表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/379

白の御使い

 

 変な女が祭りの前日だって言っていたので、明日は白神祭りなんだろう。

 じゃあ、俺はどうする? ラザロスの町の中へ行くか?

 それも良いんだろうけど、もしも本当に白神ってのが降りてくるなら間違いなく戦闘になるだろうから、町の中はちょっとね。巻き添えを食って死ぬ奴がいるのは可哀想だから止めておこう。ってなわけで、祭りの当日に町に行くのは無しの方向性で。

 まぁ、ちょっと遠くから様子を見て、どうしようか考え、場合によっては普通に町中に乗り込むけどな。巻き添え食って死ぬ奴がいたとしたら可哀想だけど、結局は可哀想って思う程度しか俺が害を被ることはないわけだし、嫌な気持ちをちょっと我慢すればいいだけだもんな。


 俺はとりあえず町の外の適当な場所に野営場所を移すことにした。

 町のすぐ外で見張っていても、そこで戦闘になったら結局ラザロスの町を巻き込むことになるんで、俺はすこし遠い場所から様子を眺めつつ、

 俺が選んだ場所は俺がこの世界に初めて降り立った城跡。そこからなら、一応はラザロスの町を見下ろすことができるし、人が訪れることも無いし、近くに人が住んでいる様子もなさそうなんで、そこが良いと判断したってわけ。

 少し遠いかなとは思うが、本当に神が降りてくるっていうなら、充分その気配は察知できる距離だし、降臨した神も俺の存在に気付ける距離だ。


 俺は城跡のある丘の上でラザロスの町が見える位置にテントを張って、焚火をおこし、見張りの準備をしておく。祭りが明日の何時頃に始まるかは分かんねぇけど、まぁ見てりゃ町で何か動きがあるだろう。


 そうして城跡でボンヤリとしたり、城に残っていた魂を適当に浄化したりしながら過ごす。

 死んだ奴の魂が完璧な状態で残るってのは死んだ奴にとっても結構苦しいことなんだよな。記憶やら意識やらが残ったままの状態で、その場に永遠に突っ立っていることになるからな。

 人間ってのは悲しいことに魂だけじゃ狂い難いもんで、狂気には肉体が必要になる。肉体の感覚や脳内物質の分泌、神経系の異常といった手助けがないと頭がおかしくなるのも中々に難しいだわ。

 頭が無いのに頭がおかしいってのも変だろ? 魂には頭が無いんだしな。


 この城の地下で生贄にされかけていた兄妹の魂と同じように、この城に残っていた魂も俺の中に取り込んでおいた。

 まともに魂の管理もしてないこの世界じゃ、半端に浄化したところで魂がどうなるか知れたもんじゃないんで、全て俺の中に入れて転生が可能な状態になるまで余計な部分を洗い流して、真っ白な魂にして俺の中に保存しておく。

 で、その魂は俺がこの世界を管理している神様をぶっ殺した後で、この世界に転生させてやろうかなって考えてる。本当は俺がやらなくても、自然と回っていくように世界のシステムを作っていくもんなんだけどな。

 魂をゼロから用意するってのは結構な資源リソースが必要だし、リサイクルしなきゃ生命の循環ってのはやっていけねぇんだけど、この世界にはそういうシステムがないから、当面は俺が代わりをしなきゃならないんだろうな。


 そうして俺が城の中に残留していた魂を全て取り込んだ頃には白神祭りの日の夕方になっていた。

 俺は町を見下ろせる丘の上に腰を下ろすと、ラザロスの町の様子を眺めることにした。


 遠くからでも活気が良く分かるぜ。

 人が楽しそうにしてる場ってのは雰囲気が違うからな。見てるだけでもそういうのは分かるもんだ。

 普通の人が普通に暮らす普通の場所。

 俺がいる場所じゃねぇな。そういう場所に居たいとも思わないし、そもそもそういう場所にいる資格が俺には無い。

 そりゃあ俺にだって普通の人の中で普通に生きる資格はあったよ。人間だった時には確かにあったんだけど、自分から捨てたんだ。俺はそんな生活なんていらねぇってさ。


 そうして捨ててからは平穏とは無縁な生活だ。

 平和は外から眺めるもので俺には関係ないって具合にな。たまに紛れ込んでみるけど、どうにも疎外感が抜けない。で、気付くわけだ。俺の住む世界は此処じゃないってな。

 それを後悔しているわけじゃないが……どうにも良くねぇな。変な考えが頭の中を駆け巡ってやがる。魂を入れたからか?

 魂が持っていた記憶や感情が俺に流れ込んで来てるからか、俺の思考が少し汚染されてる気がするな。まぁ、一時の気の迷いって奴だ。最終的には俺の方の中に溶けて消えるから、そのうち元に戻る。


 余計なことを考えている間にも祭りは進行しているようで、俺の場所からでも町の中に松明たいまつの灯りがチラホラと見えて、それが一か所に動いている様子が確認できた。

 この流れだと、町の中心で何か燃やすんだろう。結構よくある祭りだよな。燃やす物はまぁ色々なんだろうけどさ。お守りとか、家畜や悪魔を模した人形を燃やしたりもするし、単に火を高く燃え上がらせるためだけに組まれたやぐらに火を点けたりもする。で、白神祭りはどうかというと——


 松明の灯りが町の中心に全て集まり、ラザロスの町の灯りがその一点に集中する。

 そして、その状態のまま灯りの動きが止まる。きっと何か儀式でもやっているんだろう。

 現時点では神が降りてくる気配は無いが、儀式の本番はここからだろう。


 そう思ってラザロスの町の灯りを眺めていると、突如、ラザロスの町の中心に真っ白い炎が噴きあがる。

 おそらく儀式が完成したんだろう。噴きあがった白い炎は柱のように立ち昇り、天を衝く勢いで空に伸びていく。


「なるほど、これなら名物にもなるわな」


 俺はそんなに感動がねぇけど、普通なら驚く光景なんだろうね。

 俺にとってはちょっと期待外れだったけどさ。だって、神の気配は感じねぇからさ。

 そういうわけで当てが外れた俺は白い炎が空に向かって伸びていくのをボンヤリと眺めていた。


 だが、俺が眺めていると、不意に炎がおかしな動きを始めた。

 それまで空を目指していた炎の柱が急に止まると、その先端が何かを探すように揺れ、そして俺のいる方を向くと同時に、炎の柱の先端が空から急降下する軌道で俺の方へと落ちてくる。

 ラザロスの町から伸びていた柱の根元が切り離され、炎の柱は先端だけが炎の玉となってこちらへ向かって来る。


「いいね、俺を見つけたのか?」


 こちらに落ちてくる、炎の玉からは僅かに神の気配がする。

 本当に僅かなんで、神ではないだろうがそれに連なるもののはず。

 外れかと思ったが、当たりのようだ。


 炎の玉は城跡の真上にまで来ると速度を落とし、ゆっくりと地面に降り立つ。

 それと同時に炎は消え失せ、炎の中から姿を現したのは背中に真っ白い翼を持つ人の姿をした存在。


「天使か」


 翼があるなら、それで良いだろう。

 正式名称があるなら、教えてくれればそっちの方で呼ぶけどさ。


「異物を発見――排除を開始する」


 天使は騎士のように鎧を身にまとい、手には槍を持っている。

 その槍を俺に向けて、天使は俺の排除を宣言した。


「俺が異物ね。まぁ、この世界に生きる存在から見れば、そうなるわな」


 雰囲気的にやっぱり神の眷属だろう。

 異物を排除ってことは白血球みたいな仕事をしてるんだろうね。

 世界を体に見立てたら俺は病原菌みたいなもんだし、排除しなきゃいけないって理屈は分かるぜ。だけどな——


「何も知らねぇ何も分かってくせに随分とカッコをつけてやがる。笑えてくるぜ」


 偉そうなことを言う前に自分の世界を見てみろよ。

 放っておけば滅びる有り様のくせして、そのことに気づきもしねぇ。そもそも教えられてないのか?

 お前らがするべきことは俺を排除することじゃなく、この世界を真っ当に運営していくことだろうに。


 まぁ、それを説明したところでコイツには理解できないだろうけどな。

 コイツからは神の気配を感じるから、この世界に神様はいるんだろうけど、その神ってのが何も知らない可能性もあるから、コイツが何も知らないのも仕方ないけどよ。俺も無知が罪とか言う気はさらさらねぇし、それを理由に責めるってのもな。


「我が名はエルディエル。白神に仕える天使として貴様を滅する」


 やっぱり天使で、しかも白神に仕えているのか。

 神の使いみたいな感じだから当然って言えば当然に感じるけど、世界が無数にあるからって天使が俺の出身世界のイメージと全く同じなんて偶然はねぇよ。

 おそらく俺と同じ文化圏か近い系統の文明世界に出自を持つ奴がこの世界をデザインしたんだろう。

 天使とかは世界の運営を補助をするNPCみたいなもんだし、その世界を治める神が好きに形を決めて良いんだから、自然とイメージしやすい形になるわけで。


 ぶっちゃけ地球か地球に近い文明を築いた世界出身の人間だろうな。

 そうじゃなきゃ背中に翼の生えた人間で、とりあえず天使にするってことは考えにくい。そいつは神の国が空にあるような認識を持っていて、そこから降りてくるのに鳥のような翼が必要とか考えるような文化的素地があって——


「貴様が何者であるかは知らんが、その身からはこの世界の者ではない気配を感じる。故に世界の異物と見なし排除する」


 おっと余計なことを考えていたな。今は目の前の相手に集中しなきゃな。

 なので、俺は目の前の相手に集中し、相手の姿を見る。天使の顔は男にも見えるが、そもそも性別があるかも分からないんだよな。身につけている金色の鎧からは神聖な気配がするし、槍からも同じ気配がする。


「宣戦布告とはありがたいね。それならこっちも気兼ねなくれるってもんだぜ」


 相手の観察はもう良いや。後は戦って確かめる。

 無知については何も言うつもりはないけれど、俺の欲しい情報を持っている可能性もあるんだから、半殺しにして聞き出さねぇとな。

 向こうも戦る気満々みたいだし平和的な解決は無理みたいだし仕方ねぇよなぁ。俺にとっては願ってもねぇ状況だけどよ。せっかく強そうな相手が来たんだから戦わなきゃ損だろ?


 さぁ、この世界の天使ってのがどれくらいの強さか確かめさせて貰おうかね。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ