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手のひらに太陽を

 

 俺は口の中に溢れる自分の血の味をゆっくりと味わいながら唾液と混ぜて飲み込む。

 脳の奥にビリビリと痺れるような甘美な疼きが生じる。


「好きになったぜ」


 俺は、俺より高い位置で宙に浮く黄神を見つめながら呟く。

 キミの全部が知りたいね。そういう気分だ。

 全てを俺にぶつけてくれ。全力を出してくれないと分からないこともあるし、キミの全てを味わえないだろ?


「痛くしても良いかい?」


 俺は空中に作った足場を踏んで、黄神に向かって距離を詰める。

 テンションの上がり具合に合わせて増えた内力が俺の身体能力を強化している。

 既に強化具合は少し体を動かしただけで、簡単に音の壁を突破する。

 そして、音の壁を突破した速度で動いた俺は一瞬で黄神の懐に飛び込み、20mを越える巨体の胸に向けて拳を叩き込んだ。

 手応えは無い。手応えを感じる前に黄神の上半身が融解し、俺の拳を受けたことによって溶けた上半身が飛び散ったからだ。


「痛みを感じる暇もないかい?」


 そんなわけはねぇだろ?

 残っていた下半身から新しい上半身が生えて、新品の手で黄神は俺を殴りつけてくる。

 痛みを感じる暇はなくても、反撃する余裕はあるようで何よりだぜ。

 俺は迫ってきた巨大な手を蹴り飛ばして弾き飛ばす。だが、その瞬間、至近距離で黄神が口からビームを放つ。

 それの直撃を食らって、俺は吹っ飛んだ。


「Aaaaaaaaa!」


 上等だぜ。

 攻撃を食らった勢いで地面まで叩きつけられた俺の上半身は焼け爛れていたが、即座に傷は癒えて元通り。

 俺は立ちあがり、反撃に移ろうとするが、上空から全速力で俺に向かって突撃し、その巨体で俺を踏み潰そうとする。


「プロミネンス・ペネトレイトォ!」


 俺は、俺に向かって落下してくる黄神に向けて紅の内力を纏わせた拳を突き上げ、拳から放った真紅のエネルギーで黄神の全身を蒸発させて消し飛ばす。だが──


「Aaaaaaaaa!」


 消し飛ばした次の瞬間には黄神の体は復活し、黄神は突撃の勢いのまま、俺の体を踏み潰す。

 潰された俺の体はぺしゃんこになり、原形を留めないが、黄神と同じように次の瞬間には元通りになり、俺は俺の上に乗った黄神の体を蹴り飛ばしてどかす。


「ドンドン楽しくなってくるぜ!」


 俺の上から吹っ飛んだ黄神はそのまま地面に激突するが、蛇の下半身が衝撃を殺してすぐさま体勢を整える。

 俺は疲れていないが、向こうも疲れていないようだ。


「元々の力じゃねぇな。人間の負の感情を吸って力を高めてやがるな」


 そうじゃなきゃ、ここまで強くはねぇだろ。

 神ってのは自分の支配下にある人間の想いを力に変えるんで、現状フェルムを支配下において好き放題やってる黄神の力が強いのも当然だ。


「まぁ、こっちも人間から力を貰ってるんだけどな」


 俺が自分に課している手加減の呪いルールの条件を多少緩める程度のことしかできない力だし、俺は俺の信徒からしか力を貰わねぇけどな。

 ただ、俺の方は悪徳商法も真っ青のクソ契約。少しでも俺の事を想えば、本人の意志とか関係なく俺の信徒ってことで契約が結ばれる。どんな想いでも構わなくて、俺の事を好きでも嫌いでもどっちでも構わねぇ。俺は俺のことを嫌いな奴でも好きだからね。俺の信徒が俺の事を崇拝してなくても構わないのさ。


「そっちが負の感情を喰うのなら、俺が喰うのは正の感情だ」


 正確には進もうとする意志だ。このままでは終われない、生きてもっと先へ。

 俺はそんな人間の想いを喰って自分の力に変えるのさ。

 前向きな人間は最高だよね。前向きに走りすぎて止まれず壁に激突して死ぬ、崖に飛び込んで死ぬ。俺もそういう人間だったから、そういう奴らが大好きだし、この世の人間がみんなそんな風になれば良いと思っている。みんな、自分がぶっ壊れることも構わず己の想いを貫き、自分の道を駆け抜け、全てを燃やし尽くして生きて、最後は何も残らず灰になって死んで欲しい。

 黄神キミはそんな想いがあるかい? 世界とそこに暮らす人に対して理想とするビジョンを持ってるかい? それを実現するかどうか別としてさ。


「Aaaaaaa!」


 無いんだろうな。まぁ仕方ねぇ。

 所詮はこの世界をつつがなく運営するために作られたであろうトラブル処理のための運営神格オペレータだ。

 世界を自由に創る能力を持っている俺のような源神オリジンとは違うし、正気も失ってるみたいだしな。そもそもマトモな自我を与えられているのかどうかも分からねぇからな。


「まぁ、自我を持っていようとそうでなかろうと、この一瞬の殺意だけは本物だろう。なら、それを大事にするべきだ」


 御託を並べすぎ?仕方ねぇだろ? 

 偉そうに説教しながら、相手をぶん殴るのは楽しいもんでね。


「Aaaaaaaaa!」


 俺が偉そうなのが気に入らないのか、分かったような台詞を吐いたことが気に入らないのか、黄神が怒りを露にしながら叫ぶ。


「来るかい? 俺は行くぜ」


 俺は踏み出そうとするが、その瞬間、俺の足元が急に傾き出す。


「あ?」


 急に傾いた足元に合わせて俺の体も後ろに傾く。

 俺の視界に空が映る。それはつまり真上を向いているというわけで何故、そんなことになっているかといえば──


「Aaaaaaa!」


 黄神が地面をちゃぶ台をひっくり返すように、地盤ごとひっくり返したからだった。

 俺は危険を察して、その場から移動しようと動き出すが、そうして動き出した5秒後に俺はひっくり返った地盤に押しつぶされ、地中に埋まった。

 今の状態の俺は最低でも音速で動ける。音速はだいたい秒速340m、5秒移動したらだいたい1700mは進めるはずだが、それだけ移動した俺を飲み込むくらいの広さの地盤を黄神はひっくり返したってことだろう。


「だけど、こんなもんじゃ俺はれねぇぜ!」


 俺は内力の熱で周囲の土を溶かして地中から脱出する。

 そうして脱出した俺が見たのは周囲数十kmに渡って地面をひっくり返された荒野だった。


「まぁ、人間の世界にいたらシャレにならないけどな」


 数十kmに渡って地盤ごとちゃぶ台返しされたら、どんな都市だって滅びるよな。

 東京23区だって一瞬で更地だ。

 まぁ、俺をぶっ殺すには威力不足だけどな。


「これだけじゃねぇだろ?」


 黄神はいつの間にか姿を消している。俺が地面に埋まった隙に身を確信たんだろう。

 俺は浮遊して辺りを見回しながら、姿の見えない黄神に疑問を投げかける。

 すると、その疑問に答えるかのように地面が揺れ動き、直後に無数の石柱が地面から隆起する。


 その大きさは高層ビル程の大きさで、それが矢のような速さで地面から天を目指して伸びる。

 俺を正確に狙ったものではないが、数と速さと質量が厄介だった。俺は無数に生えてくる石柱の隙間を縫って飛翔するが、それでも躱しきれずに石柱の直撃を受けてね飛ばされる。


 だが、その程度じゃ今の俺にはダメージにならない。

 俺は体勢を立て直そうと空中で体を捻ろうとするが、その瞬間、俺の体が何かに包まれた。

 何かなんて考えるまでも無く黄神の手だ。いつの間にか、どこからか姿を現した黄神がその巨大な手の中に俺を捕まえていた。


「考えが甘い」


 サイズ差は人間と虫だが、虫の側である俺の方がパワーがある。

 俺は力任せに黄神の手を開かせ、拘束を解くと、そのまま飛翔して黄神の顔面を蹴り飛ばす。

 そこでようやく俺は気づく。黄神の体が、先ほど地面から隆起した石柱の側面から生えていることを。

 俺の蹴りを食らった黄神は即座に石柱の中に潜り込む。


「プロミネンス・ペネトレイト!」


 俺はすぐさま拳から内力を放出し、石柱を蒸発させるが手応えは無い。

 石柱に潜り込んで逃げたならと辺りを見回すと、気づけば周りは石柱だらけで、高層ビル街のような有様だった。

 石柱の高さは100mを優に超え、それが数十kmの範囲内に隙間なくそびえ立っている。


「かくれんぼかい? 幼稚な遊びは遠慮してぇんだがな」


 俺は気配を感じて後ろを振り向くと、石柱から上半身を生やした黄神が俺に向かって手を振り下ろそうとしていた。

 俺はすぐさま防御の体勢を取るが、その瞬間、別方向の石柱から生えてきた鋭い杭に背中を突き刺される。背骨をぶった切られたのか、下半身の感覚がなくなり、俺の集中力が僅かに落ちる。

 そのタイミングに合わせて黄神は石柱の中に潜り込むと、一瞬で別の石柱から姿を現して、俺が無防備の方向から巨大な手を俺に向けて叩きつける。


 ガードができなかった俺はマトモに食らって吹っ飛び、地面に叩きつけられる。

 ダメージはあるが、まだまだ余裕だ。下半身の感覚も戻った。

 俺はすぐさま立ち上がり、右手に内力を集め、視界一面に広がる石柱を薙ぎ払うように腕を振るう。


「プロミネンス・ランページ!」


 引き裂くような手の形で振るった腕の軌道に合わせて紅の内力が放出される。

 爪の数に合わせた五本の真紅の奔流が、俺の視界を埋め尽くしていた石柱を消し飛ばすが、それでもそこに潜んでいるはずの黄神を消し飛ばした感じは無い。


「だよな」


 反撃を食らう気配があれば、そこから逃げるのは当然だ。

 俺が石柱より上を見上げると、そこには黄神が骨の翼を羽ばたかせて浮かんでいた。

 そのそばに音叉のように先端が二股に分かれた石柱が浮かんでおり、それを見て俺は即座に自分の危機を察する。


「Aaaaaaaaa!」


 次の瞬間、先端が二股に分かれた石柱に光が走る。

 何をしたのかはすぐに分かった。二股ってのは二本の棒があるってことで、それはレールに見立てられる。

 黄神が何をしたのか結論だけ言えば、それはレールガンだ。

 地の属性によって生み出した磁石を使った電磁誘導による電力確保。それと弾体加速に適した金属を生み出してのレールの形成と、そういった手順を経てのレールガンの形成。

 SF的な武装を魔術的な手順で使用している。レールガンと言えば、実体弾系の武器の到達点に近い。それを黄神は平然と放つ。


「上等!」


 音速の数十倍の速度で放たれた物体が俺のすぐそばに着弾し、俺はその衝撃で吹っ飛ばされる。

 磁石になる素材も、レールの素材も、弾も、全て黄神が持つ地の属性で生み出した特製の物だろう。そうでなければ、弾速も威力も、そもそもレールガンとして発射も出来ない。


「Aaaaaaaaa!」


 直撃を受けなかったので俺は問題なく立てる。

 俺の周囲は地面が解けてるし、抉れてるがそれはまぁ俺もやるから別に大した問題じゃない。狙いが外れたことで、黄神は更なる攻勢に打って出る。


 音叉のような形をした二股に分かれた石柱が大量に空中に浮かぶ。

 レールガンの一斉射撃をするつもりだろう。現状で出せる戦闘能力だと直撃を食らえば、一回は死ぬ。

 一回くらい死んでも困らねぇ。あと何回は死ねる。だけど、だからって向こうの必殺を何もせずに受けるってのもつまらねぇだろ。


 空中に無数に浮かぶ石柱に雷が奔るのが見える。

 照準は全てこちら──地上に向けられている。発射されたが最後、地上にある物は全て跡形も無くなるだろう。まぁ、この空間には最初から何もないけどな。


「オーケー、来いよ、受けてやる!」


「Aaaaaaaaa!」


 黄神の叫びと共に二股の分かれた石柱からレールガンが放たれる。

 放たれる音は無く、聞こえてきたのは弾が音速の壁を超える瞬間の音だけ。

 視認は不可能。じゃあ、どうやって受ける?

 そんなの決まってる。こっちも切り札を切るだけだ。


星よ耀けスターレイジ願いよ届けウィッシュスター!」


 俺の業術の奥の手だ。膨大な内力を使って、この世の法則を捻じ曲げ、全てを俺の思い通りにする。

 右手の甲に浮かんでいたⅢの数字がⅡに減り、そして、その瞬間──レールガンの弾が一瞬だけ止まる。


「視えたぜ」


 次の瞬間、再びレールガンの弾は動き出し、見えない速度で迫るが、止まった一瞬で俺に当たる軌道の弾は視えた。今の俺にとってはそれだけで十分だぜ。


 弾の大きさは直径1mから2mの球形。

 俺は俺に直撃する軌道の弾を、弾を見るのではなく、弾の軌道を読んで直撃する物だけを叩き落とす。

 直撃を防いでも、俺の周辺に着弾した衝撃で俺の体は吹っ飛ぶ。そして、吹っ飛んでいる最中でも、レールガンの弾は降り注ぐのは止まらない。だが、何処に弾が飛んでくるか俺は分かっている。

 俺は空中で体勢を変え、向かってくる弾を拳で弾き飛ばして、直撃を避ける。


 全てを思い通りにするなら、攻撃を最初から無効にすれば良いって?

 実はそれは無理。俺の性格的な問題でね、ダメージを与えるタイプの攻撃は攻撃させないと駄目なんだよ。

 だって、何もさせずに勝ったらズルいじゃん。公平フェアろうぜ、公平フェアに。

 ダメージを与えないタイプの技だったら発動を止めるってことも出来るんだけどね。それもまぁ、相手に極端に大きな隙が出来ない時に限るんだ。相手の技を無効化して出来た隙にぶん殴るって、ちょっと好きじゃないんでね。

 まぁ、そんな感じだから何でも思い通りにするって言っても、戦闘とかで相手を一方的に倒すとかはできない。俺の性格とかが原因でね。だから、弾を一瞬止めて、止まった弾の位置から軌道を予測するくらいの事しかできなかったわけ。

 まぁ、戦闘以外だったら何でも出来るんだけどね。人間を生き返らせたりとかさ。


「そんな程度の能力でも何とかなるのは俺のスペックが最高だからだと思わねぇか?」


 一斉射撃が止まる。

 俺は無傷──とはいかねぇな。腕がズタズタだぜ。でも、すぐに治る。

 辺りを見回せば、クレーターだったり地面が融解している。


「今度はこっちの番だぜ」


「Aaaaaaaaa!」


 黄神が再びレールガンの発射準備を始める。

 良いね。全くビビらねぇ奴は最高だ。ご褒美をあげたくなるじゃねぇか。


「見せてやるぜ、俺のちょっと本気マジな所を──0.2秒だけな」


 手の甲の数字がⅡから0になる。

 俺のテンションを数値化した場合ある一定のラインを越えると数字が貯まり、それが俺の『願いよ届けウィッシュスター』の能力発動の回数になる。

 攻撃に使おうにも、能力だけで楽に相手を倒すってことが制限されているせいで直接攻撃には使えないが、それでもやりようはある。


「オーバードライブ、カウント2──」


 その言葉を呟いた瞬間、俺の視界に映る全ての動きがスローモーションになる。

 単純に俺の知覚が本来のスペックに近づいただけだ。

 俺はスローモーションの世界で自分だけ先程変わらない動きで地面を踏みしめ、そして黄神に向かって跳躍する。

 黄神は宙に浮いたまま、他の全てと同じようにスローモーションだ。俺はそんな黄神に向かって跳躍の勢いそのままに突っ込んで顔面を殴りつける。──これで0.2だ。


「──カウントオーバー」


 俺の知覚が戻った瞬間、俺が踏みしめ跳躍した地面が衝撃によって爆発を起こし、跳躍して過ぎて行った空間が熱で燃え上がる。そして、俺の拳を食らった黄神の体は衝撃で粉々に砕け散る。

 全てを思い通りにするってことで、俺が自分に課している呪いルールを歪めて、多少だが黄神相手に出せる戦闘能力の限界を超えた戦闘能力を出してみた。まぁ、すぐに復活するんで、たいした効果はねぇけどな。


「Aaaaaaaaa!」


 黄神の体が瞬時に再生し無傷の姿が現れる。

 俺は復活し、叫び声をあげる黄神に追撃をかける。

 プロミネンス・ペネトレイト──右ストレートに乗せて放たれた真紅の奔流が黄神の頭を消し飛ばすが、瞬時に再生を果たす。

 プロミネンス・ランページ──再生した直後の隙に俺は更に追撃を仕掛ける。引き裂くように振るった腕から真紅の奔流が黄神の体を縦に切り裂く。


「Aaaaaaaaa!」


 一瞬で三回殺された黄神が怒りの叫びをあげながら即座に再生し、蛇の尾を叩きつけて俺を吹っ飛ばす。だが、気合いが入ってない攻撃だ。最初から、それで仕留められると思ってない攻撃じゃ俺は殺せねぇ。

 俺は空中に足場を作って受け身を取り、すぐに体勢を立て直す。


「AAAAAaaァaaaaaaァ──ッ!」


 黄神がこれまで以上の怒りを込めた叫びをあげる。

 骸骨の頭部、その眼窩に俺への憎しみの炎が灯っているようだった。


「そんなに怒んなよ。楽しくろうって言ったじゃねぇか」


 まぁ、聞く耳持たずだろうし、最初から無理だと分かってたけどさ。

 黄神は溢れる怒りをそのまま攻撃として俺にぶつけ、数百を超える石柱を俺に向かって発射する。

 数が多すぎて、俺の視界が石柱で埋まり、巨大な黄神の姿も捉えられなくなる。


「でも今更この程度じゃあなぁ」


 工夫がねぇよ、工夫が。盛り下がるだろ、勘弁してくれ。

 俺は飛んでくる石柱を拳や足で弾き飛ばしながら黄神の姿を探す。しかし、全ての石柱を防ぎ切っても黄神の姿は見えない。


「逃げるなんてことはしねぇだろ?」


 そもそも出来ねぇしな。となれば、力を蓄えて打って出るつもりだろう。

 俺の方の残りの力は内緒だが、向こうの力はガス欠が近いはずだ。節約とか考えずバカスカ大技を使ってる上に、何回も復活してるんだ。そろそろ力が尽きてもおかしくない。

 そこまで考えられる頭があるかは分からないが、本能的に限界が近いのは分かってるだろう。このまま続ければジリ貧になって負けるんだから、勝負に出る他ない。


 そう思ってどこから仕掛けてくるのかと俺は黄神の姿を探すが、何処にも見当たらない。

 ここは地平線の彼方まで続く何もない荒野なんだから隠れる場所も無いはずだと考えていると不意に日が陰る。

 多少は雲もあるが、常に晴れと言うのがこの空間の筈なので、日が陰るはずはないと俺は真上を見るとそこにあったのは──


「良いね」


 桁外れの大きさの岩塊が俺の遥か上空に浮かんでいた。

 桁外れといったが、それは誇張でもなんでもなく桁外れ。なにせ、岩塊と言っても、その大きさは目算で直径数千km。岩というよりは山であり、下から見る限りでは星がそのまま落ちてくるようだった。


「それが最後の切り札かい?」


 シンプルだが良いね。質量こそが正義って感じるぜ。

 まぁ、実際そうだけどな。デカくて重くて硬い物をぶつければ大抵のことは何とかなる。

 俺もそういうのは好きだぜ。力業ってのも工夫の一つだ。でもまぁ、それも最後まで上手くいけばの話だけどな。


「プロミネンス・ペネトレイトォ!」


 俺は落ちてくる星に向けて、拳を突き上げ真紅の奔流を叩きつける。

 真紅に染まった超高熱の内力は星の表面を蒸発させるが、貫通には至らず表面を削るだけだった。


「Aaaaaaa!」


 聞こえてくる黄神の声は、俺に向かって落ちてくる星から。

 なるほど、そこに逃げ込んだか。まぁ、そこが一番安全だろうし、これだけ巨大な物を作るんだったら自分が核になった方が安定して作り上げられるっていう判断によるものだろう。


「|良いね、凄く良い」


 最後の最後って感じがして凄く良い。

 俺が見上げた星の中心に黄神がいるんなら、これをぶっ壊して防げばそれで終わりだろ?

 手間が省けて良いような。名残惜しいような。なんにしたって、最後に変わりはねぇ。


「それを防げば俺の勝ちで良いよな」


 防げなかったら俺の負け──って訳じゃねぇのが可哀想だがね。

 俺は落ちてくる星の中心にいるであろう黄神を見据える。


「プロミネンスではそこまで貫けねぇ。となれば──」


 現状で撃てる俺の最強の必殺を食らわせてやるしかねぇよな。

 俺は軽く息を吐き、内力を整える。無軌道に拡散されていた熱が穏やかに収束していく。

 同じ十個。複数の輪が核を中心に様々な角度で配置されたことで、その見た目は球形に見えるようになる。

 本来はもっと完成度を上げるが、今の状態の俺だとこれが限界。


「これが俺の必殺だ」


 俺は作り上げた球を落ちてくる星に向かって放つ。

 俺が持つ膨大な内力を込めた核に、それを取り囲み球を形成する十個のエネルギー球。

 その集合体を俺は放つ。


「フォトスフィア。アクセラレート」


 膨大な力を内封した光球が黄神が生み出し地へと墜ちる星に向かい天へと昇る。

 そして、俺の放った光球は星へと触れると、その表面を蒸発させながら落花する星の中心へと突き進み──


「──バースト!」


 俺は俺の手から離れた光球を俺の意志で炸裂させる。

 そして次の瞬間に起こるのは強烈な光の奔流。それが墜ちる星を呑み込み空に太陽を作り出す。

 膨大な量の内力そして臨界へと達するまでに加速を続けていた十個の内力、それらが炸裂と共に解き放たれ、その威力が太陽を生み出す。俺の技「フォトスフィア・アクセラレート」は簡単に言えば太陽を投げつける技だ。


 内力の奔流によって生み出された太陽は一瞬で星を呑み込み、その中にいたであろう黄神も焼き尽くす。

 光球はその熱と力で星を消滅させ空に輝くと自らも燃え尽き、その姿を消す。

 後に残ったのは青い空だけ。


「俺の勝ちだ」


 俺以外の誰もいなくなった荒野で、俺は断末魔の言葉も無く消滅した黄神に宣言する。

 俺の勝ちで、お前の負け。


 それが決着、この戦いの結末だ。

 勝敗がついたことで闘獄陣が崩れていく。決闘場である以上、戦いが終わればこの場に長居する理由もない。辺りの景色が揺らぎ、輪郭が朧気になり、やがて消えていき、そして俺の立つ場所はフェルムに戻る。


 気付けば俺は廃墟のど真ん中。周囲を見渡せばフェルムであることは分かる。

 そしてフェルムに戻ってきた俺を待っていたのは──


「なるほど、こういうこともあるか」


 黒焦げになりながら地面を這う下半身が蛇の女だった。





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