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積み重なるタスク

 

 ドレガンの依頼を受諾して、代官の執務室を出ると、ギースレインが俺を待っていた。

 何の用かは聞くまでもないよなぁ。代官とギースレインは味方同士ではないようだし、俺から代官の動向を知ろうとでも思って接触してきたんだろう。


「どのようなお話をされたのですか?」


 にこやかに俺に話しかけてくるけど、それで敵意を隠しているつもりなら甘いなぁ。

 俺からドレガンの思惑を聞きだそうとしてるから、友好的な態度で接してるつもりなんだろうけど、下心は丸見えだし、俺のような何処の馬の骨ともしれないゴロツキにへりくだった態度を取らなきゃいけないことへの不満が隠しきれていない。


「別にたいした話じゃないぜ」


 そう言って、俺はドレガンの依頼を秘密にする——


「ドレガンは行方不明の伯爵の長男を探して欲しいって俺に依頼しただけだ」


 —―わけないじゃん。俺を都合よく使おうっていう心意気は好きだけど、だからってドレガンの事を想って奴のために配慮をしようと思えるほど好きではないんで、俺は秘密なんか暴露しますよ。


「やはりか……」


 何か考え込むギースレインを放っておいて俺は屋敷を出るために歩き出す。

 ギースレインは俺に何か用があるのか、俺についてくるようだった。


「そのような情報を教えてくれるとは、貴方は我々の側につくということでよろしいのですか?」


 それならばドレガンに対するスパイにでもなれって頼むんだろ?

 ドレガンの依頼をこなす振りをしながら、ドレガンのやっていることをギースレインに伝えろってそんな話を俺にするんだろうけど、俺は興味が無いなぁ。


「いいや、とりあえず俺はドレガンの側に付こうかなって思ってるよ」


 俺の答えに対してギースレインは困惑を露わにする。


「では何故、奴の不利になるような情報を?」


「そんなの決まってるだろ? 何にも知らなきゃ、お前らの側が圧倒的に不利だからだよ」


 なおも困惑の表情のギースレインに対し、俺は丁寧に説明してやることにした。


「俺はお前の側にもドレガンの側にも、どっちに対しても思い入れなんか無いからな。どっちが勝とうがどうでも良いんだわ。俺にとっては人探しは余興だし、余興であるなら楽しみたいだろ?」


 俺が何を言いたいのか少しずつ理解できてきたようで、ギースレインの表情が変わっていく。にこやかだったのが段々と無表情な冷酷さを感じさせる物へと。


「お前が所属するシウス派ってのと俺との勝負だ。どっちが先に伯爵の長男を見つけるかっていう勝負。ドレガンの思惑なんか知ったことじゃねぇ。せっかくの余興なんだから。条件はある程度は揃えなきゃなぁ。だから教えてやったんだぜ。ドレガンが伯爵の子供を探しているってな」


「……なるほどな。狂人の類だったか」


 そういうこと、そういうこと。

 だからまぁ、ギース君も頑張って探してちょうだい。

 どっちが先に伯爵の子供を見つけ出すかの勝負だ。俺は一人、そっちは派閥の全員を使って探せば良い。それくらいのハンデがなきゃ楽しくねぇぜ。

 楽勝の勝負も嫌いじゃねぇが、どうせやるなら俺はキツイ方が好きだね。だから、そっちの方が有利で良い。


「まぁいい、今はドレガンの思惑が知れただけで充分だ」


 ギースレインは俺に背を向けて、その場を立ち去ろうとするが、それはマズいんじゃないのと思って俺はその背中に声をかける。


「おいおい、今の内に俺を始末しなくて良いのか? もう人探しの勝負は始まってるんだぜ? 俺を殺して邪魔する奴を排除した方が賢明だと思うけどなぁ」


「貴様如きの相手など別の機会で事足りる。それにドレガンの思惑を知った以上、貴様に関わっている暇などない」


 俺のことを取るに足らない存在だと思っている?

 それよりもさっさと味方に報告して、伯爵の行方不明の子供の捜索に動いたほうが良いとか思ってたりする?

 それか謀反の証拠ってことでドレガンを罷免しようとか考えてんのかね。でも、それでドレガンの罷免は無理だぜ。だって謀反の証拠が何処の馬の骨ともしれないゴロツキの証言だけだもの、それを証拠にしたところで誰も納得してくれないと思うから、ドレガンの罷免は無理だね。


「後悔すると思うけど?」


 俺が忠告したのギースレインは無視して、その場を立ち去っていった。

 まぁ、俺も忠告していられるほど余裕があるわけでもないんだけどな。やることはいっぱいあるし、ちょっと忙しくなりそうだ。



 代官の屋敷からラザロスの町の外にある俺の野営地に戻ると、そこにはギドとクロエちゃんが待っていた。

 そういえば、ギドにクロエちゃんを連れてくるように頼んだんだった。すっかり忘れてたぜ。


「おせぇよ」

「遅い」


 少年少女に怒られちまったぜ。こいつは申し訳ないね。


「悪い悪い、ちょっと代官の屋敷に行っていてね」


 俺の報告に二人が目を丸くする。

 俺が代官の所に呼ばれるとか全く想像もしてなかったんだろうね。

 この二人からすれば、俺は邪神を名乗る頭のおかしく腕っぷしが強い奴だから、そういう権力者とは縁が無いとか思っていたんだろう。


「何の用だったんだ?」

「なんか悪いことした?」


 クロエちゃんの認識は何なんだろうね。

 俺が悪いことする奴に見える? そりゃあ、人間だった頃は指名手配もされてたけど、今は品行方正な一般字ですよ。


「ちょっと頼まれごとがあったんだよ」


 俺の返答に二人は「ふーん」といった態度でとりあえずの納得を見せる。

 代官からの依頼ってところにキナ臭いものを感じたのか、深入りを避けたんだろうね。そこら辺は賢明だと思うよ。


「まぁ、せっかく来たんだから手合わせでもするか」


 それが望みだったろってギドを見るけど、ギドはバツが悪そうに頭を掻いていた。


「そのことなんだけど、ちょっと用事が入っちまってさ」

「冒険者への依頼でちょっと出かけないと行けなくなったの」


 へぇ、大変だね。じゃあ、俺の所には挨拶に来ただけ?

 マメだねぇ。そういうことするのって俺は苦手だから、自然とできるのは凄いと思うよ。


「それじゃあ、またの機会ってことで。今度はカイル君も誘ってきてくれると嬉しいね」


「アイツは真面目だから金を賭けて戦うってことはしねぇと思うぜ?」


「それでも良いよ。ちょっと聞きたいことがあるだけだからさ」


 そう、ちょっとカイル君について気になったことがあるんだよね。

 まぁ、良い機会だし、ちょっとこの二人にも聞いてみるか。


「ところで、キミらって出身地が同じだったりするのかい?」


 俺の質問に対して、ギドとクロエちゃんの二人は俺の質問の意図を考えることも無く、世間話のノリで答えてくれる。


「俺とコリスは近くの村の出身だけど」

「私はラザロス出身」


 キミらの出身地はは、ぶっちゃけどうでも良いんだよね。


「じゃあカイルは?」

「詳しくは知らねぇけど、俺達とは別の村の出身だって言ってたな」


 なるほどね。そりゃあ嘘だわ。カイルの雰囲気は村人のそれじゃねぇぜ?

 控えめな物腰だったり、眼差しから感じられる知性はそれなりの教育を受けた証拠だ。

 ついでに自分の気持ちを抑えるように躾けられているような態度だったし、そういうのは誰かに仕えるような家柄とか立場の生まれか、それか日陰者なるのを誰かに決められた奴にありがちなんだよな。


 ちょっと怪しいなって思っていたら、もしかして大当たりだったりするか?

 だとしたら、運が良すぎるし、ちょっと出来過ぎだな。

 まだ確信を持てるほどの情報があるわけでもないし、これについてはカイルが帰ってきたら、本人から詳しい話を聞いてみないことには分からないないし、それまでは思い込みは厳禁だ。


 —―しかしまぁ、どんどんとやるべきことが増えてきやがるぜ。まぁその方が退屈はしねぇから、良いんだけどさ。ただまぁ、さっさと片付けねぇとやることが積み重なっていくだけだし、気を付けないとな。

 とりあえずカイル達が帰ってくるまでは、代官からの依頼に関しては置いておいて、他の事を片付けていくかな。


「そういえば、アンタの事をガウロンさんが探していたわよ」


 おいおい、また厄介事かよ。

 たまらねぇなぁ、この世界はどんだけ俺を退屈させないつもりなんだよ。





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