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様々な出会い

 

 世界最強って看板に書いておくだけでアホがいっぱい釣れて楽しいぜ。

 俺の賭け試合は大盛況。

 人が集まるとアホも集まり、人が増えれば自然と俺に戦いを挑んでくる奴も増える。世界最強だなんて俺がホラを吹いているだけだと思って挑んでくるんだわ。

 俺としては願ったりかなったりだぜ。戦いを挑んでくる奴が増えれば増えるほど、俺は金を稼げるし、楽しい戦いの時間が増えるからな。


「ほらほら、どうしたどうした! 次に俺に挑んでくる奴はいねぇのか!」

「俺がやる!」


 重要なのは倒せそうな雰囲気を出すことだ。

 昨日は宣伝のために圧倒的な強さを見せたが、長くやっていくには、もしかしたら勝てるんじゃないかって思わせないといけない。そうしないと挑戦者が来なくなるからな。

 勝てば賞金が貰えるとはいえ、戦っても勝てそうにない相手に金を払うなんてことはしないからな。


「オラァッ!」


 村一番の力持ちって感じの田舎者が力任せに腕を振り回して俺に殴りかかる。

 素人のパンチだ。素人同士の喧嘩なら、力任せに振り回すだけのパンチでも充分なんだろうし、実際にそれで喧嘩に勝ってきたんで自信もあるんだろう。しかし、そんな程度じゃあ俺には効かないけどな。


 躱すのなんかは容易い。けれども、俺は躱したりせずに田舎者のパンチをガードする。

 なんで避けないかって? そんなもんコイツが客だからに決まってる。お客さんには多少なりとも良い気分を味わって帰ってもらわないとな。


「オラオラ! どうしたぁ!」


 力任せに何度も振るわれるパンチを俺は腕で受け続ける。

 俺相手に一方的に攻め立てる田舎者に対して、観衆が歓声をあげ、その歓声を受けた田舎者が人生で初めて体験に高揚する。


 生まれて初めて人に注目されたんだから、そりゃ良い気分だろう。こういう良い思いも味合わせてやらなきゃ、挑戦者リピーターは掴めないんだよね。

 実際の生活がどんなに惨めなクソでも俺に戦い挑んでいる時はヒーローになれる。俺はそういう場を提供してやってるのさ。


「オラァ!」


 でもまぁ、だからって負けてやるわけにはいかないけどな。

 田舎者が大振りに振るう拳に対して、俺はカウンターのアッパーカットを顎先に叩き込み、意識を刈り取る。

 倒す時も負けた瞬間が分からないように一瞬で決めてやる。惨めな敗北の瞬間を味合わせることもない。

 夢のような時間は夢のままで終わらせてやるのがエンターテインメントってやつさ。


「ヘイヘイ、次はどいつだ? 世界最強のアッシュ・カラーズ様に挑戦する奴は? みんなビビってる? そんなわけないよなぁ! 俺をぶっ倒して最強の称号が欲しい奴はいっぱいいるだろ?」


 ひたすらに煽ると挑戦者が現れてくれる。

 さっき田舎者の拳をガードしたせいで腕は痛いが、まぁ問題はない。


「次は俺だ」


 煽った結果、次の挑戦者はちょっと今までと雰囲気が違う奴になった。

 歳は三十代半ばから四十代前半の、質の良い装備に身を固めた歴戦の戦士が俺の前に現れ、銀貨を投げつけてくる。


「おいおい、あの人は……」


 挑戦者を姿を見て観衆が息を呑む。

 どうやら有名人のようだが、それは俺にも気配で分かる。かなり腕が立つこともな。


「得物は木剣それを使えば良いのか?」


 挑戦者が俺に訊ね、リングの端に立てかけられている木剣に目をやる。


「真剣を使っても良いけど、その場合は銀貨三枚な」

「昨日は真剣でも一枚だったようだが?」


 それは、昨日はデモンストレーションだったからね。演出上の派手さを狙ったのよ。

 普通にやるなら安全も考えて木剣とかを使うのさ。まぁ、真剣でも俺はそこまで困らないんだけどね。


「まぁいい、これを使わせてもらおう」


 そう言って挑戦者は木剣を手に取ると同時に俺に斬りかかる。

 ちょっと違うと感じていた通り、挑戦者の攻撃はここで戦った連中の中で最も鋭い一撃だ。

 なんの躊躇もなく放たれた首を刎ねる軌道の剣撃を俺はその場にしゃがみ込んで躱し、同時に蹴りで挑戦者の足を払う。


「ぬっ?」


 足を払われて地面に倒れながらも挑戦者は受け身を取り、即座に転がって俺から距離を取る。


 躊躇の無い鋭い攻撃に反応の良さ。かなりの上物だ。

 ちょっと好きになってきちゃったぞ。


「名を聞こう」


 挑戦者が俺に問う。

 昔だったら先に名乗るのが筋だろうって言い返すんだが、長く生きてるとそういうことが気にならなくなってくるんで、俺は素直に名前を答えてやる。


「アッシュ・カラーズだ。そっちは?」

「ガウロン・ヴァシリフ。冒険者だ」


 ガウロンが名乗ると観客がガウロンに歓声をあげる。

 どうやら、相当に有名人なようだ。


「俺の所の若い奴が世話になったようでな。俺の《クラン》の有望な若手を倒した奴がどんな面なのか拝もうと思っただけなんだが——」


「ちょっと手合わせでもしたくなったってか?」


「その通りだ!」


 ガウロンが剣を上段に構え、距離を詰めながら振り下ろす。

 俺はその攻撃をバックステップで躱し、相手の剣の振り終わりに合わせて前に出ながら、左のジャブを放ち、俺の拳が確かにガウロンの顔面を捉えるが、ガウロンは怯むことなく剣を振って反撃する。

 至近距離で横薙ぎに払われた剣を潜り込むようにして、懐に飛び込みながら躱し、俺は右拳をガウロンの脇腹に叩き込む。

 今までの相手ならこれで終わっていたが、流石にこれまでの奴らとは違うようで、ガウロンは倒れずに耐えるが、打撃の勢いまでは殺せずに後ずさる。


「まだまだ!」


 ガウロンは戦意を衰えさせずに俺に向かって来る。

 マズいな、どんどん好きになってきちまう。そんな風にる気満々とか俺の好みだぜ。

 ちょっと全力で殴ってみようか? きっとコイツは俺の好きに応えてくれるし大丈夫だよな。

 そう思って向かって来るガウロンを見ながら、俺は拳を握りしめ——しかし、脳裏に口から内臓をぶちまけているガウロンの姿が思い浮かび、俺は拳の握りを緩める。


 悪い癖だ。ちょっと気に入った相手には無茶をやっちまう。それで、どれだけの人間をぶっ壊してきたことか、数えきれないほどだ。それを思えば、ちょっとは自重しないとな。


 そんな余計なことを考えていたら、ガウロンの攻撃への対応が遅れる。

 ガウロンは渾身の力で俺に対して剣を振り下ろしている。避けられなくもないがタイミング的に万全ではなく、避けたら追撃をくらうパターンだ。となれば、俺が取るべき対応は——


 一瞬の思考の末に結論を出した俺はガウロンの攻撃に合わせて一歩踏み込む。

 直後に振り下ろされた木剣が俺の頭に直撃するが、砕けるのは木剣の方だ。折れるというよりも爆発するようにしてガウロンが振り下ろした剣は俺に直撃した同時に砕け散った。


 驚愕し、動きが止まったガウロンの襟首を掴み、俺はガウロンを投げ飛ばして地面に叩きつける。

 背中を強打し、息が止まるガウロンに対し、俺は顔面に拳を突きつけて、勝敗は決したことを分からせる。


「参った」


 ガウロンはあっさりと負けを認めると、息を整え立ち上がる。

 負けた割にはさっぱりとした顔だったんで、ちょっと意外だったね。有名人みたいだったから、もう少しゴネるかと思ったんだけどな。


「最後の技は?」


 技っていうのは木剣を粉砕したことを言っているんだろう。

 別に隠すような技でも無いんで俺は勿体ぶることなく教えることにした。


「発勁だ」


 気とかそういうオカルト染みた物じゃなくて、れっきとした技術だよ。

 勁とかいうと魔力的な物っぽいけど、実際には運動エネルギーのことで、その運動エネルギーを適切に伝導させて、狙った所に収束させるのが俺の発勁って感じ。

 さっきの場合は、ガウロンの剣に合わせて、踏み込んだ時の勁を足から腰を通して頭にまで到達させて、ガウロンの剣が触れたと同時に勁を解放し、その衝撃を剣に伝えて粉砕したんだ。


「聞いたことのない技だが、流派は?」

「……アメリカン中国拳法」


 ネタっぽく聞こえるけどガチだからな。他に上手い訳し方がねぇんだよ。

 アホみたいな名前だけど歴史は深いんだぞ。

 始まりは西部開拓時代に遡るし、禁酒法時代に猛威を振るっていた歴史もある、名前の割に由緒正しい武術だからな。


「聞いたことは無いが覚えておこう」


 できれば忘れてくれると助かるんだけどな。

 決着がついたことを理解したのか、状況をようやく把握したのか観客が遅れて歓声をあげて、俺の勝利を讃える。


「いや、本当に見事な腕だ。まだまだ本気には程遠いようだしな」


 そりゃあね、本気を出すと世界が滅ぶからね。本気は出せませんよ。

 ガウロンは俺の爪先から頭の先までジロジロと眺め、少し考えたうえで何かを口にしようとする。だが――


「いやはや、まさかラザロスに留まらずイクサス伯爵領でも最高の冒険者と名を馳せるガウロン殿をこうも易々と打ち負かすとは最強の名は騙りではなかったようだ」


 ガウロンが口を開こうとした矢先、何者かが俺とガウロンの間に割って入ってきた。

 声の方を見ると、そこには立派な鎧を身にまとった若い騎士がいた。青い髪の酷薄そうな印象を与える青年だ。あまり日頃の行いが良くないタイプに見えるが、実際はどうなんだろうね。


「誰だ?」


 ガウロンに聞くとガウロンは舌打ちをして俺に背を向け、その場を立ち去る。

 観客も静まり返って、帰り支度を始める奴らもいる有様だ。こうなったら、もう今日は店じまいだろうな。

 結果的に商売の邪魔をした騎士に対して、俺はちょっとだけ不快な感じの顔になるが、騎士はどこ吹く風って感じで俺の不快感など関心を持たない様子だった。


「私はこの地を治めるイクサス伯爵に仕えるギースレインと申します。ラザロスの町の代官から貴方を迎えにあがるように命を受けて参りました」


 迎えに来た割には、ちょっと感じが悪いのは気のせいかな?


「えーと、ギースレインだっけ?」

「どうぞ、ギースとお呼びください」


 はは、思っても無いことを。顔は笑ってるけど剣呑な雰囲気が漏れてるぜ、お坊ちゃん。

 パシリをやらされてるのが面白くないのかな?


「じゃあ、ギースレインさん。ちょっと分からないんですが、なんで代官様が俺をお呼びなんですかね? 俺は昨日この町に着いたばかりなんで、どうして俺のことを知っているのかも疑問なんだが」


「代官殿が貴方のことを知っているのは、貴方が昨日、代官殿に仕える騎士を倒したからです」


 あぁ、そういえば鎧を着けている奴とも戦ったね。あいつが代官の騎士だったのかな?


「貴方を呼びつける理由については代官殿に直接お聞きください」


 了解しました。じゃあ、その代官の所に行ってみようかね。

 別に断る理由も無いし、それで厄介事になるのなら大歓迎。何事もなくダラダラと過ごすよりは事件が起きる方が良いしな。

 できれば、代官が俺に難癖付けてくれると最高なんだがね。





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