ、みんな親切でありがたいね。また何度かこの市場には来させてもらおう。そのうち、市場を仕切ってる顔役連中と顔を合わせることもできるだろうし、それも楽しみだぜ。


「──おい、何をしているんだ、キミは?」


 食材が集まったので市場から出て帰ろうとすると、俺の背中に向けて呼びかける声があった。

 声の方を見ようと振り返った先にいたのはロミリア・ギュネス──ロミリア先輩が俺を鋭い眼差しで見つめていた。

 俺の方が人生の先輩ではあるが学校は学年で先輩後輩があるから、きちんと先輩と呼ばなきゃね。そう思ってロミリア先輩と呼ぼうとしたのだが──


「キミが何をしていたのか見ていたぞ」


 おっと、パトロールしていたんですか。

 そいつはご苦労さんです。


「店主たちを強請っていたように見えたが、どういうことだ?」


「どういうことと言われてもなぁ。あくどい商売をしてる連中にお灸を据えてやっただけと言ったら納得してくれるかな?」


 まぁ、納得してもらえなくても良いけどね。

 文句があるなら、俺をぶちのめしにかかっても良いんだぜ? キミは中々、強そうだから、楽しくれそうな──ってジュリちゃんとくっつけるって決めたばかりじゃないか、ここでロミリア先輩と戦うのはよろしくない気がするから無しだな。


「むぅ、確かに彼らは評判の良くない者たちであったが、だからといって弱みに付け込むのは私は良くないと思う」


 敵意は無さそうだね。

 これなら大丈夫そうかな。


「次からは気を付けるよ」


 そう言うとロミリア先輩は「次からはそうしてくれ」と言うように大きくうなずいた。

 とりあえず、この場での戦闘は避けられたわけだが──


「ところで、そんなに食材を買って何をするつもりなんだい?」


 まぁ、敵意を持っているとか関係なく、俺が持っている大量の食材は気になるよな。

 別に隠すようなことでもないので俺は素直に伝えることにした──


「ジュリアン君って知ってるか? 同じクラスの学院生なんだが、そいつにメシを作ることになって──」


 そう言った瞬間、敵意を通り越して殺意がロミリア先輩から俺へ向けて放たれる。


「ジュリアンと言ったな?」


 眼に宿る殺気を隠さずロミリア先輩は俺を見据える。

 なるほど地雷を踏んだかな? まぁ、別に殺気を向けられようが何されようが俺は特に何も思わないんで、そのまま話を続けようかなと思い、先輩に訊ねる。


「なんだ ジュリアン君と知り合いか何かかい?」


 まぁ、聞くまでもなく知っているんだけどね。


「私は彼の幼馴染だ」


 ふむ、こっちは幼馴染と認めてるんだね。

 ジュリアン君は微妙な反応だったのにね。


「俺は友達だよ。友達なんだから一緒にメシを食うってのはおかしくないだろう?」


 弁明したつもりだが、ロミリア先輩の眼差しは変わらず、俺に疑いの目を向けている。


「キミのような奴が彼と友人というのは些か信じがたいな」


「どう相応しくないんですかね?」


「それは──」


 言いかけるがロミリア先輩は踏みとどまる。

 さて、なんて言おうとしたんでしょうか。

 そもそも俺のような奴ってどんな奴? 弱みに付け込んで店主から商品を強請り取るような奴?

 そんな奴と関わらせたくないってことは、先輩の中でジュリちゃんは真っ当な学生ってことだよね。


「俺のような不良とジュリアン君を関わらせたくないってのは、それは風紀委員賭して、それとも幼馴染としてなのかな?」


 俺の問いに先輩は口を開きそうになるが、自分が感情的になってるのに気づいたのか、ゆっくりと息を吐いて気持ちを落ち着かせる。次の瞬間には平静を取り戻した様子で、穏やかな口調で俺に言うのだった。


「昨日も言ったが、謹慎中なのだから、あまり出歩いてはいけないぞ。それと、付き合う友人は考えた方が良い。相手の迷惑というのも考えてだな──」


 俺に説教をしている途中で再び興奮しそうになったのか、先輩は途中で口を閉じる。


「──もういい、とにかく早く帰るように」


 なんともハッキリしないままロミリア先輩は俺から逃げるように帰ってしまった。

 うーん、ジュリちゃんは一回先輩とちゃんと話した方が良いんじゃないかな。

 あの感じだと先輩はジュリちゃんのことを悪く思っていないというか──


「──ま、それは今は良いか」


 別に俺が推測してもね。

 そんなことより、俺は現在進行形で周囲に気配を感じてるわけで、そっちの方が重要だ。

 俺は気配を感じた方に視線を向けて呼びかける。


「なぁ、隠れてないで出て来いよ」


 先輩と話している内に人通りの少ない通りに入ってしまったようだ。

 通り置かれた荷物の陰から、いかにも待ち伏せしてた様子の連中が姿を現す。


「昨日の復讐にでも来たのかい?」


 姿を現した連中は魔導院の制服を着ており、大半が見たことのある顔。というか昨日、ロミリア先輩に絡んでいた連中だ。魔術で傷を治したのか全員が揃って俺の前に立っている。ただし──


「なんだか、ビビってるようだね」


 その全員が俺を前にして震えている。

 その様子は俺に復讐しに来た奴らとは思えないほど情けない。

 俺とるのが怖いってのに俺に復讐しに来た? それは無いよな、となれば狙いは──


「なるほどなぁ、ロミリア先輩でも襲おうって感じか」


 俺に敵わないから、仕返しにロミリア先輩を襲撃しようと考えて待ち伏せをしてたんだろう。

 それは良くねぇなぁ。俺はそういうのは好きじゃないんだよ。いやまぁ──


「別に先輩を襲うってのは構わねぇんだよ。でも、動機がなぁ。俺に勝てないから先輩を襲うってのは違わねぇかな? それって俺から逃げてるってことじゃん。俺に勝てないけど、それじゃ気持ちが収まらないから先輩を襲うとか、そういう後ろ向きの復讐は俺は好きになれねぇなぁ」


 俺が話しながら近づいていくと不良学生共は後ずさる。

 そういうのが駄目なんだって。そういう感じで俺の知り合いを襲う連中は好きになれない。

 だって、俺の事を想ってくれてないじゃないか。俺に対して必死になってくれない奴をどうやって好きになれって言うんだ?


「襲うならさぁ、俺を・・苦しめるっていう気持ちを持って襲えよ。俺と親しい奴が俺の弱点だって分かったなら、それこそ俺の弱点を狙ってるって気持ちで、俺と勝負してる気持ちで襲わなきゃ。その結果、俺の親しい奴が傷つけられたとしたら、俺はそれをやった奴をまず賞賛するね。だって、俺の隙を突いて俺の弱点を撃ち抜いたんだぜ? そりゃあ褒めるべきだと思わねぇか?」


 まぁ、誰もそんなことは思わねぇだろうけどね。

 俺はただ俺に対する逃げで俺以外の奴に復讐するなって言いたいのさ。

 俺の弱点を突いて俺を仕留めるつもりで俺以外の奴を狙うのは俺は良いと思うぜ? まぁ、そうさせないようにはするだろうけどね。

 結局の所、俺に対する本気度が足りねぇんだよ。本気じゃねぇ奴らが復讐だとか仕返しだとか言ってるのを見ると俺は面白くない気分になるわけで──


「何はともあれ、とりあえずお前らは半殺しにしておこうかね」


 殺したら復讐しに来てくれねぇだろうし生かしてはおかないとな。

 敵ってのは畑で取れるものじゃないし、殺したら殺しただけ戦える奴ってのは減ってくからな。

 生かしておいて何度も俺の敵になってくれないと勿体ないじゃないか。


「安心しろよ。半殺しにするって言っても後遺症の残るような怪我にはしないからさ。でも俺をぶっ殺したくてぶっ殺したくて堪らなくなる程度には痛めつけるけど──」


 そう宣言して俺が不良学生に近づこうとすると、そいつらは俺に一瞥もくれることなく背を向けて逃げ出した。

 何だ? 俺に対するビビり方とは違うような……そう思った瞬間だった。

 俺は背後に凄まじい殺気を感じて、その場から跳び、後ろを振り返る。

 そうして振り返った先には──


「──見つけたぞ、邪神アスラカーズ」


 くすんだ羽を生やした天使がいた。

 見覚えのある顔だ。というか──


「俺に負けた奴だったよな」


 名前はエルディエルだったか?

 どうして、こいつがこの場所にいるかは分からねぇが、俺を狙って復讐しに来てくれたってことで良いのかな。まったく、そんなに俺を想ってくれるとか嬉しくてたまらねぇぜ。

 さっきの連中とは違う、こういう奴を俺は待ってたんだ。こういうことがあるから、敵は殺さないようにしないとな。


「殺す、殺す! 使命など知った事か! 貴様を見つけた以上、我は貴様を殺さねばならん! そうしなければ我が受けた屈辱は消えぬ!」


 光る槍を俺に向けて突きつける天使。

 何か用事があったのに、それを放っておいてまで俺とりたかったとか──


「それなら、その想いに応えてやらねぇとなぁ」


 色々と考えるべきことはあるが、どうでも良いぜ。

 さぁ、喧嘩をしようか!





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