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混沌市街

 フェルムの街中はゾンビで溢れていた。

 真夜中ということもあり、最初こそゾンビの存在に気付かずに騒ぎは無かったが、段々とゾンビの存在に気付いた人々や被害を受けた人々が騒ぎ出し始めたことによって、フェルムの街中は天と地がひっくり返ったような騒ぎになっていた。


っても楽しくないから~」


 そんな混乱の真っただ中のフェルムの街中を俺はサイス達と別れて歩きながらゾンビどもを殴り倒していた。


「こいつらのことは好きじゃないのよ~」


 楽しくねぇから歌うしかねぇぜ。少しでも気分よくるためにさ。


「どっちを見ても雑魚ばかり~」


 俺を餌だと思って不用心に近づいてきたゾンビの頭を掴んで、近くの壁に叩きつけて粉砕する。

 ゾンビと言っても、俺はなんとなくそう呼んでるだけで、ゾンビとは結構違う魔物であり、腐ってるというよりはカラカラに乾燥して干からびた死体なので、殴ったりするのにも抵抗が無いのはありがたいね。


「話にならねぇ雑魚ばかり~」


 何匹か寄って来たが、動きが遅いので、相手が何かするよりも早く俺は距離を詰めてゾンビどもの頭をぶん殴って吹っ飛ばす。


「悲しい気分で弱い者いじめ~」


 まぁ、たまにはそういうのも悪くねぇんだけどね。

 弱い人間をぶん殴るのは好きじゃねぇけど、頭も強さも無い魔物を一方的にぶちのめすってのはそれなりにストレス発散にもなるんで気分は良いぜ。


 そんな感じで適当に街中のゾンビを殴り倒してると、騒ぎの方向性が段々と変わっていき、混乱から戦いへと雰囲気が変わっていく。

 おそらくサイス達が冒険者達に声をかけて、ゾンビの撃退に動き出したんだろう。戦った感じだと、それなりの冒険者でも何とかなる程度の強さだし、倒すこと自体は問題ないはずだ。だけども、こういう時の問題は倒すことも大事だけど一般人の救助なんかもしないといけないんだが、そういうことに慣れてるんだろうかね?


「げ、アッシュ!?」


 慌てた様子で走っていた冒険者たちが俺の姿を見るなり声を上げて足を止める。

 冒険者達が向かおうとしている方向はさっきから騒ぎが聞こえてくる場所で、おそらく現時点での主戦場だろう。


「おい、テメェら、そこで止まれ」


 俺は俺に対して露骨に嫌そうな顔を向けてくる冒険者達に声をかける。

 俺にそんな顔を向けてくるってことは俺の事を知ってる連中だよな? だったら顔見知りなんだから、知り合いのよしみでちょっと手を貸せ。


「いや、俺達もゾンビを倒さねぇと……」


 そんなん後でも良いんだよ。多少、人数が増えたって効率は大差ねぇしな。

 そんなことよりも今すぐにやんねぇといけねぇことがあるんだよ。


「テメェらは住民の避難を優先だ。ゾンビしかいねぇ内にフェルムの住民を護衛して、街外れのギルドへ連れていけ」


 俺は速やかに指示を出すが、冒険者達は判断に迷って互いに顔を見合わせている。

 早めに判断しろよ? 今はゾンビだけだが、ゾンビだけで終わるとは思えねぇしな。

 泥人間とか出てきたら、対応できない冒険者も出てくるし、そうなってから住民を避難させようとしても護衛の手が足りなくなるぞ?


「いや、でもよぉ……」


「ごちゃごちゃ、うるせぇなぁ。言うこと聞かねぇならぶん殴るぞ? 殴られたくなかったら、俺の言う通りにしとけ!」


 俺が脅すと冒険者達は蜘蛛の子を散らすように、俺の前から散っていった。俺の言ったとおりに仕事をするかは分からねぇが、そこまで期待もしてねぇしな。


「他の手の空いてる奴らにも住民の避難の手伝いをさせろ!」


 俺は逃げていく冒険者の背中に声をかける。とにかく町外れのギルドの方に向かわせねぇとな。

 他にもギルドの建物はあるが、場所的に町外れが良い。他のギルドとかだと四方から迫ってくる敵に防衛線を築かなきゃいけないが、大陸冒険者ギルドのある場所なら、背後が城壁だから敵が攻めてくる方向を限定できる。まぁ、その分、守り切れなくなったら袋の鼠になって死ぬだけだけど。


「ほら、逃げろ逃げろ! 町外れのギルドに行け! そこに行きゃ安全だぞ!」


 騒ぎを聞きつけ、危険を察知したフェルムの住民が大挙して、通りを駆け抜ける。

 俺は人の流れの逆を進みながら、声を張り上げ、住民に避難先を伝える。別に聞こえてなくても、冒険者連中が対処してくれるだろうし、そこまで心配することも無い。それよりも俺がするべきことは──


「お出ましかい?」


 不意に人混みの中に黒いもやが生じる。

 その靄は一瞬で人の形を取り、次の瞬間には泥人間マッドマンに変わっていた。

 コルドールの地下迷宮で俺が戦った魔物で、地命石の影響を受けすぎた人間が変化する魔物でもある。

 俺は泥人間の姿が現れた瞬間、そいつに飛び掛かり、頭に飛び蹴りを叩き込んで首から上を吹き飛ばす。


「随分とまぁ、黄神様は人間が嫌いなことで」


 ゾンビだけじゃなくて、もっと強い魔物を出してまでフェルムの人間をぶっ殺したいんだろう。

 嫌だねぇ、神様が人間相手にそんなに怒っても虚しいだけだぜ? 裏切られ忘れられた? どうでもいいじゃねぇか、そんなこと。人間なんて不義理で当然、そういう所も可愛げだと思って付き合ってくのが正しいスタンスだぜ。

 まぁ、俺は人間が嫌いじゃないから贔屓するし守ってやってるし、俺自身が正しい距離感で人間と付き合えてないんで偉そうなことは言えないんだけどね。だから、こうして人間を守るために魔物をぶっ倒してやってるのよ。


「え、なに、何事?」


 俺が少しずつ増えてきた魔物を倒していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 声の方を見ると、そこにいたのはカイル達で、カイル達は状況が呑み込めず呆然としていた。


「ちょうどいい所に来やがったな」


 俺はカイル達の姿を見つけると同時にカイル達の元へと駆け寄る。

 そんな俺の姿を見つけたカイルが本気で嫌そうな顔を浮かべ、俺に背を向けて逃げようとするので、俺は

 カイルの背中に飛び掛かり、襟首をつかんで引きずり倒す。


「げぇ、アッシュ!」


 呼び捨てとは良い度胸じゃねぇか。まぁ、良いタイミングで来てくれたから許してやるぜ。

 俺は単刀直入にカイル達に指示を出す。


「フェルムの街を魔物が襲ってる。お前らはゾンビを相手にしなくていいから、泥人間マッドマンとかを全員で協力して倒せ。疲れたら、町外れのギルドに行って休め。以上、働け!」


 こいつらはお人好しだからな。街が魔物に襲われてるとなら、詳しい事情を聞かなくても、必死で魔物を倒してくれるだろう。俺は確信を持って、この場は任せても良いと判断し、他の場所へと走り出す。


「あ、おっさん!」


 走っていると顔なじみのガキがいたので足を止める。


「おい、一体どうなってんだよ! またアンタが何かやったのかよ!」


 お前の中で俺はどんな存在なんだよ。厄介事を起こす奴だってのは分かるけどよ。


「俺は何もやってねぇよ。お前は何やってんだ?」


「街の様子を見てるんだよ。ヤバくなったら逃げようと思って──」


 賢いね。そういう目端が利くのは大事だと思うぜ? ガキの割に立派なもんだ。

 大人でも何もできずに家の中に閉じこもっちまう奴がいるのにな。


「逃げるんなら町外れのギルドにしろ。それと余裕があるなら、お前の知り合いのガキどもに声をかけて街中で非難する場所を叫んで回れ」


 家の中に籠ったままが一番やべぇと思う。

 ゾンビたちの動きが少しずつ変わっきてる気配もあるし司令塔がいるのか、それとも人間の気配を覚えたのか。とにかく逃げ場がない屋内で襲われたら助かるものも助からねぇし、さっさと家から出さねぇとな。


「多少なら嘘をついても良い。家から出てこないとマズいと思わせろ。人が集まったら近くを歩いている冒険者か衛兵でも捕まえて護衛を頼め。アッシュからの命令で、言うことを聞かなかったらアッシュがぶっ殺すと言ってたとか言えば冒険者連中は言うことを聞くだろうよ」


 フェルムに滞在している間はかなりの頻度で冒険者と喧嘩して俺の強さを体に刻み込んでやってるからな。俺に殺されると思えば素直に言うことを聞いてくれるだろう。


「わかったけど、アンタはどうすんだよ?」


「俺は他にも寄るところがあるんだよ」


 そう言って俺はガキをその場に置いて再び走り出す。

 そして向かった先はフェルムの市街の入り口である市門だ。


「あ、テメェ! 何しやがったアッシュ!」


 俺の姿を発見するなり門番のジョニーが顔に怒りを滲ませながら俺のもとへと駆け寄ってくる。


「どいつもこいつも俺が何かしでかしたと思ってやがるのは何なんだろうね」


 これも日頃の行いって奴かねぇ。まぁ、そうだとしても俺は俺の生き方を改める気はねぇけど。


「うるせぇ! 一体全体どうなってんだよ!? 中には魔物で、外には完全武装の殺気立った聖騎士団だぞ!?」


 やっぱり来たか、白神教会の聖騎士団。

 リィナちゃんは聖騎士団も動いていると言っていたし、リィナちゃんからの連絡が無かった際はフェルムを襲撃し、滅ぼすとかいう手筈になっていたんじゃないかって俺は推測するね。


「聖騎士団の方は放っておけ。そっちは何とでもなる」


「なんとかって、おまえ……」


「とにかく、聖騎士団はフェルムを滅ぼす気満々だから、門を占めて中に入れないようにしろ」


 聖騎士団がフェルムを滅ぼす理由は邪教の蔓延る街を浄化するとかそんな感じだろう。お誂え向きに魔物まで出てきてるしな。


「そんでもって衛兵もフェルムの住民の避難を手伝え」


 状況は混沌としてきているように見えるが、まだまだ余裕だ。

 少なくとも俺には解決に至るまで見通しがついてるしな。

 だからまぁ、どいつもこいつも大船に乗った気持ちでいると良いぜ。


「大丈夫なんだよな?」


 大丈夫だって。サイスとも約束したぜ?

 俺が何とかしてやるってな。





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