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鉄のグリフォン

 気付かれないとでも思ってるのが信じられねぇぜ。

 俺は僅かに動揺の気配を発するサイスと黒いローブの四人を端から指さし、名前を告げていく。


「ゲオルク、スカーレッド、サイス、そしてライドリックにセレイン」


 後ろの二人に関しては俺は名前は聞いてねぇが、ゼティからその二人のことについては聞いている。

 その二人は以前にあったギルドの代表者の集まりで見かけたギュネス商会とピュレー商会の冒険者だ。

 とんでもねぇよな、仲違いしてパーティを抜けたと思ったら、その全員がフェルムの冒険者業界の上層部に食い込んでるんだからな。

 サイスはマリィちゃんは代表とはしながらも実際には自分が代表。ゲオルクの方は普通に自分が代表。スカーレッド、ライドリック、セレインの三人はギルドの代表者の集まりに代表の相談役として参加できるレベルだしな。


「……隠しても仕方ないか」


 ゲオルクが黒いローブのフードを脱ぎ、顔を露にする。

 冒険者を殺害したって濡れ衣を着せたつもりだったけど、思いもがけず正解だったな。

 まぁ、実際に殺したのはゲオルクじゃないだろうし、暗殺者一味って感じか。


「いつから気付いていた?」


「何について?」


「我々が協力関係にあることにだ」


「そんなもん最初から気付くって」


 まぁ、最初って言っても、キミらが一堂に会した集まりの時だけどさ。

 あの時、仲違いしたのにキミらって結構アイコンタクトしてたじゃん。他の奴らは知らねぇけど、俺の眼は誤魔化せねぇよ。あの場でキミらは言葉を交わすことは避けていたようだけど、視線だけで会話して話し合いの流れをコントロールしようと協力しようとしていただろ?

 あの時はギュネス商会とピュレー商会の二つのギルド同士が争うような流れに持っていこうとしたけど、俺がゲオルクが犯人だとか騒いだせいで、台無しになったけどな。


「まぁ、気づいてはいても確証は持てなかったけどな」


 ただ、ゼティから話を聞いた祝賀会の会場で一件で俺は確信に近いものを得ることが出来たけどさ。

 サイスとライドリックが言い争っている場面をゼティは見て、その際に違和感があったって話だ。そしてそんな二人が発している殺気がどうにもわざとらしいっていうのがゼルティウス大先生の評価。

 そういう話を聞いて、俺は代表の集まりで視線を交わしていた様子を見てたから演技だろうって確信を得たよ。


「キミらは、人前ではなるべく仲悪く振る舞ってるんだろ? そうしておけばキミらの繋がりは疑われにくくなるからな」


 俺の言葉をサイス達は黙って聞いている。

 口を挟まないのは俺を始末すると決めているからだろう。これから殺す奴に何を言われても何も思わないし、好きに言わせておけって感じなんだろうな。

 俺もそういう感じなることは良くある。まぁ、普段から他人に何を言われようが何も思わねぇけどさ。


「複数のギルドに散らばってる理由もなんとなく想像がつくぜ。それぞれのギルドが必要以上にダンジョンの探索を進めないようにするためには外部からよりも内部から監視するほうが効果的だからな。だから、キミらはパーティーを解散して、今のギルドに潜り込んだ。全てはフェルムの冒険者達にダンジョンを攻略させないようにして、そいつらの身を守ることと、フェルムの平和を守るためってことかな」


「あぁ、その通りだ」


 ゲオルクは肩を竦めて俺の言葉を肯定し、ローブを脱ぎ捨てる。

 それに合わせて、他のメンバーもローブを脱ぎ、姿を現す。


「本当に面倒な奴が来たもんだねぇ」


 スカーレッドがウンザリしたように言う。

 スカーレッドはローブの下に真っ赤なマントを羽織り、手には短剣を持っていた。

 俺はスカーレッドを指差して、言う。


「祝賀会で冒険者を襲撃したのはキミだろ?」


 その場にいなかったことから俺はその時の暗殺者はスカーレッドが犯人だったと推理する。

 ゲオルクもいなかったが、横に立っているのを見ると、メンバー同士ではゲオルクだけ身長が明らかに高いので他のローブで顔を隠しても他のメンバーに成り済ますのは無理だろう。

 しかし、スカーレッドは女性にしては身長が高めでサイスとライドリックとほぼ同じくらいので背丈があるから、顔や体型が隠せるローブを羽織れば成り済ますことが出来る。


「ゼティに邪魔されて、逃げ出したキミは仲間のサイスとライドリックの協力で無事に逃げ切った」


 ゼティが本気を出してりゃ、今頃、全員死んでただろうけどな。

 まぁ、その時の状況についてはゼティの説明でしか知らないから何とも言えない所ではあるけどさ。


「サイスとライドリックが追いかけたのは協力してスカーレッドを逃がすため。途中で二手に分かれた際、サイスは黒いローブを着て逃げるスカーレッドに成りすまして入れ替わった。ゼティが屋根の上で戦ったってのは戦闘スタイルからしてサイスで確実だしな」


 そしてゼティに斬られたサイスは屋根の上から地面に落下したが、そこをライドリックが救助してサイスを隠し、その間に充分な距離を取ったスカーレッドが姿を現すことで、ゼティを撹乱しようとしたとか、そんな所じゃないだろうか?

 世間ではサイス達は仲違いしてるって認識だし、協力して動くなんてことは想像つかないだろうし、この程度の仕掛けでも何とかなったんだろうが、生憎と俺に通じねぇ。


「ま、キミらのやってることは、だいたい分かるから誤魔化しても無駄だぜ? もっとも、もうそういう気も無さそうだけどな」


 五人は殺気を放ち、俺を見ている。

 真実を知る者は生かしておかないんだろう?

 いいね、思考で乱暴でさ。好きだぜ、そういう考え方。世の中には相手をぶっ殺すって解決が最善だってことが山ほどあるし、今だってそうだ。


「ずっと仲間同士で争うふりをしてまで、ここまで守ってきた物がぶっ壊されるのは我慢できねぇよな。そんでもって、その元凶を黙らせる方法は一つしかないとなれば、余計なことを言うよりも、やるべきことがるよな」


 俺を黙らせるには殺すしかない。そうしなきゃ、俺は黙らないし、その結果フェルムの平和がぶっ壊される。だったら、もうるしかないよな?


「御託を並べるのはもういいだろ。俺達がやるべきことはコイツを始末することだろうが!」


 ライドリックが背負った長剣に手をかけ叫ぶ。

 その横で体力が回復したサイスが立ちあがり、戦闘の構えを取って俺を見据えると同時に他のメンバーも武器を構えて、俺を見据える。


 あとはタイミングだ。


「いいぜ、来いよ」


 俺のその言葉を切っ掛けに、サイス達が動きだす。

 さぁ、戦闘開始だぜ。


「ぶっ殺す!」


 先陣を切って動き出すライドリックが声をあげ、背中の長剣に手をかける。

 そのまま、剣を抜き放とうとすると俺が思っていると、次の瞬間、雷が迸りライドリックの姿が掻き消える。

 俺は咄嗟にその場にしゃがみ込むと、気配が雷の速度で一瞬前まで俺の首があった場所を通り過ぎていった。


「俺の剣を初見で躱すかよ!」


 雷の速度で駆け抜けたのはライドリックであり、俺の横を通り過ぎたライドリックは滑り込むようにして全身でブレーキをかけながら、驚愕の声をあげる。

 俺の方もちょっと驚きだったぜ。嫌な予感がして咄嗟にしゃがみ込まなければ、首が落ちてたしな。


 まぁ、驚いてばかりもいられない。俺がライドリックの攻撃を躱すと同時に既にサイスが距離を詰めているからな。

 武器の形は見えないにしてもサイスの構えから槍であると判断し、俺が体勢を整えるとサイスは不可視の風の槍を俺に向けて突き出してくる。


「無駄話をしている間に体力は回復したかい?」


 そのために時間を取ってやってたんだけどな。


「黙れ」


 俺は顔面に突き出されたサイスの槍を頭を傾けて躱すが、サイスは即座に槍を横なぎに振って、俺の首を刎ねる軌道に変える。

 体力が回復したためか、俺の拳を食らった影響は見られず、攻撃の鋭さは先程と同じだ。しかし、それでは結局、俺の反応速度には追い付けないってことなんだけどね。

 俺は上体を大きく横に反らして、薙ぎ払いを躱すと、その姿勢のままサイスに前蹴りを放つ。

 突き飛ばすようなモーションの蹴りを受けたサイスは後ずさる。ここまでならさっきと同じだが──


「おらぁっ!」


 ──今回は人数が多い。

 サイスが攻撃を受けた直後にライドリックが割って入り、俺に向けて長剣を振るう。

 ライドリックの長剣も魔具か何かなんだろう、剣身が雷を帯びている。

 俺はその雷の帯びた刃を後ろに一歩下がって躱すと、その刃の振り終わりに合わせて左の拳でライドリックの顔面を軽く突く。


 牽制の一撃。

 全力で顔面を撃ち抜くには踏み込みのタイミングが良くなかったので、ジャブ代わりの一発で注意を散らす。

 そんな目論見通り、俺の拳を食らったことでライドリックの集中がほんの僅かにだが崩れる。俺はその隙を逃さず、ライドリックの太腿に蹴りを叩き込み、よろめいたライドリックの脇腹に即座に掌底をねじ込む。


 ──だが、ここまでだ。

 俺は攻撃の途中で体の向きを変えると、体勢を立て直して俺に飛び掛かってくるサイスを迎え撃つ。

 サイスは再び槍を構えて突進してくる。

 今度の狙いは胴体のようで、俺はそれを左に避けて躱すが、サイスの槍は俺の動きについてきて、その穂先が俺の顔面に向けて放たれる。


 俺はその突きに対して穂先ではなく、柄を叩くことで軌道をずらして防ぎ、同時に足を後ろに突き出す。

 背後から俺を狙っていたライドリックがその蹴りを食らって攻撃のタイミングを逃す。

 俺は振り返りながら、体勢を崩したライドリックの頭に振り返る際の回転の勢いのままに上段蹴りを叩き込み吹っ飛ばす。


「ライっ!」


 サイスが声を上げるが、吹き飛んだライドリックは平然と起き上がり、再び俺に向かってくる。

 その動きに合わせてサイスも連動して俺に攻撃を仕掛けてくる。


 遠い間合いからの槍による薙ぎ払い。

 俺はそれをしゃがんで回避すると、そこにライドリックが斬りかかってくる。

 しゃがんだ俺に対する振り下ろしの斬撃を、俺はしゃがんだ状態のまま体をねじって躱しつつ、その体勢から足を振り上げてライドリックの顔面を蹴り上げる。

 その瞬間、槍から双剣に風の刃の形状を変えたサイスが俺に攻撃を仕掛けてくる。

 俺はブレイクダンスの要領で足を振り上げた体勢のまま、体を旋回させて足を振り回しながら起き上がる。

 そんな動きをしたのにサイスは何も言わずに斬りかかってくる。奇抜な動きだとか反応が返ってくると思ったんだけどね。まぁいいや。


 突きから入るサイスの双剣の攻撃。俺はその攻撃をサイスに対して半身になって躱すと、一歩前に踏み出る。近づく俺を薙ぎ払おうとする、もう一本の剣を刃ではなくそれを振り回す腕を押さえて防ぐ。


「くっ」


 至近距離の密着状態から逃れようとするサイスに対して、俺は膝蹴りを鳩尾に叩き込む。


「サイスっ!」


 至近距離から攻撃を受けた仲間を見てライドリックが俺に向かってくる。

 俺はライドリックに向けて、ダメージを受けて硬直したサイスの体を突き飛ばす。

 仲間をはねのけるという選択肢を取れなかったライドリックは自分に向かってきたサイスを受け止めるが、それは俺からすれば致命的な隙だ。


「甘すぎだぜ」


 俺はサイスとサイスを受け止めたライドリックの二人に向かって飛び蹴りを入れ、俺の体重を乗せた蹴りを食らった二人が吹っ飛んでいき──


「アタシ抜きで遊んでんじゃないよ」


 吹っ飛んだ二人を踏み台にしてスカーレッドが俺に飛び掛かってくる。

 これで前衛が三人だ。ゲオルクとセレインの動きは──


「アタシを相手に余所見かい?」

「そんなことを言われても、俺はアンタの強さを知らないしな」


 飛び掛かりながらスカーレッドが短剣を振り下ろす。

 俺はそれを後ろに跳んで躱すと、スカーレッドは這うような姿勢で俺に追いすがり、足元を払うような軌道で短剣を振るってくる。


「真っ赤なマントに泥がつくぜ?」


 俺は、地面を這うスカーレッドを蹴り上げる。

 だが、その瞬間スカーレッドの体が燃え上がり炎の塊になる。

 俺の蹴りは炎となったスカーレッドの体を捉えるが、その一撃は火を蹴り散らすだけで、何の手応えも無い。


「どこを見てるんだい?」


 直後、背後から聞こえてきたスカーレッドの声。

 俺は前へ踏み出ながら声の方を振り向くと、短剣が俺の目の前に振り下ろされていた。


「これでも当たらないとは、とんでもない奴だね」


 振り返った先にいたのは体に炎を纏うスカーレッドの姿。

 正確にはマントが燃えていて、それを羽織っているから炎を纏っているように見えるというだけだ。

 おそらくスカーレッドの魔具はあの真っ赤なマントなんだろう。


「まぁいいさ。一息に仕留められないなら、ゆっくり始末するだけさね」


 短剣を逆手に持ったスカーレッドが俺に向かって駆け出す。

 フェイントも何もない真っ正直な突進。俺はそれに対して罠だと思いながらも、拳を突き出して迎撃する。

 直後、俺の拳はスカーレッドを貫くが、やはりスカーレッドの体が炎に変わり、俺の拳の風圧で散っていくだけ手応えも何もない。──ただ、なんとなく何をしているかは分かったがね。


「そこだろ?」


 俺は即座に背後に回し蹴りを放つと、背後にいたスカーレッドの体を捉える。ガードはされたが手応えがあったので、今度は本物だろう。


「チィっ!」


 俺は追撃の拳を放つが、スカーレッドは再び自分の体を炎に変えて、俺の攻撃を無効化する。

 何となく何をしているのかは分かって来たって言ったろ?

 スカーレッドの魔具は防御型の物なんだろう。自分の体を炎に変えて直接攻撃を無効化。その後、変化した自分の体を操作して、炎の状態で敵の背後に姿を現すとかしてるんだろう。


「初めて見られたはずなのに見切られるなんてね」


 散った炎が俺の目の前に集まりスカーレッドの体を形成すると、スカーレッドの実体が現れる。

 タネは割れたが、それでも諦める気配は無いようだ。


「まぁ、だからってアタシのやることは変わらないさ」


 言いながら、スカーレッドの体が炎に変わり、周囲に拡散する。

 何処へ現れる? 一瞬だけ俺の意識がスカーレッドだけに向く。

 だが、俺の相手はスカーレッドだけじゃない。


「うおおおお!」


 ライドリックがこりもせずに俺に向かってくる。

 最初の一撃はヤバかったが、それ以外に関しては一番大したことが無い

 俺はライドリックが振り下ろした剣を斜め前に鋭く踏み込んで躱しながら、懐に潜り込み肝臓に衝撃が通るような角度で掌底を叩き込む。


「ぐぅっ!」


 しかし、それでもライドリックは倒れない。ならば、もう一発──とはせずに俺は横に跳ぶ。

 すると、スカーレッドが俺が一瞬前までいた場所に真上から降ってくる。


「ライっ!」


 スカーレッドが呼びかけるとライドリックがスカーレッドを守るように前へ出ながら俺に斬りかかる。

 カウンターを入れられる隙は無かったので、素直に後ろに下がると、ライドリックの背に隠れていたスカーレッドがライドリックの背中を蹴って飛び上がり、俺に空中から奇襲をかけてくる。


「甘いぜ」


 俺は飛び掛ってきたスカーレッドをハイキックで叩き落とすが、蹴りが当たる瞬間にスカーレッドの姿は炎となって掻き消える。その瞬間、真横からサイスが入れ替わるようにして、槍を突き出してくる。


 近接戦闘で1対3とかクソ燃える展開じゃねぇか。

 残りのゲオルクとセレインの動きが気になるが、目の前の敵にもっと集中しよう。

 その方がもっと楽しめるし、こいつらのことが好きになれる。


「まぁ、既にだいぶ好きではあるんだけどね」


 俺は横から突き出された槍に対して、その場に倒れるこむようにして躱すと、地面に這う俺と同じように這いつくばる姿勢を取っていたスカーレッドの視線が合う。

 俺は転がるようにしてスカーレッドから距離を取ると、そこにライドリックが剣を振り下ろしてきたので倒れた姿勢で俺は足払いを仕掛けてライドリックを転ばせながら、足払いの勢いのまま体を起こして立ち上がる。


「よっしゃ、来い」


 言われるまでもないって感じでサイスとスカーレッドが同時に俺に襲い掛かる。

 サイスの方は風の刃を片手剣にしているようだ。

 先に俺に斬りかかって来たのはサイス。サイスが真正面から斬りかかってくると、スカーレッドが背後から俺に斬りかかってくる。

 振るわれるサイスの剣を左手で流しながら、俺は後ろに跳び、スカーレッドの懐に背中を向けた体勢で潜り込むと、そのまま肘をスカーレッドにぶち当てる。


「炎に変化してる時は攻撃できないんだろ?」


 だから、そっちの攻撃のタイミングに合わせれば、俺の攻撃も通る。

 ダメージを受けたスカーレッドが炎に変化し、その場から掻き消える。


「姉御! 合わせろ!」


 サイスが叫びながら正面から俺に斬りかかってくる。

 直後、俺の頭上にスカーレッドが現れ、ナイフを振り下ろしてきた。


 俺は素直に後ろに下がって、攻撃を躱すとサイスが即座に武器を槍に変えて俺に向けて突き出してくる。

 突き出される槍に対して俺は柄を弾いて防ぐと、俺の視界の隅でスカーレッドが動くのが見えた、スカーレッドは這うような姿勢で炎から実体化しながら俺の足元に飛び込んできた。


 一瞬だけ、視線がスカーレッドの方に向かうと、そこを狙ってサイスが武器を双剣に変えて飛び込んでくる。スカーレッドは下からサイスは正面からか?


「そんな素直には来ねぇだろ?」


 俺の直感がそう口にさせると、その予測は当たり俺の眼が釣られたスカーレッドの姿が炎となって掻き消える。直後、俺の正面から向かってくるサイスの姿が消えて、スカーレッドの姿が俺の頭上に現れる。


「これでどうだい!」

「どうにもならねぇよ」


 俺は奇襲を仕掛けようとして振り下ろされたスカーレッドの短剣を刃ではなく腕を掴んで止めると、その掴んだ状態のままスカーレッドを地面に向けて叩きつけようとする。

 そして俺が叩きつけようとした先にはスカーレッドと入れ替わりに地面を這うようにして俺に迫っていたサイスの姿があった。消えたように見えたのは、急に伏せたからで、いなくなったわけじゃないんだから迎撃の手段なんていくらでもある。


「チっ!」


 舌打ちをしながら、サイスは転がってスカーレッドを避ける。

 だが、その状態でもサイスは反撃を俺に加えようという意思はあるようで、転がった先で倒れた状態ながらサイスは俺に向けて槍を突き上げてきた。

 俺はその槍を首を横に振って躱すと、倒れるサイスを蹴り飛ばす。だが、その瞬間サイスは──


「今だライ!」


 そういえば一人忘れていた。

 それを思い出して俺はライドリックの方を見ると、ライドリックは長剣を背中に背負った鞘に納めていた。

 戦意を失った? そんなわけはねぇだろ。奴の眼は俺への闘志に満ち溢れてやがる──


 そんなことを考えていると突然、雷が迸りライドリックの姿が消える。

 俺は再び直感に従って体を屈め、今度は同時に左の拳を突き出した。

 直後、俺は左の拳に衝撃を感じて弾き飛ばされ、同時に俺の背後で激突音が轟く。

 俺は聞こえてきた音の方を見ると、そこにはライドリックが膝をついていた。


「見切られたってのかよ」


 ライドリックは血反吐を口からぶちまける。

 そりゃそうだ。なにせ雷の速度で拳を食らったんだから、そうなるよな。


「キミのそれも正体が分かったぜ」


 俺はライドリックの傍に落ちている長剣を指さして言う。


「スカーレッドのと似たような魔具なんだろう? ただし、それは炎じゃなく雷に自分を変えるっていう違いはあるがな」


 それと能力を使うためには剣を鞘に納めてチャージしないと使えない。

 で、チャージし終わったら剣を抜いた瞬間に雷になって超加速。

 チャージ一回につき超加速は一回。使ったら再チャージまで只の帯電した剣って感じか?


「スカーレッドの魔具より攻撃的だが、弱点もハッキリしてる。超加速の際には一直線にしか動けないってことと、発動中も実体化してるってこと。避けるなんて器用なことはできないから、超加速のルート上に拳を置けば実体化してるキミには簡単に当たる。そんでもって実体化してるからダメージも当然あり、自分から高速でぶつかりにいっているんだから、ダメージだって相当だろう」


 まぁ、拳をルート上に置いていただけの俺も痛いんだけどさ。


「こんなところだが、どうだろうか?」


 俺の推理は合ってるかい?

 雷になるってのはちょっと語弊があるかもしれないけど、状況的にスカーレッドと対応させた感じの方が伝わりやすいと思ったんだけど、どうでしょうか?

 それと「どうだろうか?」って質問は「立てるかい?」って意味も込めてるんだけど、実際どうだろう立てるんだろうかライドリックは?


 俺は5秒ほど様子を見て駄目そうだと判断してライドリックを始末しに動く。

 動ける奴は3秒で動くんだから、もう良いだろ?

 タネも仕掛けも割れてる奴はご退場してもらおうか。

 そう思って俺はライドリックとの距離を一気に詰め、膝を突いたライドリックに拳を突き出すが──


「流石にこの戦法では無理だ」


 いつの間にか現れたゲオルクが盾を構えて俺の拳を防いでいた。

 一瞬前までゲオルクとの距離はかなりあったはずなのに、一瞬で移動の気配もなく俺とライドリックの間に割って入った。

 こいつも何か面白い魔具でも持ってるんだろう。見ると何時の間にかライドリックの姿も消えている。


「サイス、スカーレッド! 状況を立て直す!」


 ゲオルクはそう言うと盾で受けた俺の拳を押し返し、俺に背を向けて距離を取る。

 そんなゲオルクにサイスとスカーレッドも合流して並び立つ。

 俺は残りの二人が何処にいるのか探すと、ライドリックは何時の間にそこにいったのかセレインの傍にいてセレインから魔術による治療を受けているのが見えた。


「人間だと思って戦うな。奴は底が知れん」


 ゲオルクがパーティーメンバー全員に指示を伝える。

 どうやらゲオルクが司令塔のようだ。ゲオルクの見た目は全身鎧に盾と片手剣のオーソドックスなスタイル。こういう奴が戦ってみると案外楽しかったりするんだよな。


「魔物を狩るように殺す。冒険者の戦い方を奴に見せてやれ」


 いいね、そっちも本気かい?

 こっちも楽しくなってきたところだし、望む所だぜ。

 さぁ、もっと楽しくろう。


 俺も段々とキミらが好きになってきてるんだ。

 だからまぁ、ガッカリさせないでくれよ。

 それだけがこの場における俺の願いってやつだ。




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