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考えたことは

 

 地命石と冒険者の体の中にあった宝石は同じ物ように見える。

 まぁ、見えるだけで実際には違うものの可能性もあるから、ちゃんと調べるんだけどな。

 俺は地命石と冒険者の腹の中にあった石の表面を削ってそれを顕微鏡で調べる。


「なるほど石というよりかは微生物の集合体みたいなものなのか」


 顕微鏡で拡大した石の表面には冒険者の血中にいた微生物と同じものが生息している。琥珀色の部分も詳しく調べてみると微生物の分泌物だった。なるほど、これが体内にあれば、血中に微生物が生息していてもおかしくないよな。

 俺は冒険者の体内にあった石を割って断面を観察してみると、石の断面はいくつかの層になっていて段々と大きくなっていったことが分かる。ということは、最初から大きなサイズであったわけではなく、体内で徐々に大きくなっていったってことだろうか? とはいえ、そうなるときっかけの何かがあるはずで最初に体内に入った微生物がいて、それが巣を作るっていう流れがあると思うんだが──


 俺はふと気がついて自分の血を採取して調べる。すると、俺の血液の中にも冒険者たちの血液にいた微生物と同じものが僅かに発見できた。


「これが増えると体内で地命石が生成されるのか?」


 面倒臭いから腹の中から取れたのも地命石ってことにしておこう。

 組成的には全く同じみたい物だしな。


「問題はどうやって俺の体内に入ったってことだが……」

「なにか手伝うことはあるか?」


 手持無沙汰なゼルティウス君が俺に話しかけてきたが、今は頭脳労働の時間なのでゼティは邪魔なだけだ。俺は身振りだけでアッチに行ってろと伝えて思索にふける。


「体内に入った経路として考えられるのは──」


 俺はダンジョンで手に入れた地命石を適当な容器の中に入れてみる。

 考えられるものとして可能性が大きいのは空気中に地命石の中に生息する微生物が散布され、それを空気と一緒に吸引してるって可能性と、地命石を触った際に手や指に微生物が付着する可能性か。


 そうして可能性を考えながら調べてみて分かったことは、地命石はそのままの状態でも微生物を撒き散らしていること。だが、その量は微量なので直ちに影響が出ることはなさそうだということ。この微生物にとって大気は毒であり空気に撒き散らされた状態のままでは長く生きられないようで危険性は少なそうだ。

 ただし、皮膚などに大量に付着した場合はその限りでなく、皮膚の水分などを養分に増殖し、これが付着していることに気付かずに口元を手で拭うなどした場合、微生物が体内に侵入し、増殖して最後には地命石を体内に作り、その宿主を魔物に変えるって感じだろうか?

 危険性は少ないといったが、空気中の微生物を吸った場合も量が多ければ同じことになるだろう。皮膚に大量に付着した時と同じことが起こるだろう。


「ろくでもねぇなぁ」


 冒険者達が必死でダンジョンを攻略して、その証を手に入れたと思ったら、それは自分を魔物に変える呪いのアイテムだったとかさ。やることがえげつねぇぜ。

 コルドールの地下迷宮は最初はなから人間を害するって目的で作ってたんだろう。

 腹から地命石を抜き取った冒険者の呼気を調べてみたら、息の中に地命石の微生物がいたし、地命石が体内で作られた奴は息をする度に周囲に地命石を作る微生物を撒き散らしていたってことも分かった。


 まぁ、考えてみりゃそうだよな。

 そんな冒険者にだけ都合の良いような場所を用意するわけがない。

 ダンジョンを作った奴にも目的があり、コルドールの地下迷宮の場合は地命石を持ち帰らせて、持ち帰った奴とその周囲の奴を魔物に変えるのが目的だったんだろう。


 それならダンジョンの入り口に置いておけば良いって考えたくもなるが、それに関しては宿主になる奴をある程度、選別する意図があったんだろうな。ダンジョンの奥にまで来れる奴なら、そうそう死ぬことは無いからな。

 すぐに死んだ場合、地命石が体内で生成されないから、なるべく長生きする可能性が高い奴の方が好ましい。そう考えた場合ある程度の実力は無いと困る。

 それとダンジョンの入り口近くに置いた場合、手に入れる奴が増えて、結果的には体内で地命石が出来るくらいまで長生きする奴も増えるだろうが、そうなると逆に体内に地命石があると露見する可能性も増えるわけだし、ある程度は人数を絞りたいって意図もあったのかもな。


「さて、じゃあ整理してみようか」


 俺は自問自答を始め、情報の整理と推理を開始する。

 とりあえずダンジョンを制覇した冒険者は地命石を入手していたと思って間違いない。

 その場合、体内に地命石が出来ているだろうから、魔物同然の人間だっただろう。

 洗脳状態とゼティが感じていたのは思考の殆どを地命石の微生物が侵食していたからだと俺は推理する。分類上は真っ当な生物じゃなく、魔術的に作られた生物だろうからそれくらいはできるだろうってのが俺の推理だ。

 体内に地命石を持っている奴は呼吸する度に微生物を撒き散らして、自分と同じように微生物が体内に侵入し体内に地命石を生成して、魔物に変える。そうなったらもう生きているだけで魔物を増やす兵器だ。


「おそらく、最初に殺された冒険者パーティーも同じような状況だったんだろう」


 ダンジョンを制覇していたというし、体内に地命石があったんじゃないだろうか?

 まぁ、確証はねぇけど。ちょっと探ってみた限りでは、死体はすぐに火葬されたみたいだから調べることも出来なかったしな。とりあえず、その可能性は高いってことで考えを進めて行こう。


「じゃあ、そいつらを狙った暗殺者の目的は?」


 狙われたのは、どちらも冒険者だ。

 フェルム周辺のダンジョンを全て攻略する直前の連中だから、同業者がダンジョン全制覇の名声を奪われないように暗殺しようとしたっていうのが動機と考えられていたが、どちらも地命石を体内に持っていて、フェルムの住人を魔物にする可能性があったからっていうのが暗殺される理由だったら?

 暗殺者はフェルムの住人を守るために冒険者を殺していた可能性だって考えられる。そしたら、暗殺者は実は正義の味方だったってことか?


「まぁ、その可能性もあるよな」


 だけど、それなら、もっと早くに処理しておくことも出来たんじゃないか?

 いや待てよ、ダンジョンを三つ制覇したっていう冒険者はギュネス商会とピュレー商会っていうフェルムでは新参の組織に属していた。

 新参の組織ってことはルールを知らなかった可能性もある。もしかしたら、俺が知らないだけでフェルムの冒険者の間では何かしらの掟が──


「いや、そうじゃねぇな」


 掟ってルールじゃなくて誰かが管理してる可能性は?

 フェルムの冒険者が地命石を入手できないように管理しているってことは考えられないか?

 一つのダンジョンでこれなんだから、他のダンジョンにも地命石と同じように人々を害するような罠があって、それを知っているから管理している奴がいるって可能性は?


「ギュネス商会とピュレー商会の連中は新参だから、何も知らずにダンジョンを三つも攻略してしまい、暗殺者を仕向けられたとか考えることは出来ないか?」


 口封じやら軌道修正で済む段階ではなくなったので始末したとか?

 ありえなくはないと思うが……まぁ、半分以上が俺の想像だから、これを真実と思い込むのは良くねぇな。


「考えなければいけないことは何だ?」


 ダンジョンの攻略を管理する? だが、それを公にしたら、冒険者の街であるフェルムの活気は失われるよな。

 ダンジョンに潜る冒険者でフェルムは成り立ってるわけだしな、自由に攻略できなくなれば冒険者はフェルムに魅力を感じなくなり、活気も失われておかしくない筈なのに、そんな様子が見られないということは、公に管理しているわけじゃない。


 じゃあ、古参のギルドが秘密裏に管理しているってことか? それができるほど、各ギルドの連携は良いのか?

 これは考えることじゃない。これは思い出すべきことだ。各ギルドのトップ連中の事を思い出せ。

 ギュネス商会の冒険者パーティーが殺された時に集まった冒険者の顔ぶれを思い出そう。そうすれば連携に関しては納得はできなくもない。


 だけど、本当にそうか?

 地命石とかのダンジョンを攻略した際に起きることを古参の冒険者ギルド全員が本当に知っているだろうか?

 秘密ってのは知っている奴が増えれば増えるだけ、どこかから漏れる。全員が知っていたら隠しきれないはずだ。それなのに誰も知らず冒険者はダンジョンの攻略に力を注いでいる。

 ということは真実を把握しているのは一部なんじゃないだろうか。そして、その一部の真実を知る連中がダンジョンを攻略した冒険者達を始末するために暗殺者を送り込んでいるとかか?


「じゃあ、その真実を知っている連中って誰だ?」


 冒険者が持ち帰ってきた地命石の危険性を知っていて、その末路がどうなるかも分かっている連中だ。

 考えるまでもねぇ。いるじゃねぇか、ダンジョンのことを誰よりも良く知っているはずの連中がさ。


 さて、そうと分かったら色々と聞かせてもらいに行こうかね。

 フェルムやダンジョン、そういう諸々についての話をさ。




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