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碧い瞳の少女と、燈の魔法

 俺の名は……名はいいだろう。一人の騎士を目指していただけの男だ。

 昔は奴隷だった。その前は農民の子供だった。

 俺の村は一人の冒険者によって救われたが、その支払の現金収入のために俺は奴隷として売られた。

 そして俺を買ったのは、その冒険者だった。

 それが俺の昔の主であり、名はペリータという。

 桃色のウェーブ髪で、人形のような澄ました顔で冷たい瞳をした小さな少女だ。

 ペリータというのは本当の名ではない。

 彼女の名、水姫プリンテサアペリアが当時の俺は上手く言えず、ペリータと呼んでいた。


 俺は、倒れた俺と彼女を助けた騎士に売られた。

 その事に少なからず俺はショックを受けた。

 しかし俺はいつか元主のペリータ様の力となるため、騎士を目指した。

 そして従者となり、従士となった。


 しかし俺は、2年と少しの間連れ添った主である騎士を失う事となる。

 それはフニャシア公国がわずか100名でトラヴィニア王国を攻め込んだ時の事。

 アラキア平野の戦いだ。

 我が主である騎士は、いつも自慢していた槍を突くこともなく、家に誇る剣を振るう間もなく、死んだ。

 馬が魔法で足を取られ、石を投げられて死んだ。

 その戦いはおおよそ、戦争と言えるものではなかった。

 トラヴィニア軍の方が圧倒的に数は多く、しかも王宮魔法使いも駆り出されていた。

 しかし結果は虐殺と言っていいものだった。それほどまでの戦力差だった。

 そしてそれを作ったのが、俺の元主のペリータ様だった。


 その姿を戦場で見た時はまずは驚いた。

 そして悲しんだ。

 何にだ。何もかもだ。

 慕っていた方が敵にいて、王国軍を恐怖に陥れ、そして俺は何もできなかった。

 王国に対しても、彼女に対してもだ。


 王国は王都を失い、王と王都民は別の町へ移った。

 そして俺は東の地で冒険者となった。




「おい〈燈の剣〉、起きてるか?」


「ん? あ、ああ……。少しぼぉっとしていた」


「……ただの監視で暇とは言え、しっかりしろ」


 隣の女は俺の冒険者パートナーだ。

 黒髪のボブカットで切れ長の目の女性だ。元は王都の奴隷で、俺と同じように東の地に逃げたらしい。


「しかしまたこっちの方へ戻ってくるとはな。〈霧の声〉もそう思うだろ?」


「依頼を受けたのはお前だ。全く私頼りの仕事を請け負って」


「荷物は俺が持っているじゃないか」


 彼女の過去は多くは知らない。

 人を殺してきた裏稼業をしてきた者ということは気づいている。

 氷のように冷たい瞳を持つ者だ。


「それと料理番だけじゃないか」


「その飯に釣られて組んでるのは君じゃないか」


「ふんっ」


 俺たちの仕事は、新王都の監視……ではなく、その隣の町だ。

 ここはフニャシア王国の王弟が領主となっており、エルシアという町だ。

 その情報を手に入れ、東の地に持ち帰る。それだけだ。


「こんな岩山の上から眺めてなにかわかるのか」


「ああ、人が沢山いる」


「そりゃいるだろうな。何を造ってるのか知らないが」


 エルシアの一部で大規模な整地を行っている。

 巨大な建造物を造っているようだ。


「それも調べるのも私達の仕事だ」


「そうか、そうだったな」


 どうもこの仕事は気乗りしない。

 怪しい動きをしている町の調査と聞いたから来たものの、ものすごく平和な町だ。

 戦いとかそういう気配の全くない町だ。

 少しは身体を動かさないとなまってしまう。


「んっ!? うっ!? 敵が来るぞ!」


 〈霧の声〉はごく近い未来の予知ができる。その力によって、敵を感知した。

 彼女は幻術ですっと消え、俺は剣を構えた。


「後ろだ!」


 見えない彼女から声が上がる。

 俺は慌てて後ろに振り返り、そこに居る者に斬りかかった。


「無駄ですわ!」


 キンッと俺の剣は、それが持つ大剣によって弾かれた。

 そこに居たのは真紅のドレス。クリーム色の髪をして、炎を纏った大剣を持った女。

 俺はこの女を知っている。


「アラキア平野の〈不死鳥〉……!」


「あら? わたしはそんな名で呼ばれていますの? なかなかカッコイイですわ!」


 女はブンブンと大剣を振り回した。炎が軌跡に舞う。


「それであなた達はこんなところで何をしておりますの? 観光かしら?」


「逃げろ! 俺は食い止める!」


 俺は〈不死鳥〉に体当たりを仕掛けた。

 俺は準怪力者だ。5秒……いや3秒押さえれば俺のパートナーは逃げられるだろう。

 〈不死鳥〉は軽く微笑み、剣の腹で俺を横から殴りつけた。


「ぐっ! がっ!」


 俺は岩肌の上を転がった。

 一撃でガードした左腕と、肋骨が数本折れた。

 もはや再起不能だ。だが俺は――


「守るんだ!」


 俺は石を持って立ち上がる。

 怪力者が石を投げれば、それだけで凄まじい武器となる。俺は知っている。


「うおぉおおおお!」


 俺は全力で石を女に投げつけた。

 ズキンと胸が痛む。呼吸が苦しい。

 〈不死鳥〉は投石を、事もなげに大剣で右の弾き飛ばした。


「がっ!」


 そこには、姿を消してダガーを構えた〈霧の声〉がいた。

 石が右足の脛に当たって跳ねた。


「なっ! なぜ逃げなかった!」


「ふふっ……、逃げるより二人で倒した方が早いでしょ……」


「馬鹿なやつだ……」


 肋骨を折った戦士と、足を怪我した暗殺者。

 相手は戦場の中心で大立ち回りし、魔法で貫かれても復活した〈不死鳥〉。 

 死を覚悟したが、悪くない。

 何もできずに投石で死ぬよりは、化物に燃やされる方が死に様としては良い。


「あの、いちゃつかないでくださらないかしら」


 ふぅと女はやる気なげに大剣を下ろした。

 俺達は緊張を解かず、油断はしない。

 相手がそんなことで戦意を失ったのなら、それはチャンスだ。


 俺たちはお互いの合図なしに、同時に攻撃を仕掛けた。

 俺は蹴りで、〈霧の声〉は姿勢を低くしてダガーで太ももを狙う。


「んもう、何やってるんですかシュカは」


 ひょいと攻撃対象が消えて、思わず俺はつんのめった。

 そこには銀のドレスを来た髪の長いプラチナブロンドの背の高い女性がいた。


「あら、怪我をしていますね。大丈夫ですか?」


 身体を触られると腕と胸がかあっと熱くなった。


「あっ……ぐっ……」


 痛みは消えて、むしろそれが快感となる。

 一瞬意識が飛びそうになり、頭を振る。


「な、治ってる……!?」


「いったいあなたは……」


 女性はスカートの裾を持ち上げた。 


「ここの領主エルシア・エルシュです。わたくしの妻がご迷惑をおかけしたようで……」


「先に斬りかかったのは相手ですわ!」


 りょ、領主……!?

 確かに召し物も装飾品も上等品だ。


「その通りだ。先に斬りかかったのはこちらです。申し訳ございません」


 俺は膝をついた。

 手の震えが止まらない。

 〈霧の声〉も同じようだ。


「何やってるんだ? そんなところで」


「ちょっと手合わせをしただけですわ!」


「こんなところで誰と……あれ? 懐かしいな少年!」


 俺はその声の様子に内心首を傾げ、表を上げた。

 そこには4年前と変わらないままの、桃色髪の少女の姿があった。


「ぺ、ペリータ様!?」


「あら? お知り合いですの?」


「私が昔連れてた奴隷だ」


 少女の姿はそのままであったが、その表情は昔の思い出とは全く異なっていた。

 そうか。彼女は居場所を手に入れたのか。


「そっちの魔力も見覚えあるぞ。エルシュを買った時に居た女だ」


「え? わたくしは覚えていませんが」


 領主は「はて?」と左手を頬に当てた。


「まあなんだ! 二人共うちに来なよ! 歓迎するぞ!」


「そ、それは……」


「大丈夫だよ、牢に入れたりしないって! あれだろ、偵察潜入だろ? 好きなだけ側で見ていっていいぞ!」




 そして俺たちは本当に歓迎された。

 〈霧の声〉は不審に思いつつ警戒していたが、毒がないとわかると食事にがっついた。

 風呂と着るものとベッドまで用意された。

 ベッドが一つだけだった事には困ったが。


 次の日、俺たちは偵察していた工事現場に案内された。


「ここはな、魔法コロシアムを造るんだ! そして魔法学園を並立させる! それでわくわくする魔法対戦を毎日行うんだ!」


「魔法コロシアム……? 魔法学園……?」


「そうだ。魔法使いを沢山増やすんだ。素晴らしいだろう?」


 俺にはよくわからない。

 しかし元主のキラキラした目で語るそれは、きっと素晴らしいものなのだろう。


「魔法はな、人の願いを叶える力なんだ」


「願いを叶える力……ですか」


「そうだ。人を殺すためではない……目的によっては手段を取らざるを得ないこともあるが」


「アラキア平野では魔法で沢山の死者が出ました」


「そうだな……それでも本当は、死者を出さないために戦ったのだが」


「……申し訳ございません。失言でした」


 王都では死者がほとんど出なかった事は知っている。

 そして新都に移ることにも協力したことも知っている。

 フニャシアがトラヴィニアを滅ぼそうとしたわけではないことはわかる。

 今ではあの旧王都、呪われた眠都を救うためにフニャシアはやってきたと言われている。


「そうだ、少年は魔法は使えるか」


 ペリータ様に取っては今でも俺は少年なのだろうか。

 背丈は4年前よりは遥かに高く、今では元主を見下ろすほどの差だ。


「俺は、準怪力者なので魔法は使えません」


「あれ? 言ったことなかったか? 少年は橙色の魔力をしていると」


「はい。そこから二つ名は〈燈の剣〉と名乗っています」


「私からすると魔法の分類なんて曖昧なんだ。少年は準怪力者であるが、それと同時に熱魔法が使えるはずだ」


「そうなのですか?」


 体温が高い、とは言われた事はある。


「雪山では少年の熱魔法が私を守ってくれただろう。私を助けようと願って魔法を使ってくれたおかげだ。助けてくれてありがとう」


 目が合った。

 あの頃と変わらず、主は宝石なような碧い綺麗な瞳の少女だ。

 俺は守りたかった少女を、守れていたのだ。

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