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決闘前

 

「学院の決定に異論は無いだろう?」


 教頭はいやらしく笑いながら俺達に言う。

 どうやら、俺とマー君が退学を賭けて戦うのは決定事項のようだ。

 一度に二人も退学させるっていうのは、そんな学生の入学を認めた学院側の失態と取られる可能性もあるから一人だけを退学させる。そして、その一人を選ぶのも多少マシな方を選びたいってことで戦わせるんだろう。戦って買った優秀な方を学院に残すってな。

 普通の学生なら絶望的な状況なのかもしれないけれども、そこはまぁ俺とマー君なんでね──


「決闘の日時は貴様らに決めさせてやる。ただし、一週間以内に──」


「今日、るぜ」


 やるんなら早い方が良いってことで俺は提案する。

 俺らは戦うのが怖いわけではないんでね。何時だってれる心構えもしてるし、それなら早い方が面倒が無くて良いよな。というか、早くりたくて仕方ねぇくらいだ。


「俺も構わねぇ」


 煙草の吸殻を放り捨てながらマー君が言う。

 お互いさっさとりたくてたまらないってことさ。もっともマー君の方はさっさとケリをつけたいようだけどね。


「いや、待て、今日だと──」


 逆に困ってるのが教頭の方だ。

 何時でも良いって言ったのは俺達が決闘することに臆して必死に戦いの日時を引き延ばそうとする所なんかを笑いたいからってのもあるだろうけど、それ以前に色々と根回しが必要だからだろう。急に退学なんて出来るわけないしな。


「いつでも良いって言ったんだから、今日でも良いんだろ?」


 俺達がビビると思って高を括っていたんだろうけど、そいつは全く以て見当違いって奴だ。

 むしろ、すぐに戦われる方が困るんだろう? 俺は教頭の事が嫌いでもなんでもないけど、嫌がらせするつもりがあるなら逆襲くらいはする。そのために俺達は今日、戦るぜ。


「場所は何処でやればいいんだい?」


「学院内に戦闘用の魔術の練習場がある。そこなら結界も張ってあるから場所としては悪くないだろう」


 流石マー君、俺より長く学生やってるだけあるぜ。

 まぁ、それも今日までだけどな。俺は学生をやることに興味はねぇけど、マー君の悔しがる顔を見るためにマー君を倒すぜ。


「いいね、そこでやろう」

「面倒臭いが仕方ねぇ。ここに居座るためだ」


 俺とマー君は互いに戦闘の意志を確認し、戦いの舞台へ向かうために教頭に背を向ける。


「ま、待て──」


 俺達の背中に教頭の呼び止める声が聞こえるが俺達はそれを無視して部屋を出る。

 すぐに戦われたら困る? それなら尚更、今すぐらねぇとな。さぁ、喧嘩の時間だぜ。


 俺達は並んで歩き決闘の舞台に向かって校舎を歩く、そうして歩いているとチラチラと俺達を見る視線を感じ、俺達はその視線の主がいる方を振り向くと、そこにはジュリアン君がいた。


「あ、あの──」


 ジュリアン君は怯えた様子だった。

 それなのに会いに来たってのはどういうことだろうね。

 自分で言うのもなんだが俺達に関わったってロクなことはねぇんだから、自分から会いに来ることなんてねぇのにさ。


「なんだい?」


 俺はなるべく優しい口調で訊ねる。

 それでも今までの行動が原因なのか、俺から声をかけた瞬間ジュリアン君の体がビクッと震える。

 それを見て、マー君が俺の事を鼻で笑う。


「なんか言いたいことでもあるのかい?」


 そう訊ねる相手はジュリアン君ではなくマー君だ。

 怯えられる俺がそんなに面白いんですかねぇ。そう訊ねたつもりだったが、俺の質問に自分が聞かれたと勘違いしたジュリアン君が慌てて答える。


「あ、あの、謝ろうと思って……」


 ぼそぼそ声だが何とか聞き取れた。

 ハッキリ喋ってくんねぇかなって思うが、同時に喋るのが苦手な奴だっているんだから仕方ねぇとも思う。

 俺の見る限りではジュリアン君はこれまでに色々とあったみたいで気持ちが折れてしまっているようだし、コミュニケーションに苦手な部分が生じるのも仕方ないのかなって。


「何を?」


 別に謝るようなことをされた記憶がねぇんだけどな。


「さっきは自分だけ逃げてしまって……」


 あぁ、学食での一件で俺とマー君だけが犯人みたいに扱われたってことか。

 ジュリアン君的には自分も一緒にいたのに自分だけが難を逃れたってのが申し訳ないって感じなんだろう。


「別に良いって、むしろ逃げて貰ってよかったよ」


 俺達は別に平気だけど、ジュリアン君が俺達と同じような扱いを受けたら大変だったろうし、実際、巻き込まれただけなんだから、そもそも気にする必要も無いんだよね。


「俺達に巻き込まれたら面倒なことになってたからな。それに俺達もお前みたいなのがいると色々と手段を考えないといけなくなる」


 マー君がそういってジュリアン君に気にするなということを伝える。

 まぁ、実際ジュリアン君も同じように処分を受けた場合、どうやってジュリアン君を助けるかが問題になるしな。俺とマー君なら二人で決闘してどっちか一人が残るってことで済むだけの話だし、さほど困るようなことがあるわけでもねぇけど、そこにジュリアン君が加わると色々とどうするかって悩むことになるんだよな。俺達は辞めても何とでもなるけど、ジュリアン君はそうではないだろうし色々と配慮は必要だろ。


「でも……」

「俺らとしては、自分のやったことを悪いと思って謝りに来ただけで充分だよ」


 そもそもジュリアン君は悪くも何ともねぇしな。

 それなのに申し訳なく思って俺達に会いに来ただけで、もう充分すぎるくらいだぜ。

 俺達のそんな思いが通じたのかジュリアン君は困ったような顔をしつつ、謝罪の言葉を飲み込む。

 そして飲み込んだ言葉の代わりに出てきた言葉はというと──


「それで、二人の処分は──」


 心配してる感じで俺達に訊ねるジュリアン君。

 偉いねぇ、まだ話して数時間くらいしか経ってないし、迷惑しかかけてねぇってのに俺達の事を心配してくれてるよ。


「俺とこのクソで決闘して勝った方が学院に残ることになった」


 マー君が簡潔に答え、その答えを聞いた瞬間にジュリアン君の顔が青ざめる。


「まぁ、キミが気にすることじゃないぜ。俺はマー君とるのが楽しみだし、悪い展開じゃない」


「俺の方は最悪だがな。まぁ、この手でクソを始末すれば良いだけなんでやるべきことが分かりきっている以上、気が楽ではある。それにちょうどクソを片付けたいとも思っていたところでもあるんで、渡りに船と言ったところか」


 言ってくれるじゃないマー君。

 もしかして、俺に余裕で勝てるつもりかい?


「とまぁ、お互いにこんな感じなんでね。俺達が殺し合いになっても気にすることは無いぜ」


 別に戦うことが嫌じゃないし、退学になってもそこまで困ることは無いってこと。


「いや、でも……」


「もう充分だ」


 何か言いたいことがあるんだろうけど、もう良いってこと。

 俺達はこれから殺し合うからさ。何を言っても無駄なんだから、せめて楽しく見物でもしててくれ。


「またな」


 学院に残るのは俺だから「またね」でも良い。

 俺はそう言ってジュリアン君と別れて決闘の部隊に赴く。


 ほどなくして辿り着いた魔術練習場。

 真ん中にある石畳の舞台とその周囲の観客席。

 俺達が辿り着いた練習場は円形の闘技場のようだった。


「そんじゃ、るか」

「あぁ、やるぞ」


 俺は体を軽くほぐし、マー君は新しい煙草を口に咥えて火を点ける。

 そうして、練習場もとい闘技場の中央に二人で立つと、やがてどこから噂を聞きつけたのか観客が集まってくる。

問題児と劣等生の退学を賭けた戦いを見に来るとか、まったく物好きが多いぜ。

まぁ、自分に関係ない誰かの人生が転落してく様を見るのは、それなりに楽しい見世物ではあるし、それが調子に乗ってる転入生(俺)ともなれば尚更か。


「ま、悪い状況じゃねぇ」


 観客ギャラリーに見られてるってのも俺は嫌いじゃないんでね。それに俺とマー君のどっちが勝ったかの証人になる奴らがいるのも悪くはない。立ち会い人を用意していない以上、見届け人は必要だからな。


 場も出来上がり、人も集まり、絶好のシチュエーションだ。

 さぁ、喧嘩をしようぜ、マーク・ヴェイン。



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