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黄神降臨

 

 強すぎる──

 膝をつき、腕で倒れそうになる体を辛うじて支えながら、リィナは悠然と立つメレンディスを見て荒い息を吐く。たった数分の戦闘にも関わらずリィナとサイスは実力の差を見せつけられていた。

 メレンディスの戦闘能力の大部分は神器に依存したものであると思っていたリィナ達は、神器ではなくメレンディスの方に付け入る隙があると考え、メレンディスの方から崩そうとした。だが逆に崩されたのはリィナ達の方だった。

 神器は強力であることは間違いない、しかしそれを操るメレンディスもまた只者ではなく、メレンディスに付け入る隙があるというリィナ達の目論見は外れることとなった。


 いま現在、リィナ達が膝をついて屈する原因を生み出したのはメレンディスの力によるもの。

 そうした状況にあってリィナ達が理解したことは真に厄介なのはメレンディスの方だということだった。


 ──死角が無い。

 戦いの最中、リィナもサイスが出した結論はそれだった。

 二人にはどういう理由なのか見当もつかないが、メレンディスは盲目であるはずなのに、自分の周囲全ての状況を把握している。そのため二人が連携してメレンディスの隙を突こうとしても、全て気取られ防がれる。

 メレンディスの持つ神器はメレンディスの意思に従って動くので、メレンディスが周囲の動きを感知さえできていれば迎撃を考えるだけで神器はリィナとサイスを狙って攻撃を行う。

 そうして全ての動きを気取られ、神器によって迎撃されたリィナとサイスはメレンディスの前で膝をつくことなった。


「……勝てない」


 弱気の声がリィナの口から洩れる。

 リィナの方は既にどうやって、この場から逃げるかという算段を立て始めていた。

 実際のところ、リィナには命をかけてまで戦う義理は無い。やられっぱなしで悔しいから、メレンディスを倒そうとしただけで、メレンディスを始末すること自体はリィナの任務には含まれていないのだから、この場を逃げ出したとしても、リィナは自分に不利益が無いことを理解していた。

 自分は教会の密偵であり、教会の不利益になる存在を調べて報告するだけが任務なのだから、それ以上のことをする必要は無いとリィナは自分を納得させる。


「殺してやる……」


 対してサイスの戦意はまだ衰えていない。

 メレンディスへの怒りが体を動かし、サイスは身を起こす。

 全てを知りながら自分たちを死地へ向かわせ、そして恩人グラウドを死に追いやった存在をサイスは許すわけにはいかなかった。


「お前さえいなければ全てが……グラウドもマリィも全員が今も……」


 幸せな未来があったと想像できるからこそサイスはそれを奪ったメレンディスが許せなかった。

 グラウドが生きてさえいれば、自分も今のようなことにはなっていない。他の冒険者たちもそうだ。そしてなによりマリィだって父親を失わず、もっと幸福な日々を送れていたはずだとサイスはあり得たはずの未来を想う。


「確かに私の存在が彼の命を奪ったことは確かです。しかし、冒険者というのは死と隣り合わせの職業。私が関わらずとも早晩、彼は命を落としていたでしょう。結局、末路は変わらないと私は思います」


 メレンディスはサイスの言葉に悪意なく自然な様子で己の考えを語る。


「彼の死の原因として私を怨むのは構いませんが、幸福な未来を奪った存在とまで思われるのは些か心外ですので、やめて頂けますか? グラウド殿が亡くなられたことと貴方がたの現在の状況における不幸を直接の因果関係で結ぶというのは乱暴でしょう。彼が亡くなった後でも貴方がたは幸福に生きる可能性があったはずで、その可能性を失ったのは貴方がたの問題であり、その責任の所在を自分たちではなく私に求めるのが正しいことであると私は思いません」


 サイスが絶句するのも構わずメレンディスは続ける。


「つまり、貴方の今の境遇は貴方に原因があるので、その憎しみを私にぶつけるのは筋違いであると思います。グラウド殿の命を奪ったことに関して怨むのは当然ですが、それにしたところで結局は貴方がたの自己責任ではないのですか? 冒険者であるのですから死は覚悟の上でしょう」


「黙れ! お前が言える立場か!」


 サイスの激昂を受けてメレンディスは顔に申し訳なさを浮かべる。


「失礼、言いすぎました。人間というのは誰かに自分の不幸の責任を押し付けなければ生きていけない存在ですので、貴方のような考えに至る方がいるのも仕方ないことですので、私は貴方の憎しみを許しましょう」


 メレンディスは哀れみの表情を浮かべ、優し気な口調で語り掛けている。

 閉じられた眼には同情の色も浮かんでいるだろう。それを察してサイスの怒りは限界を超える。


「殺してやる」


 もう言葉を交わす価値もないとサイスは身を起こして立ち上がる。

 そのサイスを援護するようにリィナが回復の魔術をサイスにかける。もっとも、リィナの狙いはサイスを捨て駒に自分がこの場を脱出することであり、そのためにはサイスには多少の足止めをしてもらう必要があるという利己的な理由から傷を治したのだった。


「勇ましいことです。ですが、貴方は私への憎しみのあまり大切なことを忘れているようですね」


 メレンディスの周りに浮かぶ砂球から砂が伸びてサイスの手足を拘束して床に転がす。

 そうして倒れたサイスにメレンディスは哀れみのこもった言葉を語り掛ける。


「私を殺すのと同じように大切な物が貴方にはあるのではないですか?」


 何を──そう言おうとしたサイスの頭の中にここから離れた場所の映像が流れ込んでくる。


「私が見ているものを貴方にも見せてあげましょう」


 その言葉通りサイスの視界に映る光景は地下室ではなくフェルムの街中。

 真夜中の暗闇にかがり火が焚かれている。そうして灯りが確保された場所はサイスのギルドとその周辺。

 サイスがメレンディスのもとへやって来ている最中も魔物の襲撃は続いており、冒険者達は市民を避難所となっているギルドを守るために戦っている。しかし──


「随分と形勢は不利のようですね」


 魔物を呼び出している張本人のメレンディスが他人事のように語る。対してサイスはというと自分が見せられている光景に気が気でなく、声も出せなかった。


「最初こそ何とかなっていましたが戦力が足りないのか、段々と押されていったようです」


 最初に準備されていたはずの防衛線が随分と下がっているのがサイスにも分かった。

 そして戦っている冒険者達の顔に疲労の色が濃いことも。


「本来であれば貴方もあの場所にいたのでしょう。もしかすると貴方の不在のために彼らの負担が増し、それによって本来想定されていたよりも冒険者達が疲弊しているということは考えられませんか」


「それは……」


 本来であればサイスもギルドと避難した市民を守るために防衛に加わっているはずだった。

 サイスには冒険者を率いて魔物を撃退するという役目もあり、スカーレッドやライドリックの率いる部隊と交代で休憩しながら、敵の攻勢をしのぐという手筈もあった。

 しかし、サイスがメレンディスを殺すためにこの場にやってきたため、その計画は崩れ、スカーレッドとライドリックは充分な休息を取れなかった可能性もある。その結果、疲労が積み重なり冒険者達の統率も乱れ、充分な防衛ができずに防衛線を下げる羽目になったとも考えられる。


「貴方は私を殺すという個人的な怨みに従って行動し、その結果、貴方にとって大切なものを危険に晒している」


 最終防衛ラインに魔物が殺到する。もはや役割分担などなく冒険者達は総力を尽くして敵の迎撃を行っていた。冒険者達のすぐ後ろには避難してきたフェルムの住民とマリィがいる。


「結局の所、貴方は私が憎いだけなんでしょう。それは大切なものを奪ったからではなく、貴方の・・・未来を奪ったからだ。貴方は誰かの命ではなく貴方の幸福を奪った私が憎いだけ。だから、大切なものと言いながらも、それを放っておいて私を殺しに来るなどということができる」


 違うと否定しようとしてもサイスは言葉が出ない。

 そんなサイスにメレンディスは哀れみのこもった言葉で語り掛ける。


「口では立派なことを言いながらも貴方は自分のことしか考えていない。ですが、それも人間というものです。恥じることはありません。貴方はとても人間らしい」


 そして優しく慰めるような口調でメレンディスは言う。


「もう苦しむことはないのです。今日ここで全て終わり、貴方の想いも貴方という存在も消え去る。そうすれば、苦しむことは無く、誰かを憎まず、己の境遇を嘆くこともない。さぁ、終わりが近づいてきますよ」


 サイスの視界に映る光景が冒険者達が必死の抵抗を続ける戦場から地下室に戻る。

 自分が見せられた物に呆然とするサイスは動けずにいた。それは自分の軽率な振る舞いもたらす結果に絶望したためだ。


「本来の予定ではフェルムの住人が全て死に絶えてから降臨される予定でしたが、我が神は待ちきれないようです。貴方がたにとっては時間切れと言うべきでしょうか?」


 呆然とするサイスと逃げる算段を講じるリィナのことなど気にも留めず、メレンディスは陶酔したような表情を浮かべ、直後、地下室が振動に襲われる。


「なに!?」


 振動は下から響いてきており、それを感じたリィナが声を上げる。


「我が神が目覚めようとしているのですよ」


 笑みを浮かべながらリィナの困惑に答えを与えるメレンディス。


「貴方がたは神々の力の源は何か知っていますか? 神々の力の源、それは人々の想いです。どのような想いであれ、それは神々の力になる。怒り、憎しみ、悲しみ、失望、絶望、恐怖どのような想いでも構いません。人が発する想いであれば神は力に変える」


 振動はさらに強くなり地震と言っていい強さの揺れが地下室のみならずフェルムを襲う。


「我が神は人への憎しみから性質を変えており、人の放つ負の想いを強く吸収し自身の力に変えます。本来の計画であれば、フェルムの住人を全滅させることで、そうなるまでに発せられる負の想いで力を取り戻すはずでしたが、どうやら思いもがけずに人々の放つ負の想いは強かったようで、我が神は目覚めるに充分な力を得たようです」


 地震はさらに強くなり、揺れで地下室の天井や壁が崩れ始める。

 メレンディスは天井から落ちてくる瓦礫を躱しながら、サイスとリィナのそばに近寄ると二人を神器の力で守る。


「ここまで手こずらせてくれた褒美と言ってはなんですが、フェルムが滅びる瞬間を共に特等席で見守りましょう」


 神器である三つの宝珠からでた泥、砂、石がメレンディス、サイス、リィナたちの周りを覆う壁となり崩れる瓦礫から三人を守る。


「さぁ、黄神ティエラフラウスの降臨の時です!」


 地下室の床が割れ、そして天井が完全に崩れる。

 瓦礫がリィナの周りを覆う壁に瓦礫が降り注ぎ、その轟音と壁越しに響く衝撃にリィナは思わず目を閉じ、その次の瞬間、浮き上がるような感覚を覚える。

 その間も絶え間なく響く轟音だったが、それが不意に途切れ、そこでリィナは目を開ける。メレンディスが脱出させたのかリィナ達はクローネ大聖堂近くの建物の屋上におり、そこで目を開けたリィナの視界に飛び込んできたのは地平線に沈みつつある月と──


「なにアレ……」


 ──おぞましい魔物の姿だった。

 城のような巨躯に巨大な蛇の下半身に人間の上半身の骨が繋がった姿。骨の上半身とそこから伸びる骨の腕は歪に長く巨大であり手の大きさは上半身を握りしめられるくらいに大きく、肩甲骨からは骨格だけの翼が生えている。頭蓋骨からは髪のような真っ黒い繊維が伸び、そして上半身の骨からはタールのような泥が染み出し、滴り落ちて悪臭を放っている。


「アレが我が神、黄神ティエラフラウス様です」


 メレンディスは誇らしげに言うが、リィナはメレンディスが神と名乗った存在を見ても寒気しか感じず、神が持っていてしかるべき神聖さなどは微塵も感じなかった。

 確かに力は感じる。それも絶対的な力だ。ただし、それは生に対しての絶望を与える力だ。

 あの魔物が存在するだけでリィナは自分の心が折れそうになるの感じ、心の中に絶望が広がるほどの力の差を感じる。だが、それだけだ。


「アレが神?」


 どう見ても魔物だ。確かに力はある。アレがいるだけで、この瞬間もフェルムにいる全ての人間が自身の生存の可能性を絶望し、死の恐怖に怯えるだけしかなくなる存在に変えるだろう。だが、それだけだ。


「あんなものが神なの?」


 リィナからすれば力があるだけの魔物にしか見えない。絶望的なまでの力の持つ魔物、どれだけ恐ろしく、心を怯えに支配されても、それ以上の存在にはなりえない。

 そんなものを神と崇めるメレンディスはやはり正気ではないとリィナは理解する。


「そうです、あの御方こそが、この地の真の支配者であらせられる黄神ティエラフラウス様です!」


 そんなリィナの思いに気付くことなくメレンディスは歓喜を露にする。


「ここで貴方がたも見ると良い。神の偉大さを、そして偉大なる神がこの地を滅ぼす、その瞬間を!」


 メレンディスの歓喜に応えるように黄神の体から力が溢れ出す。

 その力は、その瞬間フェルムの人々に自身の姿と相まって強烈な恐怖を与える。

 そして絶対的な力の差、それを感じてフェルムの人々は呆然と立ち尽くす。

 何もできることは無いと諦めを感じさせるだけの力だ。


「もう何もできることはありません。全て滅んで終わる。一瞬、この一瞬で全てが──」


 黄神の力が更に膨れ上がる。それはフェルムの全てを消し飛ばせると誰もが感じ取れるほどの物であった。

 宿願の叶う瞬間が近づきつつあることを察し、メレンディスが閉じた目から喜びの涙を流し、そしてフェルムの人々が絶望する。


 ────だが、その時だった。


此処ここに築くは覇道奈落はどうならく無辺むへんに広がる煉獄無尽れんごくむじん


 フェルムの全てに声が響く。

 その瞬間、フェルムの全ての人々が絶望すら塗り潰す強烈な力の存在を感じる。

 それは声だけだったが、目に見える強大な存在よりもなお強烈な力を感じさせ、人々はその力に圧倒され、絶望を感じる余裕すら失い身じろぎ一つできなくなる。


『二つの眼、四方の塔、八方の檻、十六の海、三十二の山、六十四の空、結んで此処に一つの界。定め、定め、此処に築く』


 聞こえる声は続ける。

 そして更に高まる力、その力に圧倒されメレンディスさえも一歩も動けない。

 聞こえてくる声にまさかという思いを抱きメレンディスは声の主の名を叫ばずにはいられなかった。


「アッシュ・カラーズ!」


 アッシュの名を叫び、メレンディスは恐怖を覚える。

 たった一人、メレンディスが恐れる危険要素。しかし、黄神が復活した以上、恐れるはずはないとメレンディスは自身の恐怖を振り払おうとするが──


『永劫を此処に、闘争を此処に、此処は牢獄、我が楽園』


 詠唱は続く。この世界の誰もが聞いたことのない詠唱だった。

 その一言一言が耳に届く度、メレンディスの心の内の不安が増大し、その不安を振り払うようにメレンディスは声を上げる。


「まさか、ここに来て貴様が! だが、この状況で何か出来るはずもない!」


 メレンディスにとっては久しくなかった感情。

 押さえていた感情は宿願が叶う瞬間が近づくにつれ解放され、それが潰えようとする瞬間に完全に解き放たれる。


『共に征こう我が友よ。此処こそ我らが極楽浄土。朽ち果て尽きるその時まで、共に無上の喜びを分かち合おう』


 感じられる力は更に高まっている。聞こえてくる声に乗せられた力の総量は黄神を上回っていた。

 その力を黄神も感じ取り、危機感を抱いたのか、自分の身を守るために力を解き放とうする。だが、既に遅かった。アッシュの術式はまもなく完成する。


究竟アルス・マグナ──修羅闘獄陣』


 詠唱が完了し力が解き放たれる。

 アッシュが何処からその術式を放ったのかは誰も分からない。だが、発動したその瞬間、黄神は光に包まれ、そして光が収まった時、そこに黄神の姿は無かった。


「馬鹿な!」


 メレンディスは神の気配が消え去ったことに驚愕する。

 どこにも、その存在は感じられない。力で消滅させるにしても、何かしらの痕跡は残るはずなのに、そういった跡も無い。まるで、突然どこかに消え去ったようにしか思えずメレンディスは狼狽えること以外のことが出来なかった。

 そして、黄神が消え去ったフェルムにどこからともなく声が響く。


『よう、どうだい? 急転直下、自分の計画が突然に一瞬でぶっ壊された気分はよ』


 アッシュ・カラーズの嗤う声が聞こえる。

 まさか、この瞬間のためだけに何もしなかったのか?

 そんな考えが頭をよぎるが、メレンディスはそんな筈はないと突拍子もないことを考える自分の思考を律する。


 そうして冷静になったメレンディスは、このフェルムでこそ力を感じないものの、自分と黄神との力のつながりが残っていることに気付く。

 そのことからアッシュの用いた術式はは黄神を何処かに封印するものであるとメレンディスは推測し、それならば解決策はあると、即座に黄神を解放するための行動に打って出るのだった。


「魔物達よ、人々に絶望を与えなさい」


 過去はともかく現在の黄神の力は源は人々の負の想いだ。

 それならフェルムの人々に絶望を与えることができれば、黄神の力は増し、アッシュの術からの脱出も出来るだろうと思い、メレンディスはフェルムの人々に魔物をけしかけることにしたのだった。


 手始めに抵抗を続ける冒険者達を始末する。そう思ってメレンディスがギルドの方に意識を向け、その様子を見届けようとすると、まさにその時が魔物たちが冒険者に襲い掛かる寸前であった。

 命を奪えば黄神の力が増す、そう思い魔物の牙が冒険者の体に突き立てられる瞬間を待つメレンディス。しかし、その瞬間は永遠にやってこなかった。


 何が起きたのか魔物達が突然に吹き飛ぶ。

 何かが戦いの最中に飛び込み、そして魔物達を薙ぎ払ったためだ。

 その勢いによって巻き上げられる砂埃、そしてそれが晴れた時、そこに立っていたのは──


「何がなんだか良く分からんが、困ってるみたいなんで助けるぞ」


 白神教会聖騎士団七番隊長イグナス・せプテンズだった。

 大剣を肩に担ぎ、冒険者達の前に出るイグナスは大剣の一振りで押し寄せてくる魔物達を薙ぎ払う。

 その光景を遠方から見ているメレンディスは再び叫ぶ。


「馬鹿な!」


 なぜ聖騎士が民を助ける?

 全く状況が理解できず、メレンディスは混乱する。

 メレンディスが知る限りでは先程まで聖騎士はフェルムの外にいた筈だ。途中、サイス達との戦闘があり、市外の聖騎士の様子までは視る・・ことができなかったが、そこで何が起きれば、フェルムの住人を助けるように聖騎士が動くようになるのかメレンディスは見当もつかなかった。


「この状況は良くないですね」


 大きく息を吐き、混乱状態から何とか冷静さを取り戻し、メレンディスは今後の行動を考える。

 聖騎士がフェルムの住人側についたならば、魔物を使って住人を皆殺しにするというのは難しくなった。聖騎士の相手は魔物では難しく、何とかできる者がいるとすれば、それは──


「かくなる上は私が動くしか──っ!?」


 そう呟きながら、メレンディスは咄嗟に神器を起動させる。

 石壁がメレンディスを守るように構築され、そこに攻撃が叩き込まれる。


「まだ戦うつもりですか?」


 石壁が受け止めたのは躊躇の無い剣撃、それを放ったのはリィナだった。その背後ではサイスがゆっくりと立ち上がり、戦闘の構えを取ろうとしている。

 心は折ったはず、それなのに立ち上がるのか?

 メレンディスが困惑する中、サイスとリィナはメレンディスを見据えるために顔を上げる。そうして露になるのは爛々と輝く紅の瞳。

 閉じられたメレンディスの眼は色が分からないため、サイスとリィナの外見上の変化は分からない。しかし、メレンディスにも感じ取れるものが一つある。

 それはサイスとリィナに何処からから流れ込んでくる力であり、その力は先程アッシュが詠唱を行っている際に感じたのと同じ力だった。


「進むためには貴方がたを倒すしかないようですね」


 その言葉が放たれると同時にサイスとリィナが動き出し、メレンディスは神器を起動。メレンディスとサイス、リィナの再戦が始まる。


 こうしてフェルムにおける戦いは黄神の降臨と消失を経て、最終局面へと移行していくのだった──




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