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暗闇の中

 

 会場の全ての灯りが消え、その場が暗闇になった瞬間、ゼルティウスが取った対応は冒険者の身を守るという物だった。

 辺りが暗闇に包まれると同時に、ゼルティウスは誰かが声を上げるよりも早く動き出し、真っ暗な会場の壇上へと走り出していた。

 隣に立つ人の顔も見えないくらいの暗さであるが、会場内の人の気配を読んでゼルティウスは人と人の間を駆け抜け、一瞬で壇上へと辿り着く。


 壇上にある人の気配は七つ。

 灯りが消える直前に壇上にいた人数が六人だったことは憶えているので、一つ増えた気配が怪しいとゼルティウスは判断する。

 灯りが消えた瞬間、暗闇の中でを狙って冒険者たちの命を奪おうという計画なのだろう。それを察したゼルティウスは一瞬の躊躇いもなく、冒険者たちの前に躍り出る。


 暗闇に目が慣れていないため、視覚で冒険者たちの位置を把握することは難しいが、気配と灯りが消える直前の位置関係から冒険者たちの場所を推理し、そして壇上で唯一動く気配を読み、ゼルティウスは暗殺者と冒険者たちの前に立ちはだかることに成功していた。


「いったい、何事だ!」


 会場にいた人々が声を上げ始める。

 ここまで灯りが消えて数秒に満たない間の出来事である。

 ゼルティウスが会場の隅から、壇上にまで辿り着き、冒険者たちの身を守るために動くまでにかかった時間はそれだけだった。


「チッ……」


 暗闇の中、迫ってくる気配の方から舌打ちが聞こえたのをゼルティウスは聞き逃さなかった。

 暗殺者からすれば、ゼルティウスが瞬間移動してきたようにしか見えない。一瞬で計画が潰されたのだから舌打ちもしたくなるだろう。


 しかし、それでも暗殺者は動きを止めず、標的の前に立ちはだかるゼルティウスを先に排除しようと短剣を抜き放つ。


「おい、何が起きている!?」

「早く灯りをつけろ!」


 客が騒ぎ出したのと同時に暗殺者は短剣でゼルティウスに斬りかかった。逆手に持った短剣が喉を斬り裂く軌道で放たれる。

 まだ目は暗闇に慣れていないので、相手の姿は輪郭でしか把握できない。しかし、気配だけでゼルティウスは暗殺者の刃を躱す。

 身体を僅かに反らして、首を狙って放たれた刃を紙一重で躱されたと判断した暗殺者は即座に短剣の軌道を変えると、一歩踏み込み、逆手に持った短剣をゼルティウスの腹に突き立てようとする。

 至近距離で予備動作の少ない攻撃、並みの相手ならたじろぎ判断を誤る攻撃をゼルティウスは苦も無く対処、突き刺そうとする腕を手で叩き落として、攻撃自体を止める。


 それでも暗殺者は止まらない。

 冒険者たちを始末するためにはゼルティウスを倒さなければならないからだ。そんな相手に対し、ゼルティウスも反撃に出る。


 ゼルティウスの腕が鋭く振られ、咄嗟に暗殺者は短剣で防御を固める。次の瞬間、金属と金属のぶつかる甲高い音と僅かな火花が壇上に生じる。


「なんだ!?」

「誰か戦ってるのか?」


 そこでようやく会場にいた人々も壇上の冒険者たちもゼルティウスと暗殺者の存在に気付く。

 すぐそばで殺し合いが起きているのに気づかない冒険者たちが間抜けに見えるかもしれないが、むしろ、これはここまで騒ぎにならなければ気づかれないほど、暗殺者とゼルティウスの気配を消す技術が見事であったことの証拠でもある。

 ゼルティウスがいなければ暗殺者は容易く冒険者たちを暗殺していただろう。この場にゼルティウスがいたのは暗殺者にとっては不運であったが、冒険者たちにとっては興奮であった。


「暗殺は失敗だが、どうする?」


 ゼルティウスは尋ねるが、暗殺者は何も言わない。

 ここでアッシュならば見逃すのだろうが、ゼルティウスは見逃すようなことはしない。

 ゼルティウスも「どうする?」と聞いたが、それはどう死にたいかという確認である。アッシュならば逃げても良いというだろうが、ゼルティウスにそんな甘さは無い。そして、どう答えようが殺すのだから。答えを待つ気もない。


 ゼルティウスの手が再び鋭く振るわれ、暗殺者は逆手に持っていた短剣を順手に持ち替え、顔の前に構える。

 直後、再び金属音が鳴り響き、暗殺者の短剣は弾かれ、暗殺者も体勢を崩す。辛うじて防ぐことは出来ているが暗殺者はゼルティウスの使う武器について全く見当がつかない。腕の振りから短剣よりもさらに短い武器であるということくらいは分かるが、それ以上のことは分からない。


 そんな暗殺者の困惑をよそにゼルティウスが再び仕掛ける。

 小さな武器を指先で持ち替えると逆手に握った武器で、暗殺者に斬りかかった。


 その動きは暗殺者も使っている短剣と同じ動きで、それを見て暗殺者はゼルティウスの武器を短剣に類するものだと察するが、肝心の刃が小さく、暗闇で隠れていることもあって全容が把握できないでいた。


 しかし、短剣のような武器であるならば、同じ武器の使い手である以上、対処の仕方は分かる。そう思って、防御の後、反撃の機会を窺おうとするのだが──


 そう考えた直後に暗殺者の腕から血が流れる。

 防ごうと短剣を構えた矢先、短剣を握る腕が斬りつけられたためだった。

 咄嗟に反応して暗殺者も短剣を振るが、その短剣は簡単に弾かれ、返す刀で短剣を振った腕を斬りつけられる。更に暗殺者は短剣でゼルティウスと突こうと腕を伸ばすが、その突きはゼルティウスが手に持った武器で簡単に弾かれ、逆に伸ばした腕に武器を突き立てらえる。


「ぐぅっ」


 思わず暗殺者の声が漏れるが、何らかの手段で声を変えているのだろう、ゼルティウスの耳に届いたのは人工的な音声だった。

 男か女かも判断はつかないが、それは始末してから考えれば良い。ゼルティウスは暗殺者の腕に突き立てた武器を引き抜き、追撃を狙う。

 その時、暗殺者の目に映ったのはゼルティウスが手に握る武器。それは会場で使われていたテーブルナイフ。丸腰で挑む危険を感じたゼルティウスは壇上に駆け寄る際に祝賀会で使われていたテーブルナイフを拝借していたのだった。


 そのことを理解した暗殺者はゼルティウスに勝つことは不可能であると判断する。

 武器ですらない道具で勝負にならないのだから、今の混乱が収まってゼルティウスに真っ当な武器が渡されたら絶対に勝てないと考えるのは自然なことであった。


 ナイフを暗殺者の腕から引き抜いたゼルティウスが斬りかかる。

 右手に握った逆手のナイフが首を薙ぐ軌道で振るわれ、暗殺者は後ろに下がってそれを躱すが、ゼルティウスはナイフを即座に斬り返し、再び首を薙ごうとする。

 暗殺者は更に後ろに下がり躱すがそうした瞬間、ナイフを順手に持ち替えゼルティウスが突きを放ち、放たれた突きが暗殺者の頬をかすめる。


 ゼルティウスが本格的に攻勢に出た瞬間、暗殺者は反撃に転ずることも難しくなっていた。

 ゼルティウスの本来の武器は剣であるが、それには短剣も含まれており、テーブルナイフであろうが、達人であるゼルティウスが握れば並の武器を上回る働きを見せる。


 とはいえ、ゼルティウスも余裕があるわけでもない。傍目には圧倒しているように見えるが、ゼルティウスの内心では紙一重の気分であった。

 その理由はアスラカーズがゼルティウスに施した呪いのせいだった。ゼルティウスだけでなくアスラカーズの配下全てとアスラカーズが自分自身にかける呪いは過剰な戦闘能力を抑制するものであり、それは自分より劣る相手に全力を出すことが出来なくなるものであり、単純に身体能力を落とすだけでなく技術すら封印する。

 今のゼルティウスもその呪いが発動している状態であり、本来ならば既に数十回は目の前の暗殺者を始末することはできたのだが、アスラカーズの呪いがそれを阻んでいた。


 鬱陶しい……そんな思いをゼルティウスは抑える。

 戦闘の最中、ゼルティウスはこれまでの戦いの中で身に着けた戦闘技術を集約し、目の前の暗殺者専用の剣術を組み上げようとするのだが、それをしようとした瞬間、呪いによって頭の奥がビリビリと痺れ、自分の記憶と経験がぼやけて思い出せなくなる。

 そこまで呪いが酷く作用するのは、相手との力の差が極めて大きい場合や、戦ってる相手に対して絶対的な有利を取れるような技術や経験を有している場合に限り、今回のゼルティウスの場合は目の前の暗殺者を簡単に仕留められるような技を有していたため、その技を呪いに制限させられていた。

 戦いの最中に有効な手段を記憶や経験の中から思い出そうとする度に記憶が吹き飛び、その際に意識も飛びそうになるのだから、目の前の敵を圧倒しているように見えてもゼルティウスに余裕はない。


「誰か灯りをつけろ!」


 周囲が騒がしくなり、誰かが燭台に再び火を点けて灯りを点け始める。

 ゼルティウスは暗殺者の襲撃を防いでから、ここまで二、三分の出来事だ。


「ここまでだな」


 段々と会場に灯りが戻り、暗闇に隠れていた暗殺者の姿が明らかになる。

 ……といっても、暗殺者は黒いローブで身を包んでおり、顔も体型も判断がつかない。


「おい、アイツは何だ!」


 いつの間にか壇上に立っていた黒いローブ姿の人物を見て客が騒ぎ出す。

 こうなってしまっては暗殺などは不可能だ。壇上の冒険者たちを守ろう、警備の兵が押し寄せてくるのを見て暗殺者は逃亡を決意し、ゼルティウスに背を向ける。


「逃げられると思っているのか?」


 ゼルティウスも暗殺者を追いかけようと動き出すが、立ち位置の関係で一歩及ばず暗殺者は会場の窓を蹴破って、屋敷の外へと脱出する。

 窓の外は三階以上の高さであるが、その程度の高さでどうにかなるような身体能力じゃないのは先程まで刃を交えていたゼルティウスは理解している。

 ゼルティウスは一瞬の躊躇もなく、暗殺者を追って自分も窓の外へと飛び出した。


「俺達も追うぞ!」

「当然っス!」


 ゼルティウスに一瞬遅れて、会場にいた冒険者達も暗殺者の追跡に動き出す。そんな中で暗殺対象となっていた冒険者達は呆然とするだけで動こうとしなかったが、暗殺者の襲撃という混乱の中、誰もそちらを気にかけるような余裕はなかった。

 追跡に動き出そうとした冒険者達の中で先陣を切ったのはライドリックとサイスの二人。状況の把握もそこそこに、この二人も一瞬の躊躇もなく窓の外へと飛び出す。


 しくじり、逃亡する暗殺者とそれを追跡するゼルティウスとライドリックにサイス。

 まだ夜は終わりそうになかった──



〈ゲーム的に表現した場合〉

『アスラカーズの加護(呪い)』

・レベルが無限に上げられるようになる

・ステータスが無限に上げられるようになる

・物理戦闘系のステータスとスキルに特大のプラス補正

・自分よりレベルの高い相手に勝利するとステータスにボーナス

・ピンチになればなるほどステータスにプラス補正

・性格が好戦的になる

・平和的解決の選択肢が選べなくなる

・自分よりレベルの低い敵との戦闘時、レベルキャップ発生(敵のレベル+5が自分の上限になる)

・自分よりレベルの低い敵との戦闘時、全ステータスに特大のマイナス補正

・自分よりレベルの低い敵との戦闘時、スキル封印

・自分よりレベルの低い敵との戦闘時、装備が制限

・自分よりレベルの低い敵との戦闘時、敵のデータ閲覧に制限



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