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vs使徒

 

「始める前に一つ聞いておきたいんだが──」


 魔術の練習場もとい闘技場の舞台の上、戦いが始まる前にマー君は俺に訊ねてきた。

 吸いかけの煙草を耳の上に眼鏡のつるのように置いて、マー君は長い前髪を上げて後ろに流すと後頭部の辺りに紐で髪を結いながら、俺に話しかけてくる。


「負けてくれる気は無いか?」


 おっと、聞きました?

 わざと負けろって言ってきましたよ、コイツ。


「別にテメェはこの学院にいなきゃいけない理由もねぇだろ? 俺は残りてぇんだよ。夢の学生生活だからな」


 まぁ、マー君はそれが夢だったから仕方ないよな。

 自分の灰色だった青春時代をやり直したいってことだろ?

 分かるぜ。でも分かるけど、共感はできないんだよなぁ。俺は学生時代に未練がねぇしさ。つーか、何百年も生きてて今更、学生生活もないだろ。


「なんだったら、お前らがこの世界を脱出できるように手助けはしてやるから、この場は退いてくれないか? 俺の協力が望みだったんだから、俺の協力が得られればもう良いだろ?」


 まるで頼みごとをしているような口調だが、実際にマー君の前に立っていると、頼みごとをしているような気配は全く無く、頼んでいるというよりかは最後通告という感じで、もう俺が何て言うか察しがついているような様子だった。まぁ、長い付き合いだからね、俺が何を考えているのかも分かるんでしょう。それじゃあ、ご想像通りの答えを聞いてもらおうじゃないか。


「もう、そういう感じじゃないんだよなぁ」


 マー君の協力が得られれば良い?

 そういう感じじゃねぇんだよ。ここまで、お膳立てされて何もしないってのは無しだろ?

 ぶっちゃけ、マー君の協力とか二の次だ。こうなった以上はマー君とるのが最優先。

 先の事なんか知らねぇよ、一瞬の快楽に身を任せるだけ。俺は長期的な視点で生きてないもんでね。


「妥協点を探って交渉するとかは俺らの生き方じゃねぇだろ? WIN-WINはありえねぇ、WIN-LOSEのって勝って総取り。勝った奴が全てを手に入れる」


 仮に譲るならテメェの方が諦めろよ。

 俺はこの学園に執着はねぇけど、キミが残りたいみたいだから、その邪魔をしたくなってきちまったんでな。


「だったら、ぶち殺して言うことを聞かせるしかないようだな」


「さっきから、そう言ってんだろ? マー君さぁ、耳にクソでもつまってんのかよ」


「脳にクソが詰まってる奴よりかは人の話は聞こえてるつもりだがな」


 そりゃそうだ。俺と比べりゃ大抵の奴がマシさ。

 こちとらガキの自分からクソ野郎と呼ばれまくってるもんでね。

 だけど、そのクソ野郎に誰も勝てなかったんだぜ? それはキミも知ってんだろ?

 人としてのクソっぷりが勝負を分けるってこともあるのさ。


「負けた奴は勝った奴の言うことを聞くってことで良いよな?」


 ルールを聞きながらマー君は耳の上に挟んでいた煙草に再び火を点けて吸い、そして煙を吐く。


「構わねぇよ、俺もそれを提案するつもりだったからな」


 そいつは良かった。

 お互い相手に言うことを聞かせたいことがあるようでさ。


「俺が勝ったら、この世界で二度と俺の前に姿を現すんじゃねぇぞ、アスラ」


「勝ってから言えよ、マクベイン」


 この世界でって言ってる時点でマー君も甘いことだぜ。

 でもまぁ、甘かろうが何だろうが、戦う以上は向こうも本気だろうよ。


「あぁ、クソだクソクソ。本当にクソだ、なんもかんもクソだ。イラつくぜ」


 煙草の煙をたっぷりと体内に入れ、マー君は大きく溜息を吐く。

 ガッツリと戦闘スイッチ入れてんなぁ。まぁ、そんだけ学院に残りたかったんだろうね。

 マー君はこれまで百を超える色んな世界に行っているはずだけど、今のように学校に通える状況は無かったんで、ようやく来れたこの場所に執着するのも仕方ないのかもしれない。

 うーん、ちょっと可哀想になって来たんで、この世界を脱出できたらマー君は望んだ世界に送ってやろうか

 な?

 ──このことを取引材料に使えば良いのかもしれないけど、残念ながら信用が無いもんでね。俺が何を言ってもマー君は聞きはしないだろう。

 酷いよなぁ、仮にもマー君は俺に仕える使徒なのにさ。でもまぁ、そういう関係が良くもあるんだけどね。イエスマンに囲まれて何やってもスゲースゲー言われてるよりかは俺の性に合ってる。


「──るぞ、アスラ」


「アッシュって呼べよ、マーク・ヴェイン」


 お喋りは充分かい? 俺も充分だ。

 これ以上、話していても観客ギャラリーを退屈させるだけだしろうか。

 退学を賭けた勝負ってことで、どっちか片方が転落ドロップアウトする様を見物しに来た連中に見せてやろうじゃないか、俺達の戦いをさ。


「合図は?」

「必要かい?」


 始めるタイミングは勘で分かるだろ?

 遅れてもそいつが間抜けなだけで、文句は無いはずだぜ?

 そんな意味の俺の答えにマー君は鼻で笑って応え、そして吸っていた煙草を放り捨てる。


 手から離れた煙草は放物線を描きながら闘技場の舞台の上へと落ちていく。

 これが合図だ。

 落ちた瞬間に俺は動く。

 間合いは一瞬で詰めれる。

 そんな思考が脳裏を瞬時に流れ、俺は動き出す。その瞬間──


「──おせぇよ」


 胸部に衝撃を受けて俺は吹っ飛ばされた。

 戦闘は俺が先制攻撃を受けたことによって始まることになった。


「良いね」


 吹っ飛ばされた俺は即座に受け身を取ってマー君を見る。

 マー君は右手の指先を俺に向けていた。


「魔弾かい?」


 俺は答えを聞くよりも先に横に跳ぶ。

 次の瞬間、俺がいた場所に衝撃が襲い掛かり弾け飛ぶ。


「流石、使徒の中で一番早いだけはあるぜ、早漏魔導士クイックスターター

「言ってろ、遅漏神スロースターター


 俺はマー君から一定の距離を取りながら横に走り、それを追ってマー君は右手の指を俺に向け、その指が向けられた瞬間、その指の先が衝撃によって弾ける。


 お互いの手の内はある程度分かっているので、その攻撃も分かってはいる。

 マー君が使っているのは魔力を弾丸として撃ち出す技術だ。広義では魔術の一種であり、本来は短くとも詠唱及び何らかの発動準備が必要な魔弾であるがマー君にそれは無い。何故なら、右手に刻んだ刺青タトゥーが補うからだ。

 右手の指先から肘まで刻んだ刺青タトゥーは魔術の発動を補助し、無詠唱に必要なイメージの過程すら飛ばして攻撃の意志を込めるだけで発動する。


「逃げてるだけか? さっさと来い、クソ邪神」


 マー君は人差し指を動かしながら高速で移動する俺を追う。

 指先は俺に追いついてはいるが、そこから出る魔弾は俺に届かない──なんてことは無い。


「ぐえっ」


 俺は直撃を食らって後ずさる。

 人差し指からご丁寧に弾で飛んでくると思いきや、それに隠れて指の向く先が敵を捉えた瞬間に打撃を与えるタイプの魔弾もあり、俺はそれを食らったというわけだ。

 人差し指を向けて放つマー君の魔弾は弾体射出式と座標指定式があるわけで、指先から弾として出る攻撃もあれば、指先を向けた瞬間に発動する魔術もあるわけで、俺はそれを食らってしまった。


 声を上げたが痛くはねぇ。避け切れずに当たって変な声を上げただけだ。

 だが、狙いを定めないために動いていた足が僅かに止まる。そして止まった瞬間を狙ってマー君は人差し指を俺に向けて固定、指先からとめどなく魔弾が放たれ俺に襲い掛かる。


「このまま弾幕で潰してやる」


 そりゃ無理だろ。聞こえてきた声に俺は頭の中で答える。

 それじゃ俺は殺せねぇよ。魔弾の威力じゃ俺に致命傷を与えることすら不可能だ。


 何か狙ってるんだろ?

 俺は放たれる大量の魔力の弾丸をその場に立ち止まって受け止め、躱すよりも、防御を固めて距離を詰めることを選ぶ。

 何か仕掛けてくるっていうなら、さぁ、やって見せろよ。

 俺が受けて立つ構えでいると、マー君はおもむろに左手の掌を俺に向けてくるる。

 そして次の瞬間、左の掌から放たれる強烈な閃光。光は空気を切り裂き、焼き払って俺へと一直線に向かう。


 これも魔弾だ。

 左腕は掌から肩を越えて心臓のある位置まで伸びる刺青タトゥー。それもまた、右腕と同じように魔術の発動を補助し、右腕から放つ魔弾と同種の魔術を発動させる。

 もっとも、その威力は全く違い、右腕が機関銃だとしたら、左腕は戦車砲くらいの差がある。

 そして俺はそんな戦車砲の直撃を受けてしまう。だが──


「だから、魔弾じゃ俺は殺せねぇっての」


 俺の立っていた周囲が破壊されるが俺は無傷で立つ。

 内力で体を強化してるんで、半端な攻撃は通らねぇって分かってんだろ、マー君?

 俺は驚いた様子も無く、再び右手の指を俺に向けるマー君に向かって、一気に距離を詰める。

 魔弾が連射され俺に当たるが──


「豆鉄砲で俺を止められると思ってんじゃねぇ!」


 当たると分かってりゃ耐えられるし、耐えられる以上、俺が足を止めることは無い。

 マー君は弾幕を気にも留めずに突っ込んでくる俺に向かって左の掌を向けてくる。流石にそれを食らったら、足は止まる。だけどな──


「もう、既に俺の間合いだぜ!」


 俺は左手からの魔弾が放たれるより先に全力で踏み込んで跳躍し、マー君に飛び掛かる。

 全力を込めた脚力での跳躍は弾丸の速度に達し、一瞬で相手に迫り、俺はその勢いのまま跳び蹴りをマー君に叩き込む。その最中、俺の視界の中のマー君はというと魔術での迎撃を諦め、素早く懐に手を入れる。

 だが、次の瞬間に俺の蹴りがマー君を捉える。


「接近戦を俺が出来ねぇと思うなよ」


 しかし、マー君は懐から取り出した武器で俺の蹴りを受け止めていた。

 取り出した武器は伸縮式の警棒。いわゆる特殊警棒という武器だ。それを懐から取り出したマー君は警棒で俺の攻撃を防御する。


「でも、苦手だろ?」


 警棒で足を受け止められた状態で俺はマー君と言葉を交わし、俺は足を戻して構えを取る。

 蹴りが防がれても間合いは既に一挙手一投足。さぁ、殴り合おうぜ!





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