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結局の処分

 

 結局、俺とマー君は学院に残れることになった。

 俺とマー君の戦いの見た結果、俺とマー君はどちらも学院に残れる実力があるという評価が下されたようだ。

 あの戦いを見て学院に残っても良いって程度の評価なのは変な気がするだろうが──


『馬鹿か? 俺が認識操作の魔術をかけておいたに決まってるだろうが』


 ──ということだとマー君が種明かしをしてくれた。

 見たものを正しく認識できなくなるって魔術をマー君は闘技場にかけておいたようで、それによって俺とマー君の戦いを見ても、それを見た通りには認識できなくなり、観客は俺とマー君の戦いを見ても、それなりの強さの二人の戦いだとしか思えなかったとか。

 俺は弱い奴だとか思われるのが好きじゃないんで余計なことをしやがってとしか思えないが、マー君的には平和な学生生活を送る上では絶対に必要なことだったようだ。

 俺は目立つのが嫌いとかそういう気持ちは理屈の上では分からなくもねぇけど、共感は全くできないんでマー君のやってることはアホだと思う。他人の注目を浴びるとか最高に気持ちいいのにね。

 まぁ、今後も目立つ機会はあるだろうし、その時に目立てば良い。


 ──で、全く関係ない話だし、どうでも良いことなんだが、俺とマー君には自宅謹慎ということになった。

 理由は学食で騒ぎを起こして学内の平穏を乱したとかそういう理由らしいが、俺達は処分を受けてるのに俺達に喧嘩を売った風紀委員とかいう連中はお咎めなしらしい、これはもう謹慎が解けたら、ちょっとお話をしに行くしかねぇよなぁ。


 しかし、学院に行くという話だったが、殆ど通えていないのはどうなんだろうか?

 でもまぁ、俺くらいになると停学も謹慎も危機感を全く感じないんだよなぁ。むしろ休みが増えたぜって感じで嬉しいような気もするぜ。

 そんなことを考えながら俺が学院から、ねぐらにしている酒場の跡地に帰ってくると、そこにいたのは──


「早かったな」


 闘技場で俺とマー君を仲裁した銀色の鎧の剣士がいた。


「もう少し説教をされてくるかと思ったが」


「説教しても無意味だと思ったんだろうさ」


 なにせ問題を起こすなって言った直後に問題を起こすような奴だからな。言っても無駄だと諦めても仕方がないだろう。

 そんな俺の答えに呆れたように銀鎧の剣士は溜息を吐くと顔を隠すフルフェイスの兜を脱いで酒場のテーブルの上に置く。そうして兜を脱いで露になった銀鎧の剣士の顔はゼルティウスのそれだった。

 つまり俺とマー君の仲裁をしてくれたのはゼティだったというわけ、俺もマー君もそれを分かっていたから、一応だが矛を収めてやったってわけ。

 これが見ず知らずの奴だったら、俺とマー君の間に立った瞬間に消し飛ばしてた。あの学院長だって最初に「両者そこまで」なんて言ってたら今頃、消し炭も残らずに蒸発してたぜ?


「それで今度は停学何週間だ?」


 ゼティは俺がどういう処分を受けたかも聞かずに停学と決めつける。


「失礼な奴だなぁ、停学じゃなくて謹慎だよ。自宅謹慎一週間って処分だ」


 同じじゃねぇかって顔をしながらゼティは手に持っていた剣を手放す。すると、剣は光の粒子となって散り、ゼティが身に纏っていた鎧もテーブルの上に置いていた兜も同じように光る粒子となって散り、そして消えていった。


「まぁ、お前が停学になるのは当然だとして、それでマクベインの件はどうなった?」


「マクベインって呼ぶとキレるぞ。アイツはこの世界だとマーク・ヴェインって名前だからマー君って呼ばないと駄目らしい」


 ゼティは『マー君』という呼び方がお気に召さないらしく微妙な顔をしている。じゃあ、マークでもヴェインでも好きな方で呼べば良いじゃないんですかね。俺はマー君呼びを貫くけどさ。


「──で、マークとはどうなったんだ?」


 結局マーク呼びで落ち着いたゼティ。

 どうなったって言われてもなぁ、俺に聞くよりも本人に直接、聞いた方が良いんではないだろうか?

 ほら、ちょうどいいタイミングで──


「なんだここは? クソの寝床がどんなもんかと思ったら本当のクソ溜めじゃねぇか」


 マー君がやって来たぜ。

 場所を教えただけで素直に来てくれるとか、そんなに俺とお話がしたかったんだろうかね。

 お話をしにきたにしては荷物が多いような気がするけども。


「久しぶりだな、マーク」

「ゼティか? あぁ久しぶりだな。二十年ぶりくらいか?」


 マー君は俺の事を視界に入れようとはせずにゼティに話しかける。

 なんだろうね、俺への態度と全く違う感じがするんだけど、俺の気のせいかな?

 いや、気のせいじゃねぇよな。険悪な気配が全く無いし。


「いや、十年くらいじゃないか?」

「あぁ、それなら多分、俺とお前で時間の流れる速度が違う世界にいたからだろ」


 なぁ、なんで二人とも俺の方を見ようとしないんですかね。

 俺に話しかけても良いんだぜ? 俺もそういう顔見知り感ありまくりの会話したいしさ。


「ところで、ゼティはここの前は何処にいた?」

「俺は宇宙戦争してる世界だったな。宇宙戦艦を剣で斬っていた」

「そりゃあ大変だったな。俺も似たような世界に行ったことがあるから分かる」


 なんだか俺には分からない会話をしてやがるね。

 俺を混ぜてくれる気は無いかい? 俺もこの世界の直前にいた世界のことは話せるぜ?


「そちらはどんな世界にいたんだ?」

「普通に魔法のある世界だった。そこで魔王業務だ」


 マー君の答えにゼティが「あぁ、アレか……」って感を出しながらマー君に哀れみの視線を向ける。

 魔王業務ってのは誰が名付けたかは知らねぇけど、俺の使徒の一人が言い出したもので、俺が使徒に与える使命の一つをそう呼ぶ。

 その使命ってのは俺が気に食わねぇなぁって思った神の世界に対して、俺の使徒を送り込んで、その世界を征服してもらうっていう使命。俺の使徒に征服されるってことはその世界は間接的に俺の物になり、世界を治める神にとっては俺に奪われたことになる。

 自分の世界を奪われた神の屈辱の表情ってのを見るのが俺は大好きでな。ついでにそいつがキレて俺の使徒を抹殺しようとしたら最高の展開。正当防衛ってことで俺の使徒に神殺しをしてもらうからな。


「今回も本当にクソ面倒臭かった」


 マー君がようやく俺に視線を向ける。

 何か言いたげだが言っても無駄だろうって感じで俺を見ている気配がする。

 まぁ、魔王業務を面倒臭くさせてる原因は俺にあるんで文句もあるんだろう。

 魔王業務は最後には現地の人間に負けてあげるように命令を出してるから、最後の負け方に気を遣うせいで面倒臭いらしい。

 自分が負けた後の世界が行く末が混乱しないように配慮するとか魔王業務に携わる使徒は気にしないといけないんで、自分が負けるに相応しい相手を待ったり、時期をまったりする必要もあるんで、やたらと時間がかかるらしい。


「ま、もう済んだことだ」


 そう言ってマー君は店の中に転がっていた椅子を起こして、それに腰を下ろしテーブルに荷物を置く。

 ゼティも椅子を持ってきてマー君の近くに座るが、その視線はテーブルの上に置かれた荷物に向けられている。


「この荷物は?」


 気になったゼティが訊ねるとマー君は俺の方に一瞬視線を向けるが、すぐさま逸らして溜息を吐きながら説明を始める。


「どっかのクソ神が喧嘩を売ってきたせいで俺の実力が知られたせいで寮に居づらくなったから出てきた」


「別に気にすることじゃないじゃん。強い奴だって知られてて困ることってあるか?」


「面倒に巻き込んだ当人が言うセリフじゃねぇよなぁ!」


 俺が口を挟むとマー君がキレる。

 嫌だねぇ、もっと大らかな心を持とうぜ?


「絡んでくる奴がいるんだよ。最底辺の黒服の癖に生意気だとかな。そういうクソ雑魚を相手にするのが面倒だから俺は寮を出た。ついでに寮監が俺の趣味にまで口を出してきて、居心地が悪いことこの上ない」


 そう言ってマー君が荷物の袋の中から取り出したの一鉢の小さな植木鉢。


「あのクソ寮監、「寮内で怪しげな植物の栽培は禁止です」とかぬかしやがる。どこが怪しげなんだっての」


「実際、何の植物?」


「タバコ……正確には俺がこの世界で見つけたタバコに近い植物に魔力を注ぎ込んで遺伝子を変化させ、品種改良した植物」


 どう考えても怪しい植物じゃん。

 植木鉢に植えられているのは青々とした葉っぱを持つ植物だけれども、全体が不自然に鳴動してるんだよなぁ。なんていうかこう、心臓の鼓動のようにビクッビクッって感じでさぁ。


「見てわかるように怪しげ植物じゃないぞ」


 マー君がそう言った瞬間、タバコ?の蔓が急に伸び、床を走っていた鼠を巻き付いて絞め殺す。で、鼠が死ぬと巻き付いた蔦は鼠を置き去りにして元に戻る。

 ──やばい植物じゃん。いやさぁ、鼠を捕まえて捕食するなら分かるよ? 食虫植物だってあるしさ。でも、そいつ殺すだけじゃん。食欲関係なく殺すってどうなの? 自然界の生き物でそういうのってある?

 俺がそんなことを思った瞬間、同じことを思ったゼティが植木鉢を剣で叩き割り、怪しげな植物を微塵に斬り捨てる。流石にゼティもヤバいと思ったようでマー君の育てている植物だろうが関係ないと判断し、即座に処分することにしたようだ。


「テメェら!」


 俺の方が「テメェ!」って言いたいぜ。

 ヤバいものを持ってくんなよ。


「……まぁ、失敗作だから構わないけどな」


 一瞬、何をするんだって思ったんだろうけど、結果的には処分して問題なかったようでマー君はすぐに落ち着く。


「話を戻そうぜ? とりあえずマー君は行くところが無くて俺達の所へ来たってことで良いのかい?」


「マー君って呼ぶんじゃねぇ! まぁ、行く所が無くてここに来たってのは正しいが」


 そりゃ良かった。じゃあ、俺達に協力してくれるってことで良いんだろうか?

 それじゃあこれから、どうしてそんな心変わりをしてくれたのか、その理由も一緒にお話しをしようじゃないか。




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