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王女のお誘い

 

 サイスにクビを言い渡されてから数日が経った。

 特にすることも無くダラダラとキャンプで管を巻いていた、ある日ラスティーナが俺を訪ねてきた。


「暇か?」


 見ての通りだよ。


「暇そうだな」

「さぁ、どうだろうね」


 俺は宇宙の真理について考えているんだ。

 俗世のことには関わりたくない気分だね。


「仕事だ」


 はいはい、わかりましたよ。


「私の手伝いをするという約束を覚えているな?」


「わかってますって、王女様」


 ラスティーナの背後には侍女メイドが付き従っているが、その侍女メイドがラスティーナへ軽口を叩く俺へと怒りを向けてくる。


「文句があるならかかって来いよ。大切なご主人様が舐められているんだぜ?」


 挑発すると侍女が足を一歩前に出す。だが──


「やめろ」


 ラスティーナに言われて侍女は足を戻し、澄ました顔を作る。


「情けねぇなぁ、本当にご主人様に忠誠を誓ってるなら、ご主人様の言うことを無視してでも俺に襲い掛かるべきだと思うけどなぁ。命令を聞くだけなら犬でもできるぜ? 人間なんだからさぁ、命令を聞くだけじゃなく、一歩進んだ忠誠の示し方をするべきだと俺は思うんだよね」


 わざとらしくニヤニヤ笑いを侍女に向けると、目が吊り上がり殺気を俺に向けてくる。だが、挑発に乗る様子はない。


「煽るのはやめろ」

「そいつは失礼」


 侍女ちゃんにも悪いことをしたので謝っておこう。


「ごめんね。真面目そうな子を見るとからかいたくなっちまうんで、ちょっと悪ふざけが過ぎたね」


 本心から謝っていないということは無事に伝わっているようで、侍女ちゃんは険しい表情を浮かべている。

 いいね、どんどん敵が増えてきやがるぜ。


「もういいだろう、仕事の話をしよう」


 ラスティーナがウンザリしたように頭を振っている。

 あぁ、そうだね。仕事の話をしようか。


「俺に何をして欲しいんだい?」


「たいした仕事ではない。私と一緒にとある男と会って欲しいだけだ」


「とある男ってのは?」


「この地を治める貴族カリュプス候だ」


 こうして俺はカリュプス領の領主であるカリュプス侯に会うことになった。

 ラスティーナに言われるがまま馬車に乗って数日の旅。

 そして辿り着いたのはカリュプス侯爵領の領都。

 旅路については特に言うこともないし、領都に関しても特に言うことは無い。無理にコメントするにしてもフェルムより大きくて栄えているってことくらいしか言うことが無い。

 もう少しちゃんと見れば何か思うこともあるんだろうが、どういうわけかそこまで興味が無い。なんつーか、興味を持って街並みを眺める必要が無いような気がするんだよね。


「こういう気分になる時って、大抵その町には長居できないんだよな」


 人間だった時からそうだったからな、もう勘で分かる。

 まぁ、どういう理由で長居できなくなるかまでは分からねぇけどさ。


「どうした?」

「どうもいたしません、王女殿下」


 ラスティーナが俺の様子を訝しんで話しかけてくるが、それを軽く流し、そうしている内に俺達が乗る馬車は都市の中央にある大きな屋敷に到着する。


「ここがカリュプス候の屋敷だ」


 そういって一人でさっさと馬車から降りるラスティーナ。

 こういう時は男が手を貸して降ろしてやるべきだと思うんだけどね、お手を拝借って奴? いや、それはちょっと違うか。


「……くれぐれも騒ぎを起こさないように」


 ラスティーナの後ろについている侍女が馬車から降りる間際に俺の方を睨みながら、そう言った。

 騒ぎを起こすなってのもおかしな話だぜ。本当に騒ぎを起こしたくないなら、そもそも俺を連れてこねぇだろうに。


「俺を信用しろよ。ここしばらくは大人しくしてただろ?」


 馬車の旅の最中も揉め事の一つも起こさず行儀良くしてたんだ。少しは信用してもらいたいもんだぜ。


「何をしているんだ?」


 先を歩くラスティーナが俺達に声をかける。

 侍女は慌ててラスティーナの後を追い、俺はその後ろをタラタラと歩いてついていく。

 話は当然だがついており、アポを取っているので、ラスティーナもその付き人である俺も問題なく侯爵の屋敷に通される。


「なかなか羽振りが良いんだね」


 屋敷の中は質のいい調度品でコーディネートされており侯爵の財力が見ただけで理解できた。

 俺の言葉に、ここまで俺達を案内してくれていた屋敷の執事が反応する。


「現在、カリュプス領は鉄鉱石の採掘と製鉄によって利益を得ております」


 どっかで聞いた話だね。どこで聞いたっけ?

 俺がもう少し詳しく話を聞こうと思って執事さんに話しかけようとする、侍女ちゃんが俺の脇腹を突っついてきた。


「おいおい、やめてくれよ。まだ日が高いんだぜ? 俺とイチャイチャしたいのかもしれないけど、時と場所を弁えようぜ?」


「……何を言っている」


 侍女ちゃんは声を荒げるでもなく、静かに俺に対して軽蔑するような視線を向けている。

 はいはい分かってますよ。冗談が通じねぇなぁ。

 余計な口はきくなってことだろ? そんくらい分かってますって。馬鹿じゃねぇんだからさ。

 俺は全部わかっててふざけてんだぜ? おっと、そっちの方が性質たちが悪いか。


「……王女殿下のお付きの方ともなると、中々に個性的な方々でなければ務まらないようですな」


「……まぁ、そうだな」


 おいおい、聞いたかい侍女ちゃん。

 執事さんも王女様も褒めてくれてるぜ? 良かったね、個性的だってよ?

 だけど、侍女ちゃんは執事さんと王女様の評価を聞いて黙ってしまう。


「すまないが少し静かにしていてくれるか?」


 王女様からそう言われたので俺も黙ってるしかない。

 そうして、静かになった俺達は執事さんに案内されて屋敷に奥へと進む。

 ほどなくして、執事さんは扉の前に立ち止まる。


「旦那様はこちらでお待ちです」


 そう言って執事さんは扉を開けて、俺達に入室を促す。

 さて、それじゃあ侯爵様のお顔でも拝ませてもらいましょうかね。



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