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魔導学院の優等生

 

 ゼティが撮影したというシステラの学院の様子を俺とマー君は見ることになった。

 空中に投影されたスクリーンを並んで眺める俺とマー君。盗撮じゃねぇのかなって疑問が浮かびそうになるけど、そこら辺は今は気にしないようにしよう。


「システラの製造には俺も携わったからな。娘の成長を見守る父親の気分だ」


 マー君が気持ちの悪いことを口走っているが、これも聞き流そう。

 システラは人造生命体なんで、それの製造に関わった奴らは何人もいるけれど、娘とか口走る奴は初めて見たぜ。俺は口を挟むことはせずに黙って動画が始まるのを待つことにした。


 ほどなくして空中に投影されたスクリーンに学院の様子が映る。そこは魔導学院の教室の中のようだ。

 教室の中の学生の制服は純白で、それを見たマー君が「エリートコースだな」とさりげなく情報を寄越す。

 システラがエリートコースかぁ……とか思いそうになるが、肉体のスペックなんかを考えればおかしくはないのか。


「流石ですわ、システラさん」


 動画の中から聞こえてくる声、どこにシステラがいるのかと画面を注意深く観察していると、視点が変わり画面に教室の一角に出来た人だかりにピントが合う。


「そうかなぁ、こんなの普通だと思うけど」


 その声はシステラのものであり、聞こえてくるのは人だかりの中心であった。

 つまり、人だかりってのはシステラを中心に形成されてるわけで、それを見て俺は何となく状況を察することができた。


「えぇ、そんなことないよ、システラさんが使ったのって上級魔術だよ。普通じゃできないんだよ?」


「やめなって、システラにはウチらの常識は通じないんだから」


「えぇ、それってどういうこと?」


 システラを中心に話しているのはクラスメイトだろう。

 状況は詳しくは分からないけれども、なんだか見るのが辛くなって来たぞ。

 クラスメイトに囲まれたシステラはキャラを作ってるのか、普段の無表情──普段もまぁカッコつけてクールぶってるだけなんで変わらないとも言えるが、とにかく人形みたいに整った顔をクルクルと感情豊かに変化させるシステラを見てて、なんだか居たたまれない気持ちになってくるのは俺だけだろうか?


「なぁ、これって……」


「言うな」


 マー君が何か言いたそうなのを制止するとスクリーンの映像が切り替わり、開けた空間に幾つかの的が並んでいる射撃場みたいな場所でシステラは他の学生や教師に見守られながら、魔術を発動しようとする場面へと移り変わる。

 ……なんでアイツはこの世界の魔術なんか真面目に習ってんだろ? 業術か瑜伽法を使えるようにした方が良いって俺は言ったような気もするんだけどなぁ。


 そんなことを思いながら眺めているとシステラが魔術を放った。

 システラが使ったのは大量の火球を乱れ撃つ魔術で、一斉に放たれた大量の火球が一瞬でその場にあった全ての的を破壊し、それを見た教師が呆然とした表情で呟く。


「なんて威力だ……」


 そうかぁ?

 的は魔術に耐性のある金属みたいに見えたけど、それでも壊すのが大変そうでは見えないんだよなぁ。

 システラもそれは分かってると思うんだけどな。なんで、あの子はキョトンとした顔をしてるんだろうか?


「えっと、もしかして私、また何かやっちゃいましたか?」


 システラは周りにいる学生や教師を見回して焦ったような表情を浮かべている。


「もしかして、全然ダメですか?」


 そんなわけねぇだろ。

 分かってて言ってんだろってツッコミたいが、過去の映像に対してツッコミを入れても無意味なんで俺は黙っているしかない。


「……合格だ」


 教師は何か言いたそうだったが、それだけ告げると壊れた的の代わりに新しい的の用意を始める。

 試験でもやっていたんだろうが、一旦中止になったことで、他の学生がシステラの元に集まる。

 女子が多いようだが男子もそれなりにいて、どうやら俺達の知らない所でシステラは慕われているようだ。まだ、学院に来て少ししか経ってないってのに上手くやったもんだぜ。


「ねぇ、システラ、今のってどうやったの?」


 システラに駆け寄った学生の一人が興奮した様子でシステラに話しかける。


「えぇ、普通にやっただけだよ。みんなは出来ないの?」


「あんなの普通じゃないって! 学院の先生でもあんな風には出来ないよ!」


 いや、俺との決闘でマー君の方が明らかにヤバい魔術を使ってたと思うんだけどな。

 まぁ、白服の学生は俺とマー君の決闘を見物には来てなかったようだし、マー君が魔術で記憶を弄ってるから学院の連中はマー君の魔術の腕とかは知らねぇから、評価が甘くなっても仕方ないのか?


「みんな、システラを俺達の常識で測るのはやめようぜ」


「そうだよね、システラちゃんだもんね」


「えぇ、それってどういうこと?」


 和気あいあいとした様子のシステラとクラスメイト。

 そのまま和やかな雰囲気で映像は締めくくられ、最後までシステラがクラスメイトに賞賛され続けるのを俺達は見続けたわけだが、さて──


「なぁ、マー君?」


 俺とゼティの視線がマー君に集まる。

 マー君は目を伏せ俺達と視線を交わさないようにする。

 別に目を合わせなくてもいいんだけどさ、ちょっと言いたいことがあるんだが?


「いや、製造したって言っても俺は魔力とかの伝達系の設計や、魔術に関する適正調整とかしただけで、人格形成とかには関わってないからな」


 言い訳がましいマー君の弁明。


「性格に関して俺は関係ないし、あんなに痛々しいのは俺が原因じゃない」


「痛々しいとか言うなよ……」


 もう少しオブラートに包めと言いたげなゼティ。

 でも実際、痛々しいんだよなぁ、システラのアレ。

 システラの各種性能スペックを鑑みると、あの状況って例えるなら大人が子供に混じってるようなもんだぜ?

 小学生の中に高校生が混じった結果、『スゲー、スゲー』って褒め称えられてるようなもんだ。想像すると結構ヤバいと思わない? 

 高校生が小学生レベルのことを簡単にこなして小学生に「こんなの余裕だよ」ってドヤ顔きめてる所を想像するとヤバいだろ。

 ついでにその高校生は周りの高校生には相手にされてなくて小学生相手じゃないと優位に立てないとかヤバいに決まってるだろ。俺達相手だと優位に立てないからって自分より明らかに下だと分かっている連中を使って自尊心を満たしてるんだぜ? 痛々しいとしか言いようがないだろ。


「俺達にも原因があるんだから、システラのやってることに関してとやかく言うのはやめておかないか?」


 そんな風に甘いことを言うのはゼティ。

 マー君は我関せずって態度を貫くことにしたようで視線を逸らしてやがる。テメェが一番システラを必要としてるくせに、その態度は何だってんだ。


「俺達が悪いってのはアレか? 俺達がシステラを認めてあげてないのが悪いって? もっと普段からチヤホヤしてやれば良かったってゼティは言いたいのか?」


 俺が問うとゼティは「そうだ」と頷く。

 俺達の普段のシステラへの対応が良くなかったからシステラは自分をチヤホヤしてくれる環境へと逃げ込んでしまったってゼティは言いたいようだ。

 いや、まぁそうかもしんないけどさぁ。だからって、アレは良くないだろ。


 さっきは例で高校生と小学生で考えたけれど、システラは実際は100歳を超えてるんだぜ? 

 社会経験少ないから実年齢ほど精神的な成長はしてないけれど、生きた年数で考えれば、一世紀先の未来人が過去の人間にマウント取ってるようなもんだ。今はチヤホヤされて気分いいだろうけど、後々振り返ったら死にたくなると思うぜ? 現在進行形で黒歴史を生み出してるのは止めてやるべきなんじゃないだろうか?


「システラがどういう学院生活を送っているかはともかく、アイツが俺達に何の連絡も取ってないってのはどうにかするべきなんじゃねぇか?」


 マー君はシステラの学院生活に関しては見て見ぬふりをすることにしたようだ。

 まぁ、俺達に何の連絡も寄越さないのは実際良くないし、そのことはマー君の言うとおり何とかするべきだとは思う。


「だが、システラは俺達と顔を合わせることも嫌がってるようで接触することすら困難だぞ」


 ゼティが言うにはシステラは学院の中では比較的仲が良いはずのゼティですら避けているらしいし、放課後は学生寮にすぐに戻っているようだ。


「自分の言動に一々反応してくれるし、自分を尊重し認めてくれて、チヤホヤしてくれる。そんなぬるま湯の環境が思った以上に居心地が良くて、俺達のような面倒臭い連中と関わるのはもう嫌だってことなのかねぇ」


 泣けてくるね。

 これまで俺達がアイツのためにどんだけ心を砕いてやったと思っているのか。

 冷静に考えると全く気を遣ったことないってことに気付いてしまったが、まぁそこら辺は実は凄く大切にしてたとか、そんなエピソードを捏造する方向性で行こう。


「向こうが嫌がってたとして、こっちだってシステラから協力を得られないと困るんだぞ」


 マー君はシステラの学院生活には触れずに、とにもかくにもシステラの協力を得る必要があると訴える。

 まぁ、実際そうなんだけどね。

 俺もこれが俺に関係の無いことだったら放っておいたぜ?

 ぬるま湯のような環境だって、それを選ぶのは個人の自由なわけだし、高いレベルの環境で苦労するより、自分に見合ったレベルより低い環境でノンビリと生きてく方が良いって人間だっていっぱいいるんで、一方的にそういう生き方を否定するってのも狭量な話だと思うからな。

 でも、それは俺が困らないってのが前提にあって、俺が困るのであれば俺は俺の都合で他人の生き方を否定することもある。だって、俺は俺が一番大事だからね。自慢にならないが、俺は俺のためなら他人の生き方を否定することにも躊躇いは無いのさ。


「向こうが避けてるってことなら会いに行って、ちょって手を貸せと頼むしかないんじゃないか?」


 俺が言うとゼティが首を横に振って言う。


「素直に協力してくれると思うのか?」


 してくれないとでも?

 ……まぁ、しないだろうなぁ。俺らと関わるのも嫌って感じってことは俺達に手を貸すのも嫌って感じになってじゃないかな。

 自分を認めてくれる人々に出会った結果、俺達みたいな奴に無条件で手を貸すのっておかしいんじゃないかってシステラは思い始めただろうしな。それを自我の目覚めというべきか反抗期というべきかは判断がつかないが厄介なことだぜ。


「協力してくれないっていうなら、協力したくなるようにするしかないんじゃないかねぇ」


「どうやって?」


 そういうことは聞かなくても思いつかないかいマー君?


「今システラは自分の居場所は学院だと錯覚してるようだから、その夢から覚ませばいい。アイツを慕ってるクラスメイトの前で恥をかかせて、学院にいられなくしてやれば、また俺達を頼るようになるだろ?」


 良い考えだと思わないかい?

 ……なんだよ、そのドン引きした顔は?


「割と本気で引いてるんだが」

「よく、そんなことを考えられるな。初めての青春を謳歌してる奴に対して」


 スゲー不評な感じなんだが、じゃあテメェらに良い案はあんのかよ!


「まぁ、それしかないとは思うが、俺は弟子の一人に似たようなことをしたら、その弟子は世界を滅ぼすことを目標とする悪の魔導士になったぞ」


 マー君の弟子とシステラは違いますぅ!


「俺の弟子は腹を切ったなぁ」


 ゼティの弟子ともシステラは違いますぅ!


「ゴチャゴチャ抜かしたところで、キミらは他の案を出さねぇだろ? とにかく俺の案で進めようじゃないか。途中で良い案を思いついたら、そっちを採用すれば良いだけの話だ」


 ゼティとマー君は不承不承という感じではあるが、他に思いつく方法も無いということで俺の案を認めてくれた。


「だが、俺達がウロウロしてたら、その時点でシステラは俺達と距離を置くはずだ。恐らく近づくのも難しいってのに、どうやってシステラに恥をかかせるんだ? お前の言ってる恥ってのは上手くすれば笑い話にできるようなハプニングじゃなくて、周りの連中がシステラに失望を感じるような、そんな状況に追い込むということだろ? 俺達が近づかずにシステラをどうやってそんな状況に追い込む」


 マー君の推測を聞いたゼティが本気で引いた表情を浮かべながら俺とマー君を見る。


「まぁ、システラは俺達がいたら警戒するだろうし、油断もしないだろうな。それは間違いない。だから、俺達は何もしない。いや、正確には俺達は下準備をするだけで、システラを追い込むのは別の奴にやってもらう。そもそも俺達が直接、手を下してもアイツは最初から俺達には勝てないと思ってるから、そんなにダメージが無いしな。俺達が手を出した場合、負けたとしてもクラスメイトに適当な言い訳をするだろう」


 だから、俺達は手を下さないんじゃなくて下しちゃダメなのさ。


「システラには言い訳ができない相手に負けてもらおうじゃないか。それも学院にいる連中の大半が格下だと思っている奴にさ」


 そんな知り合いいたかって?

 いるじゃないか、俺達の知り合いに落ちこぼれがさ。

 そして、そいつは都合の良いことに俺達に鍛えて欲しいと言ってきてやがるときた。

 ここまで言えば分かるだろ、マー君?


「そう、ジュリアン君にシステラと勝負してもらおう」


 そして見事にシステラを打ち負かしてもらって、システラの学院での居場所を奪ってもらおうじゃないか。


「お前、本気で地獄に落ちるぞ」


 ゼティ君、こんな程度で地獄に行ってたら、俺なんか地獄と現世で百億回往復しなきゃいけなくなるっての。

 ……この件に関してはゼティに頼るのは危険そうだな。システラに同情的な気配がするし、システラに何か助言しに行くかもしれないから、ゼティは関わらせない方が良いかな。


「さて、明日から忙しくなるぞ。ジュリアン君をシステラに勝てるように鍛えないといけないからな」


 まぁ、頑張るのはマー君の仕事だけどね。

 俺はゼティの動向に注意しつつジュリアン君が強くなるのを見守るだけさ。




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