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向かうべき場所

 

 ふぅ、スッキリだ。やっぱり、たまに力を使うと気分が良いぜ。

 ぶっ殺したりしないって決めて、力を振るう時間なんかも制限したし、周囲へ影響が及ばないようにして、業術を使えたのが良かったな。使ってる時間は一分くらいだったが充分だろうと、俺は俺の目の前で座り込むサイス達を見て思う。


 どうやら、俺の強さを認めてくれてサイス達は素直になってくれたようだ。

 結局の所、こいつらの問題ってのは自分たちじゃどうにもならない厄介な存在がいて、そいつのせいでフェルムが大変なことになりそうところなんだよな。

 そいつを倒そうにも力不足でどうにもならないから、そいつのやることを潰してフェルムを守ろうとしていた。その結果が冒険者の暗殺で、恐らくそれ以外にも色々とやっているんだろう。

 やったことの良い悪いに関しては俺が口をだすべきことじゃないので、その点はとりあえず置いておこう。

 こいつらは、やらなければならないことを自分たちに出来る方法ってやっただけで、その是非を善悪とかの別の価値観で批判するのもちょっとズルい気がするしな。

 なのでまぁ、俺はサイス達がやったことに関して現時点では何も言うつもりは無い。でもまぁ、それ以外では言うべきことがあるんだけどな。


「俺は強いだろ? 全てを俺に任せちまった方が、何もかも上手くいくと思うぜ?」


 こいつらの問題は、こいつらじゃどうにもならない存在がいることだ。

 そいつを刺激したくないから、俺に動いて欲しくないんで、俺にそいつのことを教えてくれない。だけど、そいつより俺の方が遥かに強かったら? 

 サイス達じゃどうにもならなくても、俺なら何とかできるとサイス達が思えば? 

 俺ならそいつをぶっ倒せるだろうとサイス達が思えば、俺にそいつの居所を教えてくれるんじゃないかと思って喧嘩をしてみたが、さてどうだろうか?


「……お前に任せるか」


 サイスは肩を落として溜息を吐く。肩の荷が下りたようにも見えるし、諦めたようにも見えるね。ただまぁ、戦意はそこまで衰えていないから心配することも無いと思うけどさ。

 一応、他にも話してくれそうな奴はいると思うけれど──スカーレッドは気持ちが折れてる。ライドリックは失神している。ゲオルクは魔力切れでぶっ倒れている。セレインは様子見って感じだけど、戦意は感じられないな。


「……どうして奴を狙うんだ?」


 地べたに座り込んだままサイスが顔をあげて俺に訊ねてくる。

 どうしてって言われてもな、カッコイイ台詞は吐けねぇんで、俺は率直に思ったことを口にすることにした。


「俺に舐めた真似をしたから、ぶっ殺しに行くんだよ」


 結局はそれが全てだよ。

 俺の思い出に無遠慮に触れて、踏み込んではいけない心の内に踏み込んできたんだ。

 それはつまり、俺に対して、それをしても大丈夫だとか思ったからだよな? 俺の神経を逆なでして、逆鱗に触れたとしても何とかなると思ってるから、そんなことを出来るんだよな? 

 それってつまり、俺を舐めてるってことだよな? 大したことない奴だって侮ってるから、そんな振る舞いを出来るわけで、それは俺を舐めてるってことに他ならない。

 ……まぁ、舐められたから殺しに行くってのは建前で本音では、嫌な記憶をその時の気持ちと一緒に思い出させられて、そのことにムカついたんで腹いせに殺しに行くんだけどさ。


「舐められたからって……相手が何か分かってるのか?」


「知らねぇから聞きに来てんだよ」


 それもそうかと呟きながらサイスはフッと笑う。

 何がおかしいのかは分からねぇが、何か思う所があるんだろ。


「どこまでも自分の感情でしか物事を考えないんだな」


 文句があるかのような物言いだが、サイスの顔はどことなく晴ればれとしていた。

 さて、どうしてそんな顔になっているか、察しがつくんだが、あえて考えてみるべきだろうか? でもまぁ、それもなんか無粋な気もするんでやめておいた。


「きっと、お前はそうやって自分の思うがままに生きていくんだろうな。俺にはとてもじゃないが無理だ」


「そんなもん自分を最優先に考えれば簡単に出来ることだけどな」


 俺からすればサイスは他人に生き方を左右されすぎなんだよ。

 他人の願いと自分の願いを混同すると碌なことにならねぇぜ? 願いも約束も簡単に呪いになるしな。

 死んだ奴の想い? 言葉にすれば聞こえは良いが、要するに未練だし、生きている間に成し遂げられなかったことを他の誰かに押し付ける無責任さの表れだ。

 そういう考え方もあるんだから、折り合いはつけて行かないといけないのに、この阿呆サイスはクソ真面目に受け取って、そのせいで馬鹿を見てる。


「……もういい。お前らみたいな奴らに付き合わされるのはウンザリだ」


 お前ら・・・ってことは俺以外にも似た奴がいたんだろうな。自分の感情に従って生きる奴とかさ。


「ウンザリしてるなら、どうするんだい?」


 俺は答えは分かっているがサイスに敢えて聞く。すると、サイスは更に鬱陶しそうしながらも答える。


「ウンザリしてるから、どっかに行けってことだよ。そして好きに生きて好きに死ね、もう俺は関知しない」


 そう言いながらサイスは地面を指差す。

 いつの間にか近づいていたセレインがサイスに行動に対して問うような視線を向けている。


「お前が探している奴はフェルムの下──地下深くに眠っている」


「サイス君!」


 セレインが咎めるような声を発するが、サイスはセレインに対して首を横に振る。


「そもそも俺達は負けた身だぞ。勝った奴の要求を突っぱねるような恥知らずな真似はできない」


 素直で助かるぜ。それで地下に眠っているってのはどういうことだろうか?

 そんな俺の疑問を察してかサイスが説明を始める。


「フェルム周辺のダンジョンを管理しているのは地下に眠っているその化物だ。奴は誰かが外から封印を破るのを待っていて、封印を破るために必要な道具をダンジョン攻略の証として作り出しているんだ」


 言いながらサイスは収納結晶アイテムボックスから地命石を取り出し、俺に見せる。


「これも含めて攻略の証は全て集めると鍵になり、地下に眠っている化物の寝所の扉を開ける鍵になる」


「開け方は分かったが、そもそもそいつ何?」


 地下への行き方も気にはなるけど、まぁ、そんなもん地面を掘れば良いだけだから何とでもなるんで、とりあえず置いておこう。

 俺が気になるのは地下に眠っているっていう化物の方だ。今の所、何も分からないしな。とりあえず閉じ込められていて、脱出のために外の人間にちょっかいを出してるってことだが──


「何と言われても分からない。俺も見たのは一度だけだ。ただ、邪悪で危険な魔物であると言うことだけはわかる」


 サイスの表情に後悔の色が浮かぶ。

 なるほど、なんとなく分かって来たぜ。きっとサイス達のリーダーだったっていうグラウドはその化物に殺されたか、犠牲になってサイス達を逃がしたんだろう。事故で死んだって話になってるが真実はそんな感じじゃないかなって俺は推理する。

 ダンジョンを制覇した証で作り上げた鍵を持って意気揚々と、その鍵で扉を開けたらヤバい化物がいた。そのままにしておくと危険だが倒す手段もなく、サイス達はグラウドの犠牲によってその場から逃げ、扉を閉めた。そしてその後、サイス達はフェルムの地下にそんな化物が眠っているって真実を隠すために行動を始めたとか、そんな感じだと俺は思うね。

 隠さなきゃいけない理由は、地下に化物がいるなんてバレたらフェルムの住人が安心して生活できないからってのもあるだろうし、冒険者への影響も考えてのことだろうと俺は思う。

 ダンジョンを制覇したご褒美が化物の封印を解くためのカギだなんて知られたら誰もダンジョンに挑戦しなくなるし、冒険者のやる気だって下がるだろうしな。冒険者で成り立ってるらしいフェルムで冒険者の生産性が下がるってのは死活問題だろうし、真実は隠しておきたかったんだろう。


「まぁ、どんな奴であろうと俺がぶっ倒してそれで問題解決だ」


 結局の所、諸々の問題は地下にいる奴のせいだってことが分かってるんだから、そいつを始末すれば解決さ。俺はイラつくやつを殺せてハッピー、サイス達は厄介が片付いてハッピー。

 誰もが幸せになるために俺が地下に眠っているらしい化物を殺すだけで全てが上手く行くって話さ。


「……任せて良いか?」


 それは何とも言えねぇな。俺に全てを任せるってことをお前自身が許せるかって問題の方が大きいと思うけどね。そういう個人の感情に根差した事柄は俺の管轄外なんで、サイス自身が折り合いをつけるしかないと俺は思うよ。

 でもまぁ、そういう色々も今は置いといて、俺に全てを任せたいという気持ちがサイスに少しでもあるなら、俺が言うべきことは一つしかない。


「任せとけ。俺が全て何とかしてきてやるよ」


 敵が分かった。何処にいるかも分かった。どうやって会うかも分かった。

 となれば後はぶっ殺すだけだ。人間だった頃からやることは変わらねぇ。


「……地下へ行く道はクローネ大聖堂にある。……頼んだ」


 頼まれたなら頑張らねぇとな。

 俺はサイス達に背を向けて、敵のいる場所へと向かう。

 鍵は無いが何とかなるだろうし、何とかする。駄目ならダンジョンを制覇すれば良いだけの話だ。

 まずは敵の居場所を拝ませてもらおうじゃないか。そう思って、俺はクローネ大聖堂を目指して歩き出した。だが──


「待ってください」


 歩き出した俺の前方から切羽詰まった様子で、俺に呼びかけながら人が走ってくる。

 誰だと思って見てみると、それはシステラだった。システラは何かあったのか、必死の形相で俺の所まで駆け寄ってくると、息を切らしながら大声で俺に伝える。


「リィナさんが捕まりました」


 は? 急に何を言っているんだコイツ?


「クローネ大聖堂に潜入したリィナさんが捕まってしまったんです!」


 大声で俺に緊急事態であることを伝えるシステラ。

 また厄介事が舞い込んできやがった。

 まったく、つくづく俺を飽きさせない最高の世界だぜ。





とりあえず五章は終わり。

次の章でフェルム編は決着。

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