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殺神予告

 

 マー君は伸縮式の警棒──いわゆる特殊警棒を構える。

 魔術師の使う武器といえば杖が思い浮かぶと思うので警棒だと変な感じがするが、取り回しなんかを考えれば、長い杖よりかは使いやすい。それに機能的にも魔術師が使う杖と同じような機能を付与しやすいしな。

 でもまぁ、魔術師向きの武器であっても、そもそも接近戦なんかするなって話ではあるんだが──


 マー君は特殊警棒を持った右手を前に出して構えている。攻撃的な気配はなく、警棒での防御を重視した構えだ。間合いは一挙手一投足、マー君にとっては好きじゃない間合いだから、それも仕方ない。

 狙いとしては俺の攻撃を防いで、隙を見つけて距離を取るってとこか? まぁ悪くねぇが──


「この間合いで俺相手にその作戦は無理だぜ?」


 俺は踏み込んで距離を詰める。

 直後、警棒を握るマー君の右手の人差し指だけが俺に向けられる。

 そして次の瞬間、人差し指から放たれる魔弾。


 距離を詰める俺へのカウンターの一撃だ。

 だが、俺はそれを左手で叩き落として止まることなく前へと出る。


「チッ」


 舌打ちが聞こえると同時にマー君が警棒を振り下ろして俺を迎え撃つ。

 魔力を込めた一撃だ。ついでに何か悪さしをしようとしてんだろ?

 答えは返ってこないだろうが、俺は確信を持って振り下ろされる警棒ではなく、それを持つ右腕を左の前腕で受け止める。だが、そうして超至近距離の間合いに入った瞬間マー君の左の掌が俺の脇腹に触れる距離に迫る。だが──


「読めてんだよなぁ」


 俺は脇腹に向けられた左の掌を右手の手刀で叩き落とす。

 左手の魔弾を至近距離でぶち込もうとしたんだろうが、それも予測がついてるぜ。

 俺はそれを防ぐと即座に振り下ろした手刀を跳ね上げ、右の掌底をマー君の左脇腹に叩き込む。

 僅かに後ずさるマー君。同時に体の重心が後ろに傾き、俺はそれを見た瞬間、前蹴りを放つ。


 俺が蹴りを放ったと同時にバックステップで飛び退くマー君。

 だが、俺の蹴りの方が速い。俺が放った前蹴り、そのつま先が鳩尾に突き刺さる。

 衝撃と傷みに後退する足が止まり、俺は前蹴りで突き出した蹴り足でそのままマー君の側頭部に蹴りを叩き込む。腰を入れていないハイキックとなったわけだが、結果的にその蹴りは直撃し、マー君の体が吹っ飛び、闘技場の舞台の上をその体が転がっていく。


「よっしゃあ!」


 ダメージはともかく綺麗に決まって思わず俺は声を上げてしまう。

 まぁ、喜びの声は出しても残心は忘れないけどさ。

 俺は舞台の上に倒れたマー君に対して油断せずに構えを取る。

 俺は俺が選んだ使徒共を甘く見たりはしないんでね。この程度で終わるような奴を俺は使徒にはしてないよ。


「まだ第1ラウンドの半分もいってねぇぜ?」


 寝てるんじゃねぇよ、さっさと起きて続けようぜ。


「なんだ、もう始めてたのか?」


 マー君は平気な顔をして起き上がるが、口を切ったのか唇の端から血を流してる。

 それでも、余裕の笑みを俺に浮かべている。


「ウォーミングアップかと思ったが、アレで本気だったのか?」


 良く言うぜ、思いっきり頭を蹴られてたくせに。

 でもまぁ、それくらいじゃなきゃなぁ!


「好きになってくるぜ!」


 まぁ、もう好きなんだがね。

 そうじゃなきゃ使徒になんかしねぇよ。

 だから、正確にはもっと好きになってくるって奴だね。


「愛が重くて泣けてくるな」


 嬉し涙かい? 喜んでくれて良いんだぜ?

 お返しに望むのは楽しい殺し合いでいいからさぁ!


「来いよ」

「行くぜ」


 どっちがどっちを言ったのか。

 何でも良いさ。俺は行くし来るのも歓迎。

 マー君だってそうだろ? 自分でも行くし、俺が来るのも望むところってな。


 蹴り飛ばしたせいで僅かに距離はある。

 俺は走り、距離を詰める。そんな俺に対してマー君は警棒を握る右手の人差し指を俺に向けて魔弾を放つ。

 武器を握ってても人差し指だけ開いて相手に向けることは難しくない。


「当たんねぇぞ!」


 俺は体を掠める魔弾を感じながら叫ぶ。

 俺は身を低くして、ジグザグに走りながら距離を詰めていた。


「クソが!」


 俺の動きに対しマー君は人差し指だけではなく中指まで俺に向けてくる。

 これで一度に放つ弾の数は二倍だ。でも、それでも、まだまだだ!

 こちとら人間だった頃からアサルトライフル相手に素手で喧嘩をしてるんだっつうの!

 何時だって俺の敵は俺よりデカく、俺より遠くから攻撃できた、そんな奴らと戦ってきた俺を舐めんじゃねぇ!


「遊び無しで殺してやるよ!」

ってみろや!」


 俺の叫びに応じてマー君は右手に持っていた警棒を真上に放り投げて、左手で掴むと自由になった右手を振り抜く魔力で生み出された衝撃波がマー君を中心に扇形に生み出され、それが俺に襲い掛かる。


「遊んでんじゃねぇか!」


 そんなぬるい攻撃が俺に通るわけがねぇだろうがよ!

 当てることだけを重視した広範囲攻撃が俺に効くわけねぇだろ! 一点集中でぶち殺しにこいや!

 俺は放たれた攻撃に向かってそのまま突っ込み突破する。ダメージはあるが関係ねぇよ!


 衝撃波を突破するとマー君は目の前。

 迫る俺に向かって左手で握った警棒を振ろうとするが反応が遅い!

 俺は迎撃が届くよりも早く拳を突き出し、それをマー君の胸元に叩き込む。

 胸骨をぶち抜き、心臓を粉砕する俺の拳。


「これで一殺!」


 一回殺した程度では死なねぇのが俺達なんで大した意味はない。


「あぁ、確かに一殺だ!」


 直後、マー君の胸をぶち抜いて心臓を砕いた俺の腕が弾け飛ぶ。

 何をされたか咄嗟には判断がつかない。咄嗟に沸き上がるのは上等じゃねぇかという想いだが、そう想った瞬間、俺の頭がマー君の左手に握られた警棒で叩き潰される。


「一人前に脳味噌ぶちまけてんじゃねぇぞ、クソがぁ! すっからかんになった頭蓋骨にクソを詰めてやるぞ、クソがぁ!」


 頭が半分ミンチになった状態で聞こえてくる声。

 上等、上等、特上ってやつだなぁ、おい!

 俺の頭を執拗に警棒で殴るマー君。そのせいで一回死に俺は死んだ直後に蹴り飛ばされ、後ずさる。

 死んでも一瞬で復活できるもんでね、ぶっ倒れるってことはしねぇのよ。


「頭が冷えたぜ」


 脳が外気に触れたせいかね。今の俺は超クレバーだ。

 吹っ飛んだ右腕の再生が遅れてるせいで、血が足りないってのも良い。血が失われてるせいで体温低下、つまりは俺がクールってこと。頭も体もクールになって冷静だぜ。


「テメェの殺し方を俺が承知してないとでも思ってるのか?」


 マー君が俺に警棒の先端を向けながら言う。

 正確には俺の殺し方ってよりは簡単に殺しきれない奴を始末する方法だろう。

 わざわざ口に出さなくても良いことを口に出すってことは時間稼ぎだ。


「手足を潰して、土の底に埋めるんだろ?」


 俺はマー君が言おうとしていたことを先に言う

 殺すのも永久に行動不能にするのも対して変わらねぇからな。

 手足潰して行動不能にして、その状態で地面の奥深くに埋めておけば、自力での復活は不可能だ。


「だけど、それは難しいぜ?」


 その方法じゃ俺は殺せねぇよ。

 親切丁寧に教えてやりながら、俺はマー君に向かって突っ込む。だが──


「そうだよなぁ、ある程度の回数、殺して再生力を落とさないといけないからな」


 急に足がもつれて俺はその場にすっ転んだ。

 そして直後に鳩尾に激痛が走り、全身の毛穴が開くような錯覚を覚えて、そこから汗が噴き出す。

 血圧が急激な低下を起こして、全身が震える。腹の中に入っていた物が口から全てぶちまけられ、それでも胃はひっくり返ったように暴れて、胃液が食道を逆流して口から洩れる。


「辛いよな。俺達は怪我をしたらすぐに再生し、死んでもすぐに復活する。だけど、即座に死につながらない病気なんかは回復しづらい」


「……て、めぇ」


 自分で声を出せたか、どうかも分からねぇ。

 痛みで思考がまとまらねぇ。何を言っているのかも分からねぇ。

 これは本気でマズいと思った俺はまとまらない思考の中で直感的に自分の頭を全力で殴りつけて粉砕する。


「これで二殺目だ」


 一回、死んだことで体調はリセット。体は問題なく動く。

 俺は立ち上がり、マー君を見据える。何をしたのかは想像がつく。


「呪いか?」


 俺の問いにマー君は肩を竦める。


「答える必要があるのか?」


 呪いだな。間違いない。


「人を呪わば穴二つ、傷つけた者は傷つけられる。それがこの世の摂理だ」


 俺に殴られた際にカウンターで魔術を使った。

 おそらくは呪詛とかに分類されるもので、自分にダメージを与えた奴に呪いを返すとかそういう類の魔術だろう。

 色んな世界に行って、色んなタイプの術を習得してるマー君なら、そういう術を使えてもおかしくはないし、反撃として返される呪いが病におちいらせるものでも、そういう術も習得してるというだけで不思議はない。


「こっちの準備は整った。これから十回、一方的にテメェを殺す」


 マー君のそんな宣言が聞こえ、そして次の瞬間、俺は心臓をぶち抜かれた──




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