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十点先取

 

 十回殺すと宣言された直後に俺を胸をぶち抜いたのは黄金の槍だった。

 魔力で作り上げられた槍が俺が反応する暇も無く俺の心臓を貫いていた。


「錬成術式──アダマントの槍」


 続けてマー君の周囲に俺を貫いたのと同じ黄金の槍が一本生み出され──


術式コードを複製──同作業を実行──実行数30──連続発動──アダマントの槍」


 続けざまに30本の黄金の槍が生み出されて俺に襲い掛かる。

 俺は心臓をぶち抜いている黄金の槍を引き抜き、槍が向かってくるその場から飛び退く。

 これで一回死んだ。

 マー君の言った通りなら後、九回は殺す気なんだろう。

 十回死んでも俺の命の残機数はまだある。それでもまぁ、思い通りに殺されるのは面白くねぇよなぁ。


 俺は飛び退いた先に着地すると同時に走り出す。

 現状じゃ、俺のやれることは殴り合いだけなんでね。

 距離を詰め、接近戦の間合いに入り込むしかない。


「……方位術式──赤雷塵敵せきらいじんてき


 だが、マー君の言葉が聞こえた瞬間、踏み出した俺の位置に真っ赤な雷が降り注ぎ、俺の体を貫く。

 単純に電気的なダメージではなく魔力を通した雷によるダメージは内力で強化された俺の肉体を貫いて即死に追い込んだ。


「準備は終わったって言っただろうが。態勢の整った俺を相手に接近戦へ持ち込めると思うな」


 ──だよな分かってるぜ、これで二殺目だ。

 確かに準備が完了したマー君相手だと接近戦に持ち込むことすら厳しいだろうよ。

 でも厳しいからこそ、やるんだろうが。相手が手強いからこそ、挑戦しなきゃつまらねぇだろう?

 少なくとも俺はそう思うね。その結果、俺が殺され切っても俺は構わねぇ、むしろ望むところ。


「良いじゃねぇか」


 楽しくなってきたぜ。俺を近づけずにぶち殺すって算段をぶち壊すとか、楽しいに決まってんだろ?

 俺は起き上がり、再び走り出す。


「言って聞かない馬鹿は死ぬしかないって分かってるか?」


 分からねぇなぁ!

 言ってきかないだけで死んでたら俺は一兆回は殺されてるぜ!


「とりあえず、あと八回死ね」


 マー君が右手を構える。

 人差し指と中指を立てる、それは日本の密教でいう刀印に似た構えだ。

 マー君の使う魔術は色んな世界の物をごちゃ混ぜにしてるんで、何でもありだ。

 密教だと刀印は領域を分かつのに使われているが──


「詠唱術式──術式破棄──生贄サクリファイス消費──発動──ディバインエッジ」


 マー君が指を横なぎに振るった瞬間、その指先から生み出された光の奔流が俺を飲み込んで消し飛ばした。

 一秒後に消し飛んだ俺は元通りに復活し、足を止めずにそのまま走り出す。


「舐めんな、こっちは死になれてんだぜ。消し飛んだくらいで止まるかよ!」


 完全に消し飛ぶと死ぬ直前の状態まで時間が巻き戻って復活するんで服も死ぬ直前のまま。素っ裸になるってことは無いから安心だぜ。


「そんなことは分かってんだ」


 だよな、マー君も死になれてるからな。

 そんでもって殺し慣れてる。さて、考えてみようか?

 こんだけ俺を見事に殺しまくっておいて、果たしてマー君は学院に残ったとしてもマトモに学生生活を送れるんでしょうかね? 頭に血が上りやすいからなぁマー君、手加減を忘れて俺を殺すことに熱中してないかい? そんなんで良いんでしょうかねぇ。


「止まるまで殺してやるよ、アスラ」


 次の瞬間、急に生み出された無数の魔力の光弾が俺に向かって雨のように降り注ぐ。

 無詠唱どころか魔術を発動させる気配も見えなかった。何をしたのか考えより先に俺の頭を光弾が吹き飛ばし、これで四回死亡。しかし、俺は即座に復活し、走り出そうとするが、そんな俺の足は動かない、足元を見ると、俺の足は何時の間にか地面に広がる氷に覆われていた。


「方位術式──氷鎖縛錠ひょうさばくじょう


 こんなもんで俺を止められると──


「方位術式──アダマントの槍」


 次の瞬間、黄金の槍が俺の頭をぶち抜いて即死させる。


「詠唱術式──詠唱破棄──赤雷塵敵」


 マー君の右手の指先から赤い雷が俺に向かって迸り、雷が俺の体を貫く。


「これで六回だ。残機が尽きる前にやめてやってもいいぞ?」


 ──見られてることを忘れてませんかねぇマー君。

 赤い雷で脳味噌まで焼かれた状態から復活した俺が思ったことはその程度のこと。

 やめる? ありえねぇよ、楽しくなってきてるからな。


「九回殺してから言ってくれるかい、ミスター」


 俺は復活した体で再び走り出す。

 マー君は足を止めていて動いてはいない。間合いは確実に近づいてきていている。

 そんな俺にマー君が右手の指先を向けて魔弾を放つ。

 牽制? 足止め? どっちにしても、そんなもんで俺が止められるわけはねぇよ。

 俺は飛んできた魔弾を拳で叩き落としながら、更に距離を詰めるが、その瞬間、マー君の視線が僅かに動き、俺の足元に向けられる。

 俺は咄嗟にその場から横に跳ぶと、一瞬前まで俺がいた場所に赤い雷が落ちる。


「テメェ、スイッチが入ってるな」


 さぁ、どうだろうね。

 そもそも何のスイッチ? ウォリアーズ・ハイになるスイッチかい?

 まぁ、なんだかとってもハイな気分ではあるけどさぁ!


「今なら超光速だって止まって見えるぜ」


 ハイになった俺を見て、マー君の視線が一瞬、動く。

 方位術式とか言っていたのは、位置関係を利用した魔術。特定の方向や位置に敵が入ったら発動するって奴だ。一瞬だけ動いた視線はその方向や位置の確認だろう。俺はマー君の視線から、どこに術式を仕掛けたのか推理して走る。


「チッ」


 舌打ちが聞こえる。焦ってる? いや、焦ってねぇな。焦ったふりだ。

 マー君は左手に持っていた警棒を右手に持ち変えると、左の掌を俺に向けて魔弾を放つ。

 だが、今の俺はそうして放たれた魔弾も止まって見える。俺は飛んできた魔弾を躱すと同時に全力の踏み込みを以て一気に距離を詰める。


「しようぜ? 接近戦」


 拳が届く間合いに入る。

 近づく俺に対し、マー君は警棒を振るが、俺はそれを受け流し反撃に転じる。

 俺の放った拳が腹に突き刺さった。だが、同時に俺の内臓が破裂する。


「……位置ってのは魔術的に大きな意味を持つ。風水だったか? お前の生まれた世界だと、それで都の位置を決め、国家の繁栄さえも左右させるって程の効果がある。であれば、人間の命をどうこうすることだって不可能じゃない?」


 しくじったね。

 位置関係ってのは俺の立つ位置だけじゃなく、マー君との位置ってのも重要な要素だったわけだ。


「俺とお前が特定のポジションになった瞬間、その位置が強力な魔術的意味を持ち、そこに魔力を流すことでお前を殺す魔術を発動される。名前は決めて無いが、お前を殺すためだけのお前にしか効かない、そしてこの場この時間でしか使えない、一度きりの魔術だ」


 全ての内臓が一瞬で破裂して俺は膝をつく。

 だが、それだって一瞬だ。俺は即座に復活して立ち上がると、目の前に立っているマー君に殴りかかる。

 だが、マー君は殴りかかった俺の拳を平気な顔で受け止めた。


「接近戦が出来ないわけじゃないと言ったはずだ」


 魔術で肉体を強化して俺の動きについていける身体能力を獲得したようだ。

 マー君は俺の拳を受け止めたのとは反対の手に持ってる警棒を振り下ろして俺を殴りつける。

 警棒は俺の頭を捉え、その衝撃で俺の体が僅かによろめく。


「良い感じじゃねぇか」


 殴られたことに対して言ったわけじゃない。

 全て俺の思い通りに進んでるのが良い感じだって言ったんだ。

 七回殺されたが、俺にとって良い展開だぜ。


「もっと殴り合おうぜ?」


 俺はよろめいた体を起こして殴りかかる。

 マー君はというと、出来ないわけじゃないと言ったが好きではない接近戦を避けようと、後ろに後ろに下がる。その際に歩いた歩数は五歩──


「死ね」


 後ろに下がりながらマー君が呟いた瞬間、俺の周囲に無数の光球が生み出され、そこから放たれた光線が俺の体を貫く。しくじったね。歩くだけで魔術を組み上げるっていうマー君の得意技だ。

 世界によっては詠唱する代わりに踊りによって魔術を発動する世界もあって、そういう世界から取り入れた歩数と歩くリズムだけと魔力で魔術を組み上げるって技術だ。ついでに言うと、それを発展させると──


「これで九回だ」


 マー君は爪先で地面を三回叩く。

 その瞬間、魔術が発動し、爆発が起きて俺の体が消し飛ぶ。


「九回殺してから言えと言ったな? だから聞く、もうやめてやっても良いぞ?」


 消し飛んだ俺の体が元に戻り、余裕を見せた表情でマー君が俺に向かって言う。

 確かにそう言ったよなぁ、でもそれは俺のセリフでもあるぜ。


「俺の方こそ言いたいね。九回も俺を殺しておいて、まだやれるのかってね?」


 マー君は余裕の表情を変えない。でも俺は分かってるぜ。


「俺の動きについてくるために身体強化を使って身体能力を上げてるよなぁ?」


 魔術の狙いをつけようにもマー君は実の所、素の身体能力が足りないんで強化が必要になる。

 強化して動体視力なんかを上げなきゃ俺を捉えられず俺に当てられないからな。


「でも、そうなるとついでに代謝も当然上がる。普通に考えれば代謝が上がっても、問題にはならないんだが、キミの場合は重大な問題があるよなぁ。で、聞きたいんだけど?」


 マー君の目が僅かに細まり、無意識に手が胸元に伸びる。

 そんなマー君に俺は問いかける。


「ニコチンは足りてるかい?」


 マー君がニコチン依存症ってのが重要なわけじゃない。

 それもまぁ重大な問題ではあるけど、今の状況において重要なのはそっちじゃない。

 重要なのはマー君が日頃から吸ってる煙草に含まれたニコチンの効果の方で代謝が上がってニコチンが分解されるとマー君の場合、非常にマズい問題がある。


「煙草の本数は残り一本。さて、どうする? 残り一本で俺を殺し切れるかい?」


 余裕が無いのはそっちも同じだろ?

 俺が言いたいことが通じたのか、マー君は目を細めて俺を見据える。

 互いにやめる気は無いってことだ。であれば──


「さぁ、続けようぜ。まだ第一ラウンドも終わってねぇ」


「上等だ。自分で言ったことを後悔させてやる」


 そう言うとマー君は俺の先手を取るように左の掌を向けて俺に魔弾を放つ。だが──


おせぇ!」


 撃とうとした瞬間が見えた俺は即座に横に跳ぶ。

 そして跳んだ場所に向かって、マー君は視線を向け、次の魔術を発動させようとする。

 ──それが見えてる時点で遅くなってるって分かるよな。今までだったら気付いた瞬間に魔術が飛んできてってのにな。


「止まって見えるぜ!」


 さっきまでと比べたらだけどね。

 俺は魔術を発動させようとするマー君の懐へ飛び込む。

 さっきまでだったら俺が懐に飛び込んだ瞬間、マー君は俺と自分の位置関係を魔術の発動要素に使った魔術を使っていたが今度は使わない。いや、使おうとしたが発動が間に合わずに俺に拳の直撃を食らっていた。


「ニコチン切れはツラいなぁ、マー君」


 俺の拳を食らってたたらを踏んで後ずさるマー君に俺は言う。

 そして、そんなことを言う俺の手にはマー君の最後の煙草が握られている。

 殴った瞬間にマー君の上着の内ポケットに入っていたのを拝借させてもらいました。

 俺は盗んだ煙草をこれみよがしに咥えてみせ、それを見たマー君の瞳に怒りの色が浮かぶ。

 嗜好品であるのと同時に必需品だからなぁ、これが無いとマー君は辛いよね。分かるぜ。でも──


「煙草は百害あって一利なし。吸いすぎには注意しましょう」


 とはいえ、流石に一利くらいはあると思うんだよね。

 例えば煙草に含まれるニコチンだけど、これは脳内の神経伝達物質の放出を促進する。ドーパミンとかアドレナリンとかβ-エンドルフィンなんかだ。そういった神経伝達物質の放出の促進が依存症に影響するわけだが、同時に神経伝達物質の放出が促進されることにはプラスの効果もある。

 例えばドーパミンの作用による認知能力の向上や他の神経伝達物質の効果による脳血流の増加。鎮静作用による精神の安定効果もある。

 実際、ニコチンの摂取がアルツハイマー病に効果があるなんて研究もあるくらいだし、神経伝達物質の作用からも人間の認知能力の向上にニコチンは効果を持つと言える。その代わりに依存症だったりが酷いわけだが。

 ともかくマー君はそういったニコチンの摂取による脳内物質の増加による脳の機能向上を自分の魔術師としての能力を向上させている。

 特に認知能力の上昇や鎮静作用なんかは魔術の発動に大きな影響を持つらしいようで、つまりマー君の煙草はドーピングの役割を果たしているというわけだ。


 だが、そんなドーピングのための最後の一本は俺の手の中にある。

 俺は咥えていた煙草を手に取り、握りしめ──


顕現せよアライズ、我がカルマ。遥かな天に至るため」


 熱を帯びた内力が俺の手にある煙草を焼いて灰にする。

 灰となった煙草は風に舞って散り、その結末を生み出した俺をマー君が睨みつけていた。


「本気で殺されたいんだな?」


 ドーピング無しで俺とやれるのかい?

 ──なんてことを言うつもりはねぇよ。無くてもマー君が強いことは知ってるからさ。


顕現せよアライズ、我がカルマ。深く沈むように響く」


 マー君が業術カルマ・マギアを発動する。

 正真正銘の本気ってことだ。良いね、これで互いに業術を発動した状態だ。


「十回で止めてやるつもりはない。百回死んで、俺の前から消え失せろ」


「百回死ぬまで付き合ってくれんのかい? 最高じゃねぇか」


 そんなに長くってくれるとか、ありがたくて涙が出てくるぜ。

 それじゃあ、続けようぜ。戦いをなぁ!





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