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戦うべき相手

 

「随分と上手く騙してくれたもんだ」


 クローネ大聖堂の地下に現れたサイスがメレンディスを殺意に満ちた眼差しで見据える。

 そしてサイスはメレンディスに視線を固定したまま、右手で引きずるようにして、ここまで持ってきた物体をメレンディスの前に投げつける。

 それを横で見ていたリィナは投げつけられ床の上に転がる物体を見て息を呑んだ。


 サイスが投げたものはクローネ大聖堂の修道士の死体であった。

 状況から見てサイスに殺害されたと思しき死体。だが、リィナが息を呑んだのは死体をみたからではない。


「ここの修道士を魔物に変えたのもお前の仕業か?」


 サイスが放り投げた死体は体の一部が泥になって崩れていた。

 地命石を使えば人間を魔物に変えられるということを知っているサイスは、それをメレンディスがしたのだと推測している。


「ええ、そうです」


 サイスの問いに対してメレンディスは隠すこともせずに正直に答える。


「彼らはどうしましたか?」


「邪魔をしてきたんで全員始末した」


 サイスの答えは非情な物だったが、その答えを聞いたメレンディスはサイスへの感謝の気持ちを表し頭を下げる。


「それは御礼をしなければなりません。魔物になってしまった以上、彼らは人間には戻れず魔物のまま。それも哀れですので、彼らを楽にしてくれたことには礼を述べねばなりません」


「アンタが魔物に変えたんだろうが」


「魔物に変えたのはこの場所の防衛戦力として必要という理由があったから。それとは別に私個人の感情もあり、私自身の感情としては彼らの安息を願っているのです」


「イカレてやがるな」


 サイスからすればメレンディスの言動は支離滅裂だ。

 安息を願っていると言いながら、必要だったからと自分の部下を魔物に変えるなどサイスにはメレンディスの思考が理解できない。部下である修道士たちの人生を奪っているのはメレンディス自身だというのに、自分の行動に関して何の罪悪感を感じていないことも正気とは思えない。


「一つ聞きたいことがある」


 正気でない相手からどこまで話を引き出せるかという不安をもあったが、サイスはメレンディスに聞かなければならないことがあった。


「アンタは全部知っていたのか?」


 サイスが訊ねたかったのは地下にいる存在の事。

 その存在を知っていてグラウドをリーダーとする自分たちのパーティーを大聖堂の地下へ潜ることを許していたのか。それをサイスは知りたかった。


「全部? ……あぁ、グラウド殿ことですか? 彼のことは残念でした。優秀な冒険者だったのに惜しいことをしたと思っています」


 メレンディスのグラウドを語る口調はその死を心から惜しむようで、それを聞いたサイスの感情が僅かに揺らぐが、それは最初だけで──


「彼ならば地下へ行き我が神の封印を解いてくれると思い、何も告げず、地下へ向かうのも見逃したのですがね。私の思惑通り封印を解いてくれたまでは良かったのですが、まさか自分の命を捨てて再び封印を施すとは思いませんでした。そのせいで我が神の計画は大幅に狂い、修正を余儀なくされました。本当に惜しいことをしたと思っています、さっさと地命石を使って傀儡にでもすれば良かったと」


 ──サイスの心がメレンディスの言葉が届く度に冷え込んでいく。

 やはりメレンディスは全て知っていて、グラウドと自分たちが地下に行くことを見逃し、そして殺されることも望んでいた。


「彼は本当に優秀でしたね。仲間も命を懸けて逃がし、その仲間達は彼の遺志を継いでか、ずっと我が神と私の邪魔をしてくれた。あぁ、サイス殿、貴方は私に対して怒りを抱いているようですが、その感情は私も同じです。ずっと私の邪魔をしてくれていた貴方たちに対して怒りを抱いている」


 そう言うもののメレンディスの口調には怒りどころか、何の感情も込められていない。それがサイスには不気味に感じられた。


「我が神はこの地に住む人々の死を望んでいます。また、そのために我が神は再び地上に顕現することも望んでいる。貴方がたは封印を守ることで私と我が神の計画を妨害することに成功していた」


 メレンディスは枯れ木のような手を懐に入れ、懐にしまっていた何かを取り出した。


「気を付けて!」


 拘束され床に寝かされているリィナがサイスに向けて叫ぶ。

 リィナの声を受けてサイスはメレンディスに警戒を強め、そんなサイスの視線を受けながらメレンディスが懐から取り出した物体を放り投げる。それは拳くらいの大きさの三つの球体だ。

 泥で作られた球体、砂で作られた球体、石で作られた球体。放り投げられたそれぞれが浮遊し、意志を持つかのようにメレンディスのそばに浮かんでいる。


「これは神器、我が神より与えられた武具です。貴方たちが使う魔具とは格が違います」


 その言葉に更に警戒を強めながらもサイスには一切の恐れはない。

 戦闘の構えを取りながら、サイスはメレンディスを見据え口を開く。


「俺はアンタを殺すぞ」


 サイスはハッキリとした殺意をメレンディスにぶつける。


「グラウドの件だけじゃない。アンタがこの街の人間を殺し、フェルム自体を滅ぼそうと考えているなら、俺はこの街を守るためにアンタを殺す。この街を守るというグラウドとの約束を守るため」


「……やはり彼は優秀だった。貴方のように遺志を継ぐ者を残しているのだから」


 サイスとメレンディスは互いに相手を敵と認め、戦闘の構えを取る。

 もう言葉を交わす気も無い。敵として目の前に立つならば、やることは一つだけだ。

 戦う──それ以外は無く、二人は互いに向けて己の武器を振るうのだった。





 …………一方その頃、フェルムの市外、街を囲む城壁を前にしてメレンディスの思惑通りならば、フェルムの街を蹂躙しているはずの聖騎士の一団は街を前にして立ち尽くしていた。


 三百騎に及ぶ完全武装の聖騎士、彼らの前に立ちはだかるのはたった一人の男。聖騎士はその男一人のために、その場での停滞を余儀なくされていた。


 たった一人で聖騎士の進軍を止める者の名はゼルティウス。

 フェルムの市街地、そして大聖堂の地下での戦いが激化する最中、ゼルティウスは聖騎士達と対峙していた。



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